一
ひよこに転生して、ささやかな喜びを感じた。
俺は絶賛・絶世のハーフ美女の膝枕を堪能中だった。
「親が見つかるまで、保護しよう」
「あ、ありがとうな」
人形のような目に、俺は赤面してしまった。学内をとてとて歩いていたところを、白くなめらかな手ですくって休ませてくれた。彼女は俺が喋っても、全く動揺しなかった。
「自己紹介まだだったな。俺は、リューガ。ここでは親じゃなくて人探しをしている」
「自分は、森エリス。本学の文学部日本文学国語学科教員である」
「そうなのか、エリス、でいいか?」
構わない、とエリスはうなずいた。
「エリスの同僚に、宇治紘子がいるはずだ。どこにいるか知っているか?」
文学の先生だから、これだけで「俺が探している人物は、宇治紘子だ」と分かるだろう。
「宇治なら、研究棟にいると考えられる。二限は講義が入っていないため、個人研究室または共同研究室にて事務を行っている可能性が高い」
儚げな容姿をしているのに、固いしゃべり方をするよな。シンドーク(9の世界で会った仲間だ)と馬が合うかもしれない。
「研究棟に連れて行ってくれ」
エリスはまばたきをせずに、俺をハンカチに包み、立ち上がった。早くに「金時」を助けてやれそうだ。
「森君、そこにいたのかね。心配したのだよ」
色気をわざとにおわせている声。いけすかないロマンスグレーのおっさんが、走ってきた。
「出勤時に女性達に囲まれ、君と離れ離れになってしまって……抜けるのに手間取ったのさね」
男の勘がはたらく。アイツはとんでもない「好色男」だと。三千人斬りは少なくともしているな。
「上司の近松である」
エリスがそっと教えてくれた。いい香りだ。ずっとそばにいられないのが、惜しくなる。
「ふぬ、そやつは?」
長身にして筋骨隆々な近松が、俺を今すぐにでも叩っ斬りそうな気を放ってにらんだ。
「リューガである、宇治先生を探しているとのこと」
「捨てなさい、そやつは欲情の匂いが漂う」
アイツは、俺の女性遍歴を察しているみたいだ。
「異類婚姻譚が成立すると、先生はお考えなのだろうか」
エリスもあっさり官能的なことを言う。
「君の身を案じているのだよ。私にひよこを渡しなさい、トマト煮込みにしてくれる」
近松が腰に差した物を抜いた。
「おい、短刀じゃねえか! 捕まるぞ!」
「口を慎め、ひよこ。帯刀許可は役所から下りている。なに、痛みは与えぬよ、士族の誇りにかけて、私が責任を持って捌くゆえ!」
刀が俺の胸に迫る!
「本朝は、殺生を禁じる教えがあると聞く」
『……!!』
俺と近松の目が点になった。エリスが金属の百合で刀を防いだのだ。
「リューガ、逃げよ。自分は案内ができない。『日本文学課外研究部隊』に頼ることを勧める」
「お……おう、すまん!」
ここはエリスに任せよう。「日本文学課外研究部隊」だな、しっかり覚えたぞ!!
リューガ君、申し訳ない、エリスor近松には憑依させてやれないのです。どちらに憑依してもかなり得をするのだが……近松が許してくれない、そしてトマト煮込みにしてやれない。とにかく小さなあんよで走るのだ、あのヒロイン達と邂逅を果たすのだ!