王様の塔
ある偉大な王様がいました。
王様が治める国では、食べものに困る人もいませんし、眠る場所がない人もいません。
みんなが幸せで、悪さをしようと考える人もいませんでした。
王様は、みんなが幸せになれるように考えられる人だったのです。
王様には一人の王子様がいました。
あるとき王子様は王様にたずねます。
「どうしてお父様はよくあの塔にのぼっているの?」
お城のすぐ横には、空にまで届くような高い高い塔がありました。
王様は夜、よく一人でその塔にのぼっていたのです。
首をかしげる王子様に、王様は、ふぉっふぉっ、と笑います。
それは自信にあふれた、力強い笑い方でした。
「そうじゃなあ。わしにも少し力を分けてほしいと思うときがあるということかのう。お前がもうすこし大きくなったら一緒にのぼろうか」
王子様はまだのぼったことがありません。
「わかった。絶対だよ」王子様は嬉しそうに笑いました。
しかし、王様と王子様の約束が叶えられることはありませんでした。
王様は病気にかかってしまい、ベッドから起き上がることができなくなってしまったのです。
王子様は、王様の横でわんわんと泣きました。
泣いて、泣いて、ずっと王様のそばを離れない王子様を、王様も家来たちも、国中の人たちも、みんなが心配していました。
「王子よ。わしの息子よ。泣いてばかりでは何も変わらんぞ。そうじゃ、今日の夜、塔にのぼってきなさい」
「ぼく一人で?」
「そうじゃ。お前ならできる。塔にのぼって、一番てっぺんに着いたら、寝ころんで上を見るのじゃよ。それまで、ここにきてはならん。さあ行きなさい」
王様に命令された王子様は、夜を待ち、いやいや塔をのぼり始めました。
暗くて長い階段を、ランプを片手にすすみます。
壁にうつる王子様の影がゆらゆらと揺れて、王子様はどんどんと不安になっていきました。
もし、てっぺんまでのぼれなかったらどうしよう。お父様に会えなくなったらどうしよう。お父様の病気が治らなかったらどうしよう。
不安でいっぱいになったころ、王子様はようやくてっぺんにたどり着きました。
そこには大きなベッドが一つ、置いてあるだけです。
へとへとの王子様は、王様の言ったとおりにベッドに寝ころんでみることにしました。
「わあ!」
王子様は目を輝かせました。そこには夜空が広がっています。
塔のてっぺんは、天井がガラスでできていたのでした。
きらきらと星が光っています。王子様はずっとその光を見ていました。
どれくらいの時間、星をながめていたのでしょうか。
王子様は、階段をのぼっているときに感じていた不安がなくなっていることに気づきました。
星を見ることに夢中になっていたのかもしれません。
「星を見ると元気になれるんだ!だからお父様は塔にのぼっていたんだね」
王子様が笑顔でそう言ったとき、流れ星が真上を通り過ぎました。
それはまるで、星が「そのとおりだよ」と教えてくれたようでした。
王子様は嬉しくなって、王様の元へ駆け戻ります。
笑顔で戻ってきた王子様を王様は優しく出迎えてくれました。
王様になでられながら、王子様は塔で見たことを話します。
「星がいっぱい見えたよ。星って不思議だね。見ていたら元気になったんだ。それから流れ星も見えてね、なんだかぼくの言葉に返事をしてくれたみたいだったんだよ」
王様はうんうんと何度も頷きながら聞いていました。
「それはいいものが見れたのう。流れ星はいつも見れるわけじゃないんじゃ。あと少しの力がほしい時に流れ星はきてくれる。……じつはな、わしが塔にのぼるのは、あそこで力をもらっているんじゃよ」
「力?」
「そうじゃ。わしだって不安になることはある。お前と同じでな。これで合っているのか、これがみんなのためになるのか……考えて考えて、あの塔に行く。王様がずっと悩んでいるとみんなが不安になるしのう」
王子様はじっと王様の話を聞いています。
「するとどうじゃ。不思議なことに、流れ星がそっと背中を押してくれるんじゃ。大丈夫だ、とな」
「教えてくれるんだね。道しるべみたい!」
「そうじゃ。じゃが、まずは自分でしっかりと考えることが大切だ。星はちゃんと見ているからのう。お前もいつか、自分から塔にのぼりたくなるときがくるだろうて」
ふぉっふぉっふぉっ、と王様は力強く笑いました。
それは王様らしく、不安なんて吹き飛ばすような豪快な笑い声でした。
偉大な王様の国は、みんなが幸せのまま、大きくなった王子様に引き継がれました。
王子様が王様になった後も、お城の横の塔は大事にされ、ときどき塔をのぼる王子様を見かけます。
それはいつも星がきれいな夜のことです。
元気をもらっているのでしょうか。それとも不安や悩みを打ち明けているのでしょうか。
塔からおりてくる王子様は、いつも王様らしく堂々とした顔をしているのでした。
そうして王子様もまた、偉大な王様へとなっていったということです。