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後編③

 一人になったイブリンは、お菓子の皿とお茶をベッドサイドに持って行った。こんなところに転生前の人格が表れる。ゴロゴロしていると、頭が冴えてくるものだ。少なくともイブリンにとっては。


「そういえば、どうしてリリーさんは私が公園に来ることを知っていたのかしら?」


 今日、最初に思った疑問である。

 今日の予定は、前々から決まっていたものではなく、今朝決まったものだ。リリーが知っていたというのならば、この屋敷の誰かがわざわざキース、もしくはリリーに使いを出したということになる。けれど、そんなことをして、いった誰が得をするというのか……。言ってはなんだが、相手は侯爵家の令息に好かれているとはいえ、ただのメイドである。金払いがいいとも思えない。悪くすれば、職をなくすだけである。


「私から嫌がらせを受けていたっていう話も気になるわね」


 なにせ、イブリンはキースとリリーに関わらないようにしていた。また原作中のリリーは恋愛小説の主人公だけあって基本的にはいい子である。よくある悪役令嬢のヒロインみたいに、自分がいじめられていたと嘘をつき、攻略対象の気持ちを惹き付けようとするような子ではない……はずだ。


「まさか、私がいじめないから、私の周りの人がリリーをいじめているんじゃないかしら? そしてリリーはそれを私の仕業だと思って……」


 これはイブリンにとって納得がいく考えだった。自分もリリーも嘘をついていないとしたら、答えは第三者がいるのだ。けれど、自分には取り巻きなんていない。


 イブリンは、大きく首を傾げてから、バタンとベッドの上でひっくり返った。


「情報が足りな――い!!」


 と、コンコンコンコンとドアをノックされる音が聞こえる。モーアが戻ってきたのかもしれないと、少々姿勢を正して返事をする。


「どうぞ」


 モーアではない、別のメイドが「失礼します」と入ってきた。その手には、今日の洗濯物がある。


「お嬢様、こちらのシミなのですが……」


 メイドが示したこすれたような2点の薄くついた焦げ茶色のシミ。そのシミを見た瞬間、イブリンの脳の中でパズルのピースが急速に埋まっていくのを感じた。



   ◇◇◇◇◇



「お前から呼びつけるなんて、とうとう自白でもする気になったか?」


 キースはモーリス伯爵家のソファの上でふんぞり返った。そこをまあまあ、となだめるのは先日の警察官だ。けれど、警察官もイブリンに呼ばれた理由が分からない。


「今日、お呼びしたのは、犯人が分かったからですわ」

「え!?」


 キースよりも警察官の方が、慌てて立ち上がった。


「それは本当ですか!?」

「もちろんですわ。けれど、その前に、手紙でお願いしたことを教えいただけるでしょうか?」

「それは……まあ。ですが、この場でお知らせしてもよいものか……」


 警察官はチラリとキースを見た。


「キースに疑われているのは私ですわ。その疑念を払うためには、もちろんここでお話しいだただけますか?」

「え……ああ。それでは……」


 警察官はコホンと咳払いをした。


「えっと、まずリリー嬢の異性関係ですが……」

「はあ?」


 キースは思いきり不満な声を上げる。


「なんでリリーの異性関係を調べる必要があるんだ? リリーが愛しているのは俺に決まっているだろう?」

「えっと……。それがその……」


 口ごもる警察官を脇に、イブリンが答える。


「他にも仲の良い男性がいたということですわね?」

「まあ……。そうなりますな」

「はあ!? あいつ、浮気していたのか!? 嘘だろ!? たく、最低だな!!」


 イブリンは、「どの口がそんな事を言えるのか?」とげんなりした顔をした。


「相手は誰ですか?」


 警察官が言った名前は、先日、婚約者と大げんかした事で名をはせた子爵家の令息である。実のところ、その令息の婚約者は先日イブリンがお茶会で公園のバラの話を聞いた令嬢だ。


「他には?」


 イブリンが聞くと、キースはぎょっと目を向いた。


「他にもいるのか!?」

「はい……。まあ……」


 警察官の方がすっかり縮こまりながら、もう一人の男の名前を出した。その男にも婚約者がいる。その婚約者にイブリンは面識はないが、同じ家庭教師という縁がある。おかげでその二人の仲のおもしろおかしい噂話がイブリンの耳にも入ってくるのだ。

 殺人のあった当日の授業が急遽休みになったのは、家庭教師が別の家の令嬢に緊急な用事で呼び出されたからだという。

 イブリンは、手にしていた扇で口元を隠してニッと笑った。


(予想通りね。つまりあの日、私がバラ園に行ったのは、仕組まれていたからだわ。そして仕組んだ誰かが、リリーに教えた。そうに違いないわ)


 もしかしたら、イブリンがしたという嫌がらせは、この二人の婚約者によるものかもしれない。

 イブリンは自分の予想を、警察官に話した。


「というと、何ですか? リリーさんを殺したのは、リリーさんと親しくしてる令息の婚約者たちということですか?」

「それは違うと思いますわ」

「ほう……?」

「彼女たちがしたのは私にバラ園の話をしたこと。そして自分の家庭教師を呼び出したこと。それだけです。それと殺人とでは、飛び越えるハードルの高さが違いすぎますわ」

「そうは……そうですな」

「だから、殺人を犯したのは、彼女たちにそうするように仕向けさせた人物ですわ」

「それは、いったい……?」

「イブリン! まどろっこしい言い方はやめろ! 犯人は誰なんだ!?」

毎日更新を目標にしています。

……23:58分投稿。

間に合った……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 正直、犯人よりも主人公がちゃんと婚約破棄出来るのかどうかのほうが気になる(笑) アホぼん婚約者は、俺だって騙されてたんだとかなんとか言って婚約を継続しようとしそうだし。
[一言] 毎日投稿…明日は23:59…とか?(笑) 何とまぁ…リリーさん、あっちこっちに手を出していたのか(苦笑) そしてゴミ虫はもう少し人間性って物を持った方が良い。いつか犯罪の片棒を担がされて「…
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