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乙女の夢

 後日、パウエルを引き取りにオーディンがやってきた。少年ふたりを連れている。ひとりはこれでもかと身を固くしていた。


「これで許せ」


 無作法に酒瓶の首を持ってギュイオットの机に置いた。シンプルに封蝋の刻印のみ押され、製造番号が瓶底に印されている。王家のみに献上され一般には出回らないため、正式な名前すらつけられていない。褒美として臣下に下げられることはあるが、金銭で贖えるものではないから、値段もまた、つけられない。

 呼ぶときは醸造熟成に使われる(バレル)より「ホワイト・オーク」、または原材料が小麦であることから「ウィート」がこっそりと通り名となっている。


「これはまた……。パウエル、高く買われたものだね。よかったじゃないか」


 にっこりとした笑顔は、あてこすりか真実喜んでいるのか。連れ去られる予定の騎士は若くその味や価値を知る由もないが、元上司に頭を深く下げた。

 続いてオーディンは身を翻し、シーラに向き合う。


「貴殿には、こちらを」


 差し出された花束の花びらに顔が埋もれそうになった。押し付けられたので両手で受け取ってしまったが、もらう謂れがない。だから確認してしまった。


「こちらはギュイオットさまに、でございますか?」

「違う。貴殿、個人に」


 シーラひとりに贈ったものらしい。


「無遠慮ながら、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか……?」

「礼だ」


 二文字では足りないことを、オーディンは理解していない。


「シーラ」


 指先でギュイオットに呼び寄せられる。歩く度に、包装からはみ出てしなだれた埋め草の小花(フィラー・フラワー)が揺れてあごを撫でた。


「オーディンが言いたいのはね、『以前相談に乗ってくれたお礼だ。きみの好みがわからないからとりあえず感謝の意として花を贈る』ということだよ」


「ひぇ」


 ギュイオットによるオーディン語翻訳を噛み締めながら、花束を眺める。振り返れば花束によってふんわり風が起こり、さわやかな甘さの香りが追いついてきた。オーディンに向かって、弾けんばかりに心からの笑顔を浮かべる。


「このように華麗なお花を、ありがとうございます。とても素敵で驚きました。嬉しいです」


 清廉な騎士からもらう、乙女の夢と憧れをふんだんに詰め込んだブーケ。

 オーディンは口角を上げただけで、何も言わなかった。


 パウエルの後継には同じく新米騎士を、オーディンの別のお付きにはまだ正式に騎士でもない少年が選ばれた。訓練こそ終えていないが、教官や周囲からの評価も高いという。見習いの身ならば終始あのように神経を張り詰めていても仕方ない。

 どうせ頻繁に顔を合わせるだろうと、オーディンは軽くパウエルをさらっていってしまった。

 代わりにギュイオットのために置いていかれた新人のダンカンは気質がパウエルに似ていて、執務室の空気に大きな変化はない。なにやら桃色の花びらがふわふわ浮いているように思えるが、断じて気のせいだ。


 シーラはいち早く腕の中にある幸せの具現を花瓶に挿して鑑賞したかった。


「ギュイオットさま、こちらのお部屋に飾ってもいいでしょうか?」

「え、やだよ。この部屋に置いてたら私がオーディンから花束もらったみたいじゃないか。気色悪い」

「そ、そうですね……」


 浮かれすぎていた。ギュイオットにほんの少し現実に戻され、納得した。これは家に持ち帰るべきだ。


「シーラが責任持ってちゃんと持ち帰ってくれないとだめだよ。そんなに可愛らしいもの、シーラにしか似合わない」


 愛しの騎士さまがシーラだけを思って、花は摘まれてまとめられたのだから。

 オーディンなら楽々片手にしていた花束も、シーラには抱えるほどもある。

 帰り道、とはいっても家の馬車に乗るまでの短い道を、豊潤な花にうっとりする顔を引き締めながら、スキップしてしまいそうな足どりを早足に変えた。




とつぜんのピンク色ですみません…。

オーディンが固すぎて甘味が足りない…!

最後にはちゃんといちゃいちゃさせますので、どうかお付き合いお願いいたします。


ギュイオットからはお礼として人気のケーキをちゃっかりもらっています。


(本文ではなくあとがきでキャラの名前間違えてたので訂正しました。Oct 31st, 2022)

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