表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/98

第4章 5 

 着替えを取りに帰った後、ホテルの前で待っていたシロンと合流した。明日の朝までは自由時間だった。

「親御さんには許してもらった?」

 シロンの問いかけに首を振る。

「どうせ向こうも夜遅いから。僕がいなくても気づかないよ」

 シロンはちょっと首を傾げた。

「心配するんじゃないかな?」

「大丈夫。ウチは放任だから」

 放任という言葉は好きだ。自由の象徴だから。寂しさはあるがやりきれなさは大分薄れる。

「どこか案内しようか? 買いたい物はない?」

「大丈夫」

 さっきのコーリャと同じ口調でシロンは言った。

「何か買うつもりはないから」

 近くで聞いていたガイドが、鼻で笑った。シロンは少し顔を赤らめたけど、気にする必要はないとコーリャは思う。

 それから夜になるまで、シロンとコーリャは一緒に遊んでいた。打ち合わせで抜ける間も、彼は待ってくれていた。こんなに打ち解けられたのは初めてな気がした。

 夜中になっても話し足りず、二人はベランダに出た。シロンの母親は部屋の中で、ぼんやりと写真を握って座っていた。時折、シロンは部屋の中を振り返り、母親の姿があることを確認する。

「僕のことを待っているんだ」

 シロンは呟いた。母親のことだとコーリャが気づくのに少し時間がかかった。

「あ、ごめん。長居しちゃった?」

「ううん、ここにいて」

 シロンはベランダの手すりにだらしなく肘をつく。

「この後、母さんと出かけるんだ」

「い、今から?」

「うん」

 もう夜中なのに。

「夜出歩くのはよした方がいいよ。ちょっと危ないから」

「大丈夫だよ」

 シロンは常に静かな口調で話す。動揺したり、声を荒げることは滅多にないのだろう。

「僕たち、見て分かったと思うけど、すごく貧乏なんだよ」

 シロンは言った。

「父さんは僕が赤ちゃんの頃にこの辺りで戦死した。だから、父さんの墓を探すためにツアーに参加したんだけど……この先の生活費全部はたいても、まだ参加費には足りなかった。だから僕と母さんで沢山働いて、ありったけの全財産つぎ込んでここに来た」

 だから、ツアーから帰った後なんて、僕たちにはないんだよね。

 吐き捨てられた言葉にコーリャは少し怖くなった。シロンの表情は、さっきまでふざけ合っていた時と少しも変わっていない。時折母親の様子を窺いながら、淡々とコーリャに話し続ける。

 数年前にモスクワに引っ越した母親は、不安定な職を点々とし続けてきたこと。学校でもいじめを受け、まともな友だちなんて一人もいないこと。

 黙って聞いていたコーリャは、やがて決断した。シロンの手を握って立ち上がらせ、有無を言わさずホテルを抜け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ