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天使たちはかく語りき  作者: たかはらナント
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第八話 公団住宅の少年 其の八

 公団住宅の少年 其の八



 意識を取り戻したクレマチスが最初に目にしたものは、知らない天井――という訳ではなく、知ってはいるが馴染みのない天井であった。

 シミ一つない奇麗な天井はベージュに近い白色をしていて、清潔感はあるものの無機質な感じがしてならない。

 クレマチスは、きっと、この部屋に残る薬品の芳香がそう思わせているのだと、それらの様子を知った上で、ここが【天界】の医療施設であると気付くのであった。


 ――あぁそうか。私、強制帰還されたんだっけ……。


 強制帰還により連れ戻されたクレマチスは、一旦、裸にひん剥かれると、医療用(メディカル)ポッドの中に放り込まれ、すったもんだの検査と、治療+αを施されたあと、経過観察の為にと、この個室のベッドに寝かされていた訳である。

 意識の無かったクレマチスが、その実際を知る事は無かったが、知識として知ってはいたので、どうしてこんな所に居るのかは、おおよその見当はついた。


 ゆっくりと上体を起こす。

 ベッドの他には何もない部屋であった。 

 白い壁に囲われた個室の広さは六畳ほどで、窓は無く、出入り口と(おぼ)しき扉がひとつ、無造作に貼り付いているだけであった。



 ――どこの風景も同じか……。



 室内を見回して、クレマチスはそう思った。思うと同時に、任務を失敗したと言う思いが、悔しさを伴って沸き上がってきた。おまけに、アカデミー時代の記憶までもが脳裏を掠めて責め立ててきた。




 ――あなたも『色付き』なのにまだ飛べないの? あっちの黒い子はもう飛んでるのに。




 誰に言われた言葉だったか、もう記憶の中には残っていなかったが、この言葉が切っ掛けとなって、カーミィを意識するようになったのは覚えている。

 おかげで、無茶な修練を重ねるようになり、おかげで、何度となく怪我をして、何度となく、同じ風景を見る事となった。だから、この無機質な風景を見ていると「全く成長していないのね」と、責められている気分になる。『色付き』のくせに――。


「はぁ――――――」


 クレマチスはワザと大きな溜息を吐くと、嫌な記憶を振り払うように、小刻みに頭を振った。


 こんな事ではダメだ。過去を思い出してくよくよしても始まらない。自らの汚名を雪ぐには、自らの手で払拭する外ないのだから。


 その事を身に染みて知っていたクレマチスは、自らを鼓舞する為に、自らの頬を叩くのであっ――。


 ――?


 ――と、叩く前に違和感に気付く。


 ゆっくりと視線を移し、両腕を広げてみると、代わりに着せられていた薄いピンクの寝巻きが大き過ぎると気が付いた。明らかにサイズオーバー。長すぎる袖丈が、指先にまで被ってダブついていた。


 ――何よこれ。


 思わず、頬が引き攣ってしまう。


 袖丈だけの問題であれば、折り込んでしまえば、まぁ我慢できなくもない長さではあったが、この胸の辺り――特にこの部分だけはどうしても頂けなかった。これ見よがしに出来た「ゆとり」は当て付けのようにも思えてきて、不快以外の何ものでもなかった。


 ――もっとマシなサイズは無かったのかしら?


 思わずそう呟く。

 不快ついでに布地を摘まんで引っ張ってみる。

 と、


 ――!?


 襟元から垣間見えたその肌に、奇怪な痕跡がある事に気が付いた。

 慌ててもっと引っ張って、中を覗き見る。――と、胸元からお腹に掛けての範囲に無数の丸い痕が付いていて、その傍に、いくつもの意味不明な数字が記されている事を知った。


 ――何よこれ……。


 もっと不快な気分にされる。

 これはいったい何の痕跡なのか? 治療――にしては不可解過ぎる。


 ――もしかして!?


 この時、クレマチスは、一つの噂を思い出すのであった。




 ――この施設には、一人、マッドサイエンティスト(女性)が居るらしいわよ。と。




 もっと頬が引き攣ってしまう。


 噂の出どころが、どこの誰であるかは知らなかったが、そのマッドサイエンティスト(女性)は数多の治療技術を確立した「天才」であるにも拘らず、実験の為ならば、緊急搬送された怪我人であっても躊躇なく毒牙に掛ける「天災」なのだと囁かれていた。

 実際に会った事は無いし、見た者もいない。本当に居るかどうか定かではないのだが、自身の身体に記されたこの痕跡が、理解しがたい事は事実であった。

 果たしてこれは「天才」の手による治療の痕なのか、はたまた「天災」の手による実験の痕なのか――。


 クレマチスは、その痕跡を見つめながら、しばし頭を悩ませる。

 首を斜めに捻り、眉根を寄せて、無音の呻きを漏らす。

 そして、ひとしきり悩んだ後、しばらく息を止めたかと思うと、諦めたように、また、大きな溜息を吐いた。


「はぁ――――――」


 ――今は止めよう。唯でさえ、任務失敗という汚名を払拭しなくてはならないのに、これ以上こんな事に気を取られていては、本来のやるべき事を見失ってしまう。

 意識を失くしてからどのくらい時間が経ったのか、そんな事さえ正確に分かってもいないのに、いつまでもグダグダと考えて、無駄な時間を費やしている暇はない。強制帰還の搬送等で一時間、医療用(メディカル)ポッドでの運用等で二時間、その他雑多な時間をざっくりと合わせてみても、きっと、四時間も経っていないと思う。

 だとすると、統括本部からの応援が到着してから、それ程時間も経っていないはず。

 それならば、復帰の許可さえ貰えれば、まだ、汚名を雪ぐチャンスは十分に残されている。本当にこんなくだらない事に、時間を取られている場合ではないじゃないか――。


 クレマチスは、そこまで思い直して思考を閉じると、すぐさま、早口言葉を唱えるかのように、「これは治療の痕、これは治療の痕、これは治療の痕――」と、繰り返し、呟くのであっ……。


 呟くのであっ……。


 呟くの……。


 呟――。




 ――んな訳あるかっ! どう考えても変な事されとるわっ! こん畜生っ!!




 クレマチスは、繰り返していた言葉を突如として途切れさせると、掛かっていた毛布を吹き飛ばし、力任せに寝巻きの裾を捲りあげて、身体に付いた痕跡を穴が空くほどに再確認した。

 こうなったら、納得いくまで調べてやる!

 クレマチスは涙をちょちょ切らせてそう息巻いた。


 さっきから思っていたが、この無数に付いた丸い痕、どう見ても文様を描いてあるようにしか見えない。言うなれば魔法陣。これが治療の痕だと言うのなら、いったい何の治療だと言うのだ。良くて祈祷、下手すりゃ呪術か魔術じゃないか、中世期じゃねぇってんだ、馬鹿野郎!


 それに、この、一緒に書かれてある数字たち。大きさもバラバラ、順序もバラバラで、連続性も法則性もあったもんじゃない。フェルマーの最終定理の方がよっぽど分かりやすいってなもんだ、この唐変木!


 そして極めつけはこれ。何だこの脇腹に記してある文字は! どこをどう見ても『へのへのもへじ』と書いてあるようにしか見えない。いや、まさしく『へのへのもへじ』と書いてある。これがいったい何の治療だってんだ。世に出回る案山子(かかし)の顔は、全て治療の痕だってーのか、べらぼうめぃ!


 この時、ふと、クレマチスの脳裏に嫌な考えがよぎった。もしかしてこれは、全く別のものじゃなかろうかと。

 自らの身体に刻まれたこの痕跡が、「天才」の手による治療では無く、ましてや「天災」の手による実験でも無く、もしかすると、これは第三者の手による――。




 ――唯のらくがきじゃねぇのか、この野郎!!!




 この想像を皮切りに、クレマチスは自棄(やけ)になって身体中を調べて回った。裾を捲り、袖を捲り、そして、ズボンと一緒に下着をも捲って、あらゆるところを確認した。

 もしこれが有名動画サイトであったなら、「見せられないよ」のマークがそこかしこに張り付いて、うるさかったに違いない。

 その中で、新たに分かった事は、『へのへのもへじ』の反対側には『鳥居のマーク』が描かれていた事と、両方の腕の上腕部あたりに『ヒエログリフ』のような象形文字が一周して描かれていた事と、それと、さすがに下着の中には何も描かれてなくてほっとした事と、最後に、足の裏を捲った時に『顔には書いてないわよ。ふふふ』と書かれてあった事であった。おい。


 思わず「ご丁寧にどうも」と言いたくなる。怒りとも呆れとも言った感情に、眉尻が反応して勝手にピクピクと動いてしまう。もしかすると、マッドサイエンティスト(女性)の噂は、全部この悪戯書きの所為だったのではなかろうか? そんな考えが脳内に浸透し支配していく。

 つまりこれは、医療技師たちによる日頃のストレスの発散であったのだ。誰かの始めたこの悪戯が、実験と称され、一人勝手に歩き出し、尾ひれはひれをくっつけて、いつしかマッドサイエンティスト(女性)の偶像を作り上げてしまったのだ。

 そう、そうに違いない。だからこの痕跡は、全く気にする必要などなかったのだ。もし良心的に取るならば、医療用(メディカル)ポッドに入った者たちへの「早く元気になりますように」との祈りを込めた、願掛けのようなものであったのかも知れない。たしか人界にも骨折した時なんかのギプスに、落書きを書いて励ます風習があると聞く。

 そう、きっとそれだ。看護にやってきた担当官に聞いてみれば、同じような話が返ってくるに違いない。多少の腹立たしさは残るものの、そう言う事であるのなら、そこまで目くじらを立てる程の事でもなかった。

 うんそう。間違いない。これならマッドサイエンティスト(女性)が、誰にも目撃される事の無かった理由と、緊急搬送された者にも躊躇なく施された理由とも結びつく。

 良かったスッキリした。これで、心置きなく任務復帰に集中できると言うもの。今からは全身全霊、汚名返上の為に尽くさなくては。あは、あはは、あはははは――。


 クレマチスはまるで憑き物が落ちたみたいな晴れやかな顔をすると、今度はいきなりぐるぐると腕を回して派手に動き始めた。一体何をやってるのかというと、クレマチス曰く「精神的にすっきりしたのだから、今度は身体がちゃんと動くかどうか、確認作業をするに決まってるじゃない」である。

 何ともご苦労な事である。と、言ってるうちに腰までくねくねと動かしている。やれやれである。


 と、今ここで、――おや? とか、――うん? とか、――あれ? とか、思われた諸兄方。正解だが、見過ごしてやって欲しい。


 強制帰還により連れ戻されたクレマチスは、当然、【悪意】の浄化が済んでいる事を知らなかった訳である。『緊急警戒配備』が程なく実施されたと思い込み「早く任務に復帰して、汚名を返上しなければ」と、くねくね動いているのである。こう見えて、クレマチスは真面目なのである。落ち込むのはそれからだ、と、頑張っているのである。


 ただ――。


 確認作業とは言うものの、その行為は見ての通り、寝巻きの上から身体を触ったり、覗いたり、撫で回したり、動かしたりする単純なものである。傍から見れば、まるで、幼稚園児のお遊戯、ともすれば、発情期に悶えるメス猫のように見える。

 なので、その点に関しては――。




「身体中まさぐって、何を悶えているのかしら?」




 ――見過ごせない者がいても仕方ないのである。


 突然、耳元でしたその声に、クレマチスは飛び上がるほどに驚いた。

 慌てて振り向き確認すると「フフフ」と微笑むアドニス=アムールが立っていた。

 口元を指先で覆ったアドニスの微笑は、上品を装ってはいるが、どう見ても、いたずらが成功した幼稚園児のように得意気である。つまりはワザと――。そう言う事である。


 クレマチスは咄嗟に自身の身体を抱えると、


「な、ななななな何よ! も、悶えてなんかいないわよっ!」


 と、否定の言葉を口にした。しかし、不意を突かれた所為もあってか、それ以上の言葉が出て来なかった。

 何気に、会話の順序も飛んでいる気がするのはクレマチスが慌てている証拠である。本来であれば「どこから入って来たのよ!」とか「いつから居たのよ!」とか、先に尋ねるのが筋ではあるが、まぁ本人が気付いてないならそれでも良い。


 クレマチスが否定を口にすると、アドニスはとても残念そうに表情を変えてから言った。


「あら、そうなの? てっきり、〇〇〇(自涜)に目覚めたのかと思ったのに……」


 言うと同時に科を作るアドニス。

 その仕草に、クレマチスは顔を真っ赤に染め上げると、


「め、めめめ、目覚めるっていったい何によ! そんなふしだらな事、誰がするもんですか!」


 声を張り上げ言い返す。

 と、アドニスは、一瞬、驚いた表情を作ってから、


「まぁ!? そんな意味だったなんて、全然、知らなかったわ――」


 ワザとらしく言い放った。

 クレマチスは、一層、顔を真っ赤に染め上げると、


「わ、わわ私だって知らないわよっ! 知ってる訳ないでしょ――ってか、勝手に入って来ないでよ! 親しき中にも礼儀ありって言うでしょ! せめてノックくらいしなさいよ! いたずら好きにも程ってもんがあるでしょ!」


 と、誤魔化すように、思い付いた言葉を片っ端から繋いで責め立てた。

 すると、とたんにアドニスは、片方の頬を膨らませて、


「失礼ねぇ、ちゃんとノックくらいしたわよ――」


 反論した。続けて、


「――それなのに、返事どころか、中から変な声が聞こえて来るんですもの。誰だって心配して覗くわよ」


 心外だ。とばかりに訴えるアドニス。それに対し、クレマチスは不安を表情に浮かべると、


「――え? 嘘……。私、そんな変な声出してたの?」


 すると、即座にアドニスは、


「ううん、嘘。出してない」

 

「~~~~~~!」


 思わず殴ってやろうかと思った。

 しれっとしたままアドニスは続ける。


「ホントはね、鼻の穴にピーナッツでも詰めといてあげようかな――って忍び込んだんだけど――」


「するな」


「いやよ。――いきなり変な動きを始めるじゃない。だから思わず様子を伺っちゃったのよね」


「――い、いやよって……」


 即否定された事にクレマチスは憤りを感じながらも気を取り直し、


「――いったい、いつから居たのよ」


 ようやく筋を尋ねる。

 と、指を一本、口元に添えてアドニスは、


「そうねぇ……あなたがささやかな胸を覗き見て、落ち込んでたくらいかしら?」


「ささやかは余計でしょ!」


 思わずツッコミを入れた。

 それを聞いてアドニスは、満足気に「フフフ」と微笑む。完全にワザとである。


「まったくもう――」


 クレマチスは、アドニスのペースに引っ張られないようにと、繋ぎの言葉を差し挟むと、今度は叱りつけるように文句を告げた。


「――ほとんど目覚めてすぐじゃないの。だったら驚かすんじゃなく、普通に声を掛けなさいよね。少なくともこっちは病み上がりなのよ。少しくらい気遣ってくれてもいいんじゃないかしら?」


 すると、今度のアドニスは、たちまち両方の頬を膨らませると、


「失礼ねぇ。ちゃんと普通に掛けたわよ――」


 また、心外だとばかりに、


「――それなのに気付かないまま身体中まさぐり始めたのはそっちじゃないの。いきなり〇〇〇(ナニ)を始めるのかと驚かされたのはこっちなのよ。場所が場所だけに、大きな声を出しちゃいけないと思ってワザワザ近付いてから声を掛けてあげたのに、その言い草はないんじゃないの!」


 その迫力に、クレマチスは、戸惑った表情を浮かべると、


「え、嘘……ごめん。私、そんなに気付いてなかったの?」


 思わず謝ってしまった。

 すると、またしてもアドニスは、


「ううん、嘘。声なんて掛けてない」


「~~~~~~~~~!!!」


 心底殴ってやろうかと思った。

 アドニスは、また、しれっとしたまま言葉を続ける。


「ホントはね。忍び込んだは良いけれど、残念ながら起きちゃってたから、じゃぁ後ろから『わっ』って驚かしてやろうと近付いたんだけど――」


「するな」


「いやよ――」


「い――い、いやよって、あなた……」


「――そしたらね、くねくね踊り始めたもんだから、つい、声を掛けそびれて見入っちゃった訳。まぁ間が空いた分、驚かし甲斐が出来て、結果オーライだったんだけどね」


 残念な事に、終始アドニスのペースであった。

 クレマチスは、額に手を当てて項垂れると、そのままの恰好で頭を振る。


「――もう。何が結果オーライよ。一体どこまでが本当なのよ。あなたと話していると、ホント、何が本当の事なのか、よく分からなくなって来るわ……」


 嘆きに近い言葉を口にすると、アドニスは意気揚々と胸を張り、


「大丈夫。今のは全部ホントの事だから」


 と、言うと同時に、満面の笑顔を見せた。

 何故だかパンパカパーンとファンファーレの音まで伴った気がした。


 そんな無邪気な笑顔を見ていると、まともに相手をしている自身がバカらしく思えて来る。クレマチスは「はぁ――――――」思いっ切り溜息を吐くと、諦めるように、もう一度、大きく頭を振った。


 アドニスの悪戯好きは今に始まった事ではない。なのにいつまでも、こんな彼女のペースに付き合っていたら、本当の本当に、やるべき事を見失ってしまう――。


 クレマチスは、再び、任務失敗という思いに捕らわれると「何が大丈夫なんだか――」憤った思いを呟いてから、続きの言葉を口にした。


「――もういいわ。それよりも、後の事を教えてくれないかしら」


「うん? ……後の事って?」


 ひとしきり満足したのか、アドニスが普通に聞き返してくる。と、身構えていたクレマチスは、かえって言い難そうに口ごもりつつ、


「そ、それは、その――私が……強制帰還で連れ戻された後の事よ」


 呟くように告げるとアドニスは、


「あぁ、その事ね。なら、いいわよ」


「ならって何よ、ならって」


 また思わずツッコんでしまった。

 他の事だと言えない事でもあるのかと、続けてツッコミそうになったクレマチスであったが、これ以上アドニスのペースに付き合わされると、本当の本当の本当に、話が進まない――と、なんとか思い留まると、その名残をピクピクと眉尻に残した上で、続きの言葉を口にした。

 やはり、さっき殴っておくべきであったと後悔する。


「き……緊急警戒配備が実施されてからどのくらい経ってるのかしら? 応援の規模はどの程度なの? それと指揮官は誰かしら? 私も早く任務に戻りたいから、復帰許可を貰いたいんだけど――」


 矢継ぎ早に尋ねると、アドニスは、何の抑揚も無く普通に答えた。




「――緊急警戒配備なんて、されてないわよ」




 予想外の言葉であった。もちろんクレマチスにとっては――である。

 その所為で、クレマチスは一瞬呆けてしまう。そして、遅れて驚きを表わすと、ようやくアドニスに向けての言葉を吐いた。


「う、嘘……だって【悪意】を浄化する前に、私は強制帰還されたのよ。何かの間違いじゃないの?」


 すると、アドニスはきょとんとした表情のまま否定の言葉を口にする。


「ううん、これは本当よ。そんな連絡一切受けてないもの」


 ふざけてなどいない真面目な表情のアドニスであった。


 それを認識したクレマチスは、信じられない――と、耳を疑る。かつて世界を崩壊させる寸前にまで貶めた元凶を、放置するなど有り得ない。いくら統括本部が、事の真相を隠しておきたいからであったとしても、『広範囲型』の脅威はアカデミーでも教えるくらいに周知された事実である。それなのに――。


 考えの纏まらないままではあるが、クレマチスはその思いを口にした。


「ち……ちょっと、どういう事よ。『広範囲型』の【悪意】が逃げたのよ。緊急警戒配備がされてないなんて有り得ないじゃない!」


 その言い様に、アドニスは肩を竦めると、


「私に言われてもねぇ……」


 と、他人事のように呟いて見せる。

 すると、唐突にクレマチスは、


「――そうよ。白風丸はどこ? あの子はいったい何をやっているの?」


 ようやく、白風丸が居ない事に気が付いた。

 しかし、目の付くところにその姿はない。と、なると、自室で待機しているのだろうか? それとも、自身の目覚めが早すぎて、まだ申請の途中なのだろうか? ――いや、そんな事は有り得ない。医療用(メディカル)ポッドに入れられたはずなのだから、最低でも二時間は経っている。申請するだけで、それ以上の時間が掛かるとは思えない。


 クレマチスがそんな思いから気を揉んでいると、アドニスは自身の胸ポケットをちょんちょんと突いてから言った。


「――だって、白風丸ちゃん。いい加減出てきて説明でもしてあげたらどう?」


 その声に反応し、クレマチスはアドニスを見る。

 すると、適度な膨らみのある辺りから、それこそモゾモゾと言った感じに白風丸が姿を見せた。それを見つけたクレマチスは「白風丸!」と、噛みつくように言葉を吐いてから、


「どういう事よ! 緊急警戒配備が申請されてないなんて、『広範囲型』の【悪意】がどれほど危険な存在なのか、あなたが知らない訳ないでしょう!」


 大きな声で罵った。

 その声に、白風丸は目を擦りつつも告げる。


「そないな大声出さんでも聞こえてますがなぁ……」


 欠伸ついでの声であった。どうやら、今まで眠っていたようである。


「ふざけてないで答えなさい! こっちは大真面目なのよ!」


 当然のようにクレマチスが声を張り上げると、白風丸は渋々と言った感じに口を開いた。


「――まぁ、緊急警戒配備を申請せなんだんは、要するに、その必要が無くなったから言う事ですわ」


「必要無くなった? ――って、どういう事よ?」


「あー、それはでんなぁ、あの後すぐに、お嬢がやって来て【悪意】の浄化を済ませましたんや」


「は? お嬢?」


 クレマチスは一瞬呆けて間抜けな声を吐くと、


「お嬢――ってカーミィの事?」


 と、何故だか念を押すように確認を入れた。

 すると、白風丸は、ポリポリと頬を掻いて戸惑いながらも、


「――他に誰が居りますのや」


 嫌味のような返事を告げる。

 それを聞いてクレマチスは、有り得ないと鼻でせせら笑ってから、


「いや、だって……カーミィには無理でしょ。時間になっても来なかったんだし、そんな事できるはずが――」


 ――って、あれ?


 そこまで言ってから気が付いた。カーミィが遅れたからとはいっても、やって来ない理由にはならないのだと。それに、白風丸たち【白刃鼡】を通せば、一旦、本部を介するとは言え、連絡を付ける事だって出来たはずであったと。


 とたんクレマチスは押し黙る。


 少し冷静になって考えてみれば分かる事であった。逆にどうして「来ない」と思い込んでしまったのかが不思議であった。いや、それよりも、どうしてこんな簡単な事にすら気付けなかったのか? やはり、あの子が絡むと、自身の調子が狂う――いやいや待て、そうじゃない。いくら何でも安直すぎる。他愛もない事のように思えるが、何だか思考がもやもやして落ち着かない。


 それらの事に気付いたクレマチスは、もう一度、自らの行動を省みた。


 よくよく思い返してみれば、あの時もおかしいと思っていた。自身が言い放った捨て台詞を忘れ、公団住宅の屋上に舞い戻ったあの時、どうして忘れてしまったのかと不思議に思っていた。他の誰でもない、カーミィに言い放った台詞であったのに――。


 クレマチスはその事を思い出すと、違和感のようなモノを見つけた気がした。と、追い打ちをかけるように、アドニスが決定的な言葉を言い放った。




「そう言えば、あなた。さっきから『カーミィ』って愛称で呼んでるのね。いつの間に仲直りしたのかしら? つまんないじゃない」




 その言葉に、クレマチスは、「は?」と、呆けた表情を作る。と、また、鼻でせせら笑ってから、


「私があの子を愛称で呼ぶ? 冗談はやめてよアドニス。私があの子を愛称で呼ぶだなんて、いくら何でも……ありえ……ない――」



 ――!!



 気付いた瞬間、悪寒が走った。

 起こるはずの無い現象が起こっている。

 いったい、いつから自身はおかしかったのか? そう言えば、ところどころに記憶の欠損もあるように感じられる。まさか変な実験をされた影響が――。


 ――って、いやいや違うそうじゃない。任務の途中からおかしくなり始めたのだから、少なくともそれが原因じゃない。


 クレマチスは必死に思い出す。


 カーマインから渡されたパンの名前は何だったか? 

 ――思い出せない。


 パチンコ店で篠垣咲子を監視していた時、自身はいったい何を食べたのか? 

 ――思い出せない。


 あれほど印象的なパンの名前だったのに、一言たりとも思い出せない。

 国道沿いのファミレスに入った事は明確に覚えているのに、どのテーブルについて何を食べたのか、いくら思い出そうとしても思い出せない。

 女子アナウンサーの顔や、テーブルのシミまで思い出せるのに、もう一方の事は、何かが邪魔をする様に映像がグニャグニャして思い出せない。

 有り得ない。これではまるで、思考を弄られていたみたいじゃないか。

 それはつまり、つまりそれは、えーと、えーと、えーと、あーもぅ! 何でかうまく頭が回らない――。


 と、その時であった。




 ズバァ――――――――――ン!!




 勢いよく扉が開いたかと思うと、一人の女が無遠慮に姿を現した。


「なんだ、もう起きてんじゃん」


 突然の出来事に、驚き、思考が止まるクレマチス。


 若い女であった。二十代前半くらい。青く長い髪が透き通るように輝いていて、無造作に伸ばされてはいるが、不快な感じは一切なく、むしろ野性的で格好良く(スタイリッシュに)見える。

 白衣を纏っている事から、この施設の医療技師であるとは容易に推察できたが、放漫な胸により強調された谷間が自重せず露わになっていた事から、別の場所で見かけたならば、きっと、そっち系の痛いコスプレイヤーくらいにしか見えなかったであろう。


 その女は、扉を開け放したままズカズカと詰め寄って来ると、今度は、何も言わずにクレマチスの顔をジッと見つめた。


 鋭い眼光に圧迫されて、戸惑い固まるクレマチス。

 しばらくして、


「な、何よ……」


 なんとかクレマチスが一言口にすると、その青い髪の女は「ニヤリ」口端を上げ「ちょっと失礼」と唐突に告げたかと思うと、次の瞬間、クレマチスの着ていた寝巻きの裾をむんずと掴んで一気に捲りあげていた。

 当然、数字だらけのささやかな胸が顕になる。


「へ!?」


 あまりにも唐突に事が起こり過ぎて、クレマチスの脳が処理しきれずにパンクする。ただでさえ、重大な異変が起こっていたと気付き焦っていた最中であった為に、意識がとっ散らかってパニックを起こしてしまった。

 傍で見ていたアドニスも意表を突かれ、数字だらけのクレマチスの身体を見て「あらまぁ!?」と漏らしただけに留まった。

 白風丸に至っては、再度大きな欠伸をして、寝ぼけた(まなこ)を擦っていた。


 凝固した空気が、塊となって鎮座する。


 すると、ひとしきり満足したのか、青い髪の女は、ふむふむと何度か頷いてから、無造作に口を開いた。


「四番と、二十一番に赤い斑点か――なら、最悪は通り越したみたいだね。けど、あと一時間は影響が残ると思うから無理はしない方が良いよ」


 ここでようやく、クレマチスの脳が再起動する。


「な、何するのよ――――――っ!!」


 叫ぶと同時に、女の手から寝巻きの裾を振りほどく。合わせて強烈な一発を間髪入れずにお見舞いする。




 パシ――――――ンっ!!




 と、乾いたきれいな音が、室内に響き渡った。

 と、思いきや、その一発は、女の手の平によって見事に受け止められていた。


 その事実に、クレマチスは再度驚きを見せる。本調子でないとは言え、渾身の一発を簡単に止められてしまったのだ。いったい、この女は何者なのだ!?


 クレマチスが戸惑っていると、涼やかな表情で女は言った。

 

「元気を取り戻せて何よりだね。でもこれは、命の恩人に対して取って良い態度じゃぁないよね」


 余裕しゃくしゃくの物言いがクレマチスを圧倒した。

 しかし、クレマチスとて『色付き』としての意地がある。気圧されてなるものかと奥歯を噛みしめると、その意地を見せた。


「いきなり裾を捲るだなんて、いくら医療技師だからと言っても程ってもんがあるんじゃないかしら。それに命の恩人だなんて、大袈裟な物言いね」


 その通りである。

 裾の件はともかくとして、医療用(メディカル)ポッドは【神】の技術を応用して【天使】たちが長年研究し、実用化にこぎつけた最高峰の医療装置である。その機能は完全なる自動化(オートメイション)。ポッド内に入れられた【天使】を勝手に検査して勝手に解析し、勝手に治療を施す優れものである。細胞培養機能まで付いている為、脳と心臓以外であれば、欠損した部位も元通りに再生できると言った、まさに夢のような装置である。このポッドの開発が間に合っていれば、先の大戦で、多くの命を助けられたと噂される代物である。

 その事を知っていたクレマチスは「設定を施しただけで命の恩人だ――などと大袈裟だ」と言ってのけたのである。


 ところが、その女は、


「はい、ざ~んね~~~~ん」


 そう言い置いたかと思うと、即座に指を一本クレマチスの額に突きつけて、


医療用(メディカル)ポッドによって回復できたとキミは思っているようだけどね、ところがどっこいそうじゃない。アレは病気や怪我なら完璧に治してしまう、さすがは【神】の技術と言った代物だけど、残念ながら今回のキミはアレでは治せなかったのさ。だからわざわざこのボクが、こんなところにまで出向いて来てあげたってわけさ」


 その言い様に、突きつけられた指を払いながらクレマチスは問い掛ける。


「――どういう意味よ」


 すると女は、また「ニヤリ」と口端を上げ、


「言葉通りの意味さ。今回、キミの衰弱した原因が、病気や怪我じゃなかったって事さ」


 ――病気や怪我じゃない?

 クレマチスは、その言葉を訝しみながらも、


「じゃぁ何だって言うの。まさか『呪い』によるものだ――なんて、馬鹿な事言うつもりじゃないでしょうね」


 半ば冗談半分にそう言い返すと、




「キュアノス=ファセリアっっ!!」




 青い髪の女の、更にその背後から叫ぶ声が聞こえた。

 その声に反応して青い髪の女は、一瞬、肩を竦めたかと思うと振り返って口を開く。


「や……やぁペル、久しぶりだねぇ」


「久しぶりだねぇ――じゃありません! あれほど待つようお願いしておいたのに、あなたと来たら、ホント、少しもジッとしていないんだから。これでは擦り合わせも何もできないではありませんか」


「いやぁ、ごめんごめん。あんまりにも退屈――じゃなかった、気になったもんだからさぁ。様子だけでもと思って――」


 バツの悪そうな声であった。

 クレマチスも青い髪の女と同様、叫び声に驚いた後、釣られてその背後を覗き見た。なんだか一瞬、不穏な台詞が聞こえたようにも思えたが、驚きが先行して流してしまった。

 と、覗き見たその先には『ペルマム=アルジャン』一級管理官の姿が見えた。

 ペルマム管理官は、開け放たれたままの出入り口に手を掛けながら、青筋を立てて佇んでいた。


「ぺ……ペルマム管理官!?」


 意外だと思いながら、クレマチスがその名を口にすると、ペルマム管理官は「もう少し待って頂戴」と言いたげに片手を上げてクレマチスを制したあと、丁寧に部屋の扉を閉め、『キュアノス』と呼んだ青い髪の女を「ギロリ」睨んでから言った。


「様子が気になるのはともかくとしても、あなた、ここの扉が開いたままだったと気付いてなかったのかしら? 今の会話が廊下の端にまで筒抜けだったのだけれど」


 そう言ったペルマム管理官の眉尻は、ピクピクと小刻みに動いていた。

 と、『キュアノス』と呼ばれたその女は、取り繕うように言葉を返した。


「あ、あれぇ? そうだったっけ? ちゃんと閉めたつもりだったんだけど……でもまぁキミの事だから、どうせ誰も近付かないように手配してくれてたんでしょ。なら、その程度の事、気にしなくても良かったんじゃないの?」


「――良い訳ないでしょ!」


 とたん、ペルマム管理官は、信じられないとばかりに声を荒げた。続けて。


「あなたの請け負っている内容が、どれほど重要な事なのか、分かって言っているのかしら!? あなたも、もう上の立場なのだから、少しくらいは配慮してみせたらどうなの!」


 すると、キュアノスは気圧されつつも、今度は宥めるように取り繕う。


「じ、冗談だよ冗談。本気でそんなこと思ってないって――ほら、そんなに怒んないでよ。でないとまた、眉間の皺が取れなくなる――」


「うるっさいわねっっ!!」


 ペルマム管理官は、被せるように一層怒鳴りつけると、


「だったらこれ以上怒らせないで頂戴っっ!!。私はね、あなたのそう言ういい加減なところが、以前から、大――――っ嫌いなんですからねっ!」


 ものすごい剣幕であった。任務を通達されたあの時とは、まるで別人のようなペルマム管理官の振舞いであった。クレマチスの中で描いていたペルマム管理官の凛としたイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。


「え~。そう言うなよペル~。ボクは大好きだよ~」


「馴れ馴れしくペルペル呼ばないで頂戴。煩わしい!」


 漫才のようなやり取りはもうしばらく続いた。

 その様子を、驚きとも呆れとも取れる表情でクレマチスは眺めていた。

 その中で、ふと、疑問に思った事が頭によぎる。


 この『キュアノス』と言う女、いったい何者なんだろうか? 『ペルマム管理官』と親しく話しているところを見ると『旧知の仲』とは思えるけれど、まさか同世代という訳ではないだろう。若作りするにしても、やはり限度があるし、それに、どう見ても、ペルマム管理官の方が、その……ずいぶんと年上に見える……。


 そんな失礼な事を思い浮かべながら、二人の様子をクレマチスが眺めていると、その視線に気付いたペルマム管理官が、仕切り直すかのように「コホン」咳払いを一つしてから告げた。


「遅くなったけれど紹介しておきますね。この子は『キュアノス=ファセリア』これでも、東亜細亜方面本部局『情報統制部』の、一級監察官です」


「え!? こんなのが?」と言いそうになって、クレマチスはその言葉を飲み込んだ。


 方面本部局の『情報統制部』と言えば、真の歴史(アカシックレコード)を管理する【天界】でも屈指の重要な部署である。やむなく隠蔽された『世の理』や『事象』が正しく編纂された機密とも言える史実を扱う部署である為、構成される【天使】も少数精鋭と『情報統制部』自体の秘匿性は高く『監察官』と名乗る者と会うのは、クレマチスにとって初めての事であった。

 近いイメージで例えるならば、ジェ〇ムス=〇ンド、或いは、イー〇ン=ハ〇トをいきなり紹介された様なものである。

 ちなみに、クレマチスの憧れの部署でもある。


「これでも――ってのは酷くない?」


 紹介されたキュアノス()()()が即座に文句を言うと、ペルマム管理官は「だったらちゃんとなさい」と叱るように窘めてから、本質とも言える会話を始めた。


「――それで、結果はどうだったのかしら?」


 改めて、ペルマム管理官がキュアノス監察官に質問をすると、促されたキュアノス監察官が、肩を竦めながら答えた。


「最悪の結果では無かったけどね、それでも、三冊も所在が分からなくなっていたよ」


 その表情は、今までのお茶らけた表情と打って変わり、真剣そのものであった。別人だと言われても信用してしまう程である。


 その返答に、ペルマム管理官は溜め息を混じらせながら言葉を返した。


「そう、こちらも新たに一羽、発見されたようよ」


「……そうかい。じゃ、もう認めるしかないね」


 意味の分からない会話であった。ただ、何かあった事だけは、ひしひしと伝わって来た。その雰囲気を読み取ってクレマチスは気を引き締める。

 すると、改まって姿勢を正していたクレマチスに気が付いたのか、ペルマム管理官は、また一つ、咳払いをしてから告げた。


「クレマチス=ビアンカ。それと、アドニス=アムール。今から話す内容は、一部、人界省の機密に抵触する内容を含みます。故意じゃなくとも漏らした場合、一等訓告の処罰を受けてもらう事となりますので、心して聞いて頂戴」


 明らかに脅しであった。その証拠に拒否権についての説明が全くなかった。

 クレマチスは既に腹を括っていたおかげで、静かに頷く事で、ペルマム管理官に了承の意思を伝えられた。

 しかし、アドニスは少し違ったようで、静かに手を上げると質問を投げかけた。




「あの――既に話してしまった内容があった場合、どうすれば良いのでしょうか?」




「……」


 この言葉に、ペルマム管理官は大きく目を見開き、しばらく沈黙した後「そう……既に話題にしちゃったのね」と、静かに言葉を漏らしてから指示を告げた。


「……とりあえず、今からは絶対に漏らさないように。それと、誰と話したのか、後でリストを提出する様に」


「はぁい」とアドニスは面倒くさそうに答えた。


 また、仕切り直し。

 ペルマム管理官はもう一度咳払いをすると、改めてクレマチスに向き直って告げた。


「ひとまず、あなたの衰弱した原因なのですけれど――」


 もったいぶるように言葉が引き延ばされる。固唾を飲んでクレマチスは次の言葉を待った。と、このあと、ペルマム管理官から告げられたその言葉は、クレマチスにとっては意外とも言える言葉であった。


「それは――」


 それは?




「――呪いに掛かった事が原因です」




「………………はい?」


 思わず聞き返したクレマチスであった。






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