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第3話 再会の涙〜リーゼとシェード〜

入学式でスピーチを終えて学園長室に帰った私を待っていた書類に辟易としながら、何度目かになるため息をこぼす。



そろそろシェードが来てくれるかもしれないと思うと、時計が気になり始めてしまう。

チラチラと視線が時計に行くのを駄目だな、と感じて気を引き締める。


そういえば新入生のシェードが、校内で進学生と揉め事を起こしたとの噂が、もう校内中に広がっていた。


高等部からの進学生ディーゼル・ティーダ君は所謂番長的な立ち位置にいる。だからそんな人と揉め事を起こした、なんてなったものだからシェードの立ち位置は最悪の状態だ。


秘書の赤羽ちゃんは、入学式のスピーチを良かったと言ってくれたけど、あれはシェードがこれ以上孤立し過ぎないよう釘を差すつもりで言った事だったから、ちょっと恥ずかしい。



そんな事を考えていると、赤羽ちゃんが少しイラッとした顔をしながら秘書専用の部屋から出てこちらに歩いて来る。


彼女とももう10年来の仲だからか、本人は感情を隠せてるつもりでも自然と分かるようになってきた。それを指摘してもまだ受け容れようとしない所が彼女の可愛いとこだが……。


私の前に来た彼女はきわめて冷静に言葉を選んでいった。


「新入生が学園長と面会したいと言ってきていて。とりあえず扉の前で待ってもらっているのですが。いかがなさいましょう。」



新入生という言葉にビクッと身体が軽く反応してしまい、それを見た赤羽ちゃんが眉を寄せて私を見ているが、こっちはそれどころではなかった。


(あれっ。もう来る時間になったの?どうしよう、こっちはまだ書類が全然おわってないのに…。あぁ、服もちょっとくたびれてる所が出ちゃってるし……あわわわわ。)


大丈夫ですか?と声をかけられて我に返ると、今度は私が言葉を選びながら誰が来たのかを尋ねてみる。


「えっと。お名前はなんと言っていましたか?」

学生時代、テストが返ってくるのを待っていた頃のような面持ちで返答を待っていると彼女は言った。


「シェード・f・リィンスと行っていましたよ。言えば分かるそうですが、イタズラですかね…。丁重にお帰り「丁重にお迎えして。」ます……はい?」


言おうとした言葉と正反対の言葉が私から返ってきた彼女は、は?と聞き返してくるが、私は早く彼に会いたいとドキドキでいっぱいで、それどころではなくなっていた。


秘書の赤羽は他の言葉は聞く耳持たないといった様子の私に、しょうがないといったポーズをとり、シェードを部屋に招き入れに扉へ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


音声石から確認しに行くと声が聞こえてから、しばらく待っていた僕だったが、確認が取れましたお入り下さいの声と同時に、扉の鍵が開いた音が静かな廊下に響く。



「ひっさしぶり〜〜シェ〜ドっ。」「うわっ…ぷ。」


部屋に入った僕へ鈴の音の転がるような声を弾ませて、勢いよく飛び込んできた小柄な女性を情けない声を出しながらもしっかりと、けれど優しく受け止める。


「あはは。本当に久しぶり。リーゼ姉さん。」

「シェードっ、私シェードが合格したって聞いて、ずっとこの時を待ってたんだよ。」「うぅぅ…おめでとう。おめでとぉねぇ。」


姉さんは僕に体を完全に預けて、天真爛漫な笑顔でしばらく甘えていたが、合格が分かった時のことを思い出したのか、うわずった声で泣いてしまった姉さんを腕に感じながら僕たちは抱きしめ合った。





ーーーーーーーーーーーーーーーー


2人から少し離れたところで男に幼子のように抱きついて甘えている学園長の様子を見てしまった赤羽は、自分の中のカッコ可愛い学園長像が崩れて、ショックを受けて固まってしまう。


しかしすぐに自分を取り戻すと、次第に落ち着いて恥ずかしそうに彼に言い訳している学園長に話を聞くために近づく。



「学園長。そろそろ教えてもらっていいですか。彼とはどんなご関係なんです?」


「あっ…。ごめんね赤羽ちゃん、すっかり忘れちゃってて。」「いえ…別にそれは。」


忘れられてた事実にちょっと落ち込んだが、今は置いておくことにする。……うん。


「私が法事で故郷に帰っていた時、誰にやられたかは逃げられて分からなかったけど、ひどい怪我をしてるシェードを私が助けた事がきっかけで知り合ったの。」

「それって確か2年前くらいの事でしたっけ。それで?其処からどうやってその距離感になったんですか?」

「シェードが目を覚ましたときにね。私のことお姉さんって・・・呼んでくれたんだよ。だからだよ。」「はぁ?」


シェード君に合ってからキャラがぶれだした(私にはそう映った)学園長・・・(もういいや、この状態の時は呼び捨てで)……システラに思わず素の声が漏れてしまい。しまった。とシステラを見るも気にしてなさそうなのでこちらも気にしないようにする。



「ではそこからは僕から話します。」


シェード君は、ちょっとポンコツになっているシステラに代わり説明してくれる。


「どうやら僕と姉さんは遠縁の親戚だったらしくて、互いに気があったのもあって仲良くなったんです。」「両親にも、同級生とも上手く付き合えない僕の相談を聞いてもらって。そうしたらこの学園に入らないかって、誘ってくれて。しばらく一緒に勉強や調律師としての基礎を教えてもらってる内にこの距離感に収まったというか……。」



そう言うと嬉しそうにハニカミながら、私の目をしっかりと見て姉は僕の恩人なんですとそう言い切った。


それを聞いてあぁそうかと納得した。

リーゼ学園長は、本当に嬉しかったのだろう。自身も同じ馴染めなかった過去を持つ者として、こんなにも素直な感謝の言葉を言われた事が、昔の自分もまた救われた気持ちになったのだろう。


すべてを聞いて、ずっと気になっていた事がまだのこっているのに気づく。

私は、それを彼にぶつけることした。


「その説明を聞いて納得したけど、初めて会ったときにお姉さんって言ったのよね?」

「はい。そうですけど。」


リーゼ学園長の姿を横目に見ながら私は言う。

「学園長の姿を見て。何でお姉さんって思ったの?」



ーー人間種のリーゼ・f・シエスタの体は小学5年生くらいしかない。ある日突如起こった先祖返りの影響で何も知らない人には見分けることが難しい。


小人族に同族の女性と思われて告白されたと、落ち込んでいた姿は私の記憶にまだ新しいからこそ、彼が見分けられた事が尚更驚きだった。


「えっと……。特異体質で眼が普通の人と違うんですよ。だからじゃないかと思うんですよ多分。」

そう言うシェード君にシエスタが抱きつきながら「違うよシェード。愛だよ、愛!」とまたイチャつきだしたのにはイラッときたが、さっきのシェード君の話に免じて見逃すことにした。


しばらく、3人で話をしながら過ごしてから時計が6時を回っているのを見て、2人へ言葉をかける。


「学園長。そろそろ残った書類を片付けないと帰れませんよ。」「えっ。ああぁ……そうだった。」


残念そうな声で謝るリーゼ学園長

「ごめんね、シェード…また今度ね。」「いいよ。仕事頑張って下さい。二人共。」



「ありがとう。あなたも、気をつけて帰ってくださいね。」

私も含んだ労いの言葉に素直に感謝を言うと、

それに応えるように頭を下げた彼が、学園から下校したのを確認してから、リーゼ学園長と残りの書類の山を、今までにない順調さで切り崩していった。


「さっ。さっさと終わらせてしまいましょうか。」「そうだね赤羽ちゃん。」「ねぇ、また、来てもいいかな?」


その言葉が言っているのが、誰かなんて聞かなくても分かる。

「いいんじゃないですか。たまには。」「わたしも彼と居るのは楽しかったですし。」


リーゼ学園長との距離が少し近くなったのを感じて、私の顔が少し桃色に染まっている気がした。


「ありがとう。赤羽ちゃん……。」「いいですよ。」


そうして、今日は過ぎていった。

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