第1章 1
読み苦しい点が多々あると思います。なにとぞご容赦ください。
この小説で私が書いたようなことが、ただの感傷的なたわごとであることを心から祈っています。
電車が走っている。
国から国へと渡る長い列車である。
ところどころ歪んだ線路を噛み、無数の小石を跳ね飛ばし、轟音をたてて通り抜けるその姿を、近隣の住人たちは複雑な表情でもって眺めている。中には唾を吐き、他人にはとても聞かせられないような悪態をつく者もいる。
しかし、その中に誰が乗っているのか、知っている者はいなかった。一瞬のうちに通り過ぎる列車の四角い窓は、内側から黒い厚紙で一分の隙もなく目隠しされている。内側にいる者がはがそうとしても無駄である。各車両に一人以上配置されている見張り役が、耐えず乗客の動向を注視しており、窓に少しでも手を伸ばそうものなら鋭い怒声が飛ぶ。
見張り役の発する言葉を理解できる乗客もいるし、そうでない者も多い。彼らの生まれ育った地域はばらばらである。ただ皆同じ出来事を大きなきっかけとして、こうして列車に乗せられ、市場に出荷される羊の群れのように同じ国に向かおうとしている。
彼らは深く傷ついている。そして、これからの人生でさらに痛めつけられることだけは決定づけられている。それは彼らのような幼い子どもにはどうにもできなかった理不尽であり、暴力である。だが、これから向かう先で出会う大人たちは、もし子どもたちが悲しい思いをしても、自業自得だと思っている。最初から我が国に生まれてこなかったのが悪い。分不相応にも、我らに刃向かったのが悪い。せっかく素晴らしい我が国に連れてきてやったのに、辛気臭い顔をしているのが悪い。
身動きもできないほど窮屈に、鉄の箱の中に押し込められた、1万3千弱の子どもたち。彼らには勿論、それまでの物語があった。あるいは幸福で、あるいは少しだけ不幸で、もしかするとどうしようもなく惨めだった。だが、今年、2022年の3月に物語は大きな転換を迎えた。
目的地のロシアに到着した後、物語の主人公は姿を変える。名前も変わり、家族も変わり、別の人間になる。どれほど長い話になるかもまだ分からない。この中の何人かの物語は恐らくあと少しで結末を迎えるだろう。しかし誰もそれを知らない。知るはずがないのである。
ウクライナ生まれの子どもたちは、もうすぐロシアの子どもたちに変わる。