第10章 外出
翌朝、マリヤがコーリャに外出しようと持ちかけた。昨日のようなバイトではなくて、行きたいところがあると言う。二人かと聞くと、アリーも一緒だと言うから驚いた。
「警察に見つかったら危ないじゃん」
「変装していけば問題ない。それに、いつまでもこんな狭い所に閉じ込めていたらアリーも腐ってしまうよ」
シロンが呟いた。
「悪かったね、狭い部屋で」
アリーがくすりと笑い、帽子とサングラスを取り出した。
「アリーは平気? 怖くないの?」
「うん、大丈夫。ちゃんと案内するから任せてよ」
案内?
「一体どこに行くのさ」
「まあ、いいからついておいで」
「シロンも来る?」
シロンは何故か悲しげな顔をして首を振った。
「僕は……その、窓がこんなになっちゃったし、留守番してるよ」
「ありがと。ごめんね」
「気にしてない。それより……気をしっかり持って」
「え?」
重苦しくコーリャを励ますシロンに、何故かマリヤが顔をしかめてみせた。
帽子にサングラス、それにマリヤのマフラーを首に巻いてしっかり顔を隠したアリーが二人を先導する。バスや地下鉄には乗らないと彼女は言った。歩いて行ける距離なのだ。ただし三十分以上はかかる。だったら交通機関を使った方がいいんじゃないか?
ごみごみとした下町を三人で歩いていると、コーリャは故郷にいるように錯覚した。いや、生まれ育った町でも、女の子二人と歩き回ったことはなかったけど。
両側のマリヤとアリーは固い表情だ。コーリャが陽気に話しかけてもマリヤは生返事しかしないし、アリーに至っては今にも泣き出しそうな顔で胸を押さえている。
「……何かあった?」
思わずコーリャは立ち止まり、二人の女子を見比べた。
マリヤがぎこちない笑みを口の端に浮かべる。
「別に、何も。今はね」
「わたしも……」
「さっきから変だよ、二人とも」
「悪いな。どうにも胃が痛くてね」
「マリヤも? 実はわたしもよ」
「シロンも今頃、家で唸っているかもな」
「やっぱり、なんか悩んでるんじゃないか」
コーリャは眉尻を下げた。
「僕に出来ることだったら何でも手伝うよ? 相談してくれよ」
マリヤとアリーは目配せした。
「僕たち仲間じゃないか……」
「いや、コーリャ、それは分かっているんだけどね」
眉をひそめて目を閉じるマリヤの腕に、アリーがそっと抱きついた。
「マリヤ。そろそろ目的地に着くわ」
「ああ……そうか」
「なんなんだよ、もう!」
コーリャはついに叫んだ。
「静かに」
人差し指を唇に当てて、マリヤはコーリャを道の端に引き寄せた。
周囲には一軒家が多いようだ。庭付きの年季が入った二階建ての家や、壁がまだ真新しく輝いている新築の家が混在して立ち並ぶ。時折通りかかる犬を連れた住人は、三人が道の隅に固まっていても知らんぷりをする。
マリヤは大きく息を吸い、ポケットから一通の手紙を取り出した。
「あ!」
コーリャはすぐに気がついた。
「ジナイーダ・アカトヴァ!」
「そうだよ」
マリヤはアリーにしがみつかれたま__いや、今は彼女がアリーにすがっているのだ__はっきりとコーリャに告げた。
「今から、こいつに会いに行くよ」
コーリャはぽかんとした。それから、返された手紙を受け取り、中をあらためた。読めない。いくらかの単語が推測できる程度だ。




