第4章 3 アルバイト
家にいる時間を極力減らしたいがために、コーリャはアルバイトを始めた。夕方学校から帰ってくると、家には寄らずにハンバーガーショップに出勤する。四時間はたっぷり働いて、帰ってくるのはいつも夜の9時を越える。持ち帰ったハンバーガーをかじりながら宿題もそこそこに済ませ、母親の帰宅より前にベッドに潜り込む。アルバイトを始めてからコーリャの夕食を用意する必要がないため、母親だって喜んでいるはずだ。
休日にも短期のバイトを入れることがある。時給ではなく日給だが、なかなか馬鹿にできない金額だ。友だちと遊びに行って貴重な金を浪費するよりはよっぽどいい。
今度あるのは、観光ツアーのガイド補佐だ。知り合いのロシア人が持ちかけてきた。SNSを通じて知り合った同じ街の大人だが、コーリャは結構可愛がられている。ロシアに行きたい、憧れていると言ったから。
彼の紹介でツアーの主催会社の面接を受けたが、ロシア語が苦手な割にはすぐに採用された。希望者が他にいなかったのだと、後で知り合いに耳打ちされた。
「ロシア語の特訓をした方がいいでしょうか?」
コーリャは雇い主であるロシア人にそう尋ねた。
「簡単な意思疎通が出来る程度なら、問題はないよ。むしろ、相手さんはウクライナ語を話す子の方が物珍しくて喜ぶかもしれない」
主催者はそう言って、そのまま当日の打ち合わせを始めた。ツアー客は一つの集団で二十人。専属のガイドがロシアから同行しているが、そっちはウクライナ語も難なく話せるので心配する必要はない。持ち物は。集合時間は。
ガイドの補佐ということは、雑用係だ。気配りと腰の軽さが必要になってくる。幸いコーリャはバイト先でも重宝される働き者である。チップを貰ってもいいが、ルーブル紙幣を渡されたら為替の場所に気をつけること。間違っても銀行に持ち込んではいけない。できるだけ主催会社に相談するのが好ましい。
注意すべきことはいろいろあるけれど、コーリャはツアーへの同行を楽しみにしていた。やってくるのはロシア人だ。いろいろな話を聞かせてもらえるかもしれない。
母親には勿論このことは内緒だ。当然嫌がるだろうけど、何も知らなければ痛くも痒くもない。自宅の近くをバスが通るかもしれないけれど、顔を出さなければいい話だ。




