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第10章 3 ジナイーダの家

「ここよ」

 丈の低い塀に彫られた番地を指差し、アリーが小声で言った。レンガ造りのこぢんまりとした、けれど居心地はとても良さそうな家だ。塀の中の庭で、誰かが土いじりをしている。覗いた三人は、あれがジナイーダだろうかと顔を見合わせる。

 彼女は手入れの行き届いた庭に、チューリップを植えようとしているようだ。ふかふかの腐葉土が詰まったプランターと、埋められるのを待っているニンニクのような球根に囲まれて、彼女はこちらに背を向け屈んで作業に没頭している。

 三人はさっと目を交わし、暗黙の了解でマリヤが声をかけた。

「すみません……あの、アカトヴァさん?」

 すぐに振り向いた彼女は、三人の見知らぬ子どもたちが覗いていることに驚いた。だが、コーリャとマリヤが人懐こい笑みを浮かべたのにつられてにっこりと目を笑わせた。四十半ばに見える女の人だ。明るい茶色の髪の毛は丹念にカールされていて、華やかな印象を与える。少しずれた丸眼鏡を直し、日除け帽子を取ると人の良さそうな顔立ちが白日の下に晒された。

「はい?」

「失礼ですが……ジナイーダ・アカトヴァさんですか?」

 女性は笑いながら手を振った。

「いやだ、ジナイーダは娘ですよ! あんたたち、ジナイーダのお友達ではないの?」

「えーっと……」

 口ごもるコーリャの横で、マリヤが明るく答えた。

「あたしたち、ジナイーダと文通をしていたんです」

「そうだったの。だから、会いに来てくれたはいいけど、私とジナイーダを勘違いしたのね」

「そうなんです。娘さんは今……?」

「うちの中でパパに勉強を教えて貰っていますよ。呼んでくるから待っていてちょうだいね」

 泥で汚れた手をはたきながら、ジナイーダの母親は家の中に入っていった。三人は誰からともなくほっと息を吐く。

「まずは第一関門通過!」

「意外と……何というか、普通の家族だよな」

 マリヤが驚いたように呟いた。

「アリーはあまりしゃべっちゃ駄目だよ。動画を見られているかもしれないから」

 それから少し経って、扉が開いた。


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