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第一話 初恋の夢と新天地生活 〘完〙

「この子、いったいどんな体の構造してるのよ?」


近寄って手当てを始めたときは、下手すれば死んでもおかしくない。いや、助かっても痕や機能不全をおこしてる部位が残っても仕方ない。それほどの状態だったのに……。


治療を終えた後、疲弊した体と息を整えてから寝息を立てている男の子を。容態を観察する。 

さっきまで焼身肢体そのままだった身体は、今は跡形もない。治りきっている。



あれはタチの悪い冗談だったのではないか?と現実を受けいれるのを諦めそうになるが、あるがままを受け止めなければと思い留まる。



「う……ん。あれ……?僕……体無事……。どうして……。」


そんな事を思いながら、考えを巡らしていると、膝の上で頭を寝かしていた男の子は、ようやく目を覚ましたのだった。




ーーーーーー

「あぁ。よかった。目を覚ましたんだね。大丈夫かい。」


目を覚ますと、僕の頭は柔らかくて気持ちいい。何かの上に寝かされているようだった。


自分の状態をあまり把握出来てない僕を、プラチナブロンドの髪が夕陽に映える澄んだ目をしたお姉さんが、優しく尋ねてくれた。


はい。大丈夫です。そういった僕をホッとした顔で喜んでくれたその人に、見惚れたのはだれにも内緒だ。

少し呆けていたら彼女から、あなたのなまえはなんですか?と僕は聴かれ。僕は……。


「僕の名前は、シェード。シェード・f・リィンスです。あなたの名前はなんと言いますか。」


「よろしくシェード。私は、リーゼ。リーゼ・f・システラだよ。」


春のそよ風のような微笑みと共に名乗った彼女に、この時の僕は不覚にも心を撃ち抜かれてしまったのだった。


僕たちが親戚同士だと知ったのは、それから十数分後のことだ。




ーーーーー(2年後)ーーーーーーーー




「クぅ〜。スゥ〜〜。……ん〜。」


窓寄りに置かれた寝具と、未開封のダンボールがいくつか隅に置いてあるだけの殺風景な一室に、聞こえる寝息が1つ。


少し大きめな物置きに見えるこの場所が、使われている部屋だと証明するのは寝息以外にはない。


窓から差し込まれる朝のやわらかな光が、ベッドで微睡みの中にある寝顔を優しくくすぐり、ゆっくりとその眼を開く。




「知らない天井だ……。なんて。」


そんな言葉が喉をついて出てくるけど、記憶はしっかりしている。


ここは、自由国家ハルモニア国の首都圏にある学生割引の効くアパートの一室。

今日からは僕の部屋だ。




ベッドの横に積んである段ボールの上に置いておいた眼鏡を掛けてから、1つ伸びをする。


僕はすぐ側の段ボールから順に開けていき、中から無造作にいくつかある保護袋を取り出すとその中から学校指定の制服を見つける。


素早くそれに着替えると、周辺の地図とサンドイッチの入ったランチパックを他の箱から見つけ出し、必要な道具の入った鞄に一緒に詰め込んだ。


初日から遅れないように。と鞄片手に、部屋を飛び出す。


辺りをキョロキョロ見渡し、地図を引っ張り出すとこれからお世話になる学び舎に向かって歩き出す。



朝の賑わいには少し早いこの時間は、店の準備に起きた店主が、まだ眠そうな瞳を擦りながら商品を用意していく。


それを横目に地図と照らし合わせて確認しながら、歩いていくと、ちらほらと同じ制服を着た生徒たちが現れ始める。


その流れに混ざって歩いて行くと、学校の校門を過ぎた辺りで何だか前方が騒がしくなってきた。


一人また一人と登校している生徒が、脇へと逸れて行くが野次馬達も多く、やがてその流れも固まってしまった。

騒ぎの中心、そこだけぽっかりと穴が空いたスペースができている。


背伸びして様子を伺ってみると、獣人の青年がエルフの少年の襟を掴んで、脅している。


「オイ、テメェ。何してたんだ。」

「ヒッ。なんもないよ。」


エルフの少年は、完全に怯えきっていて語彙がおかしくなっている。


「何してたんだって、聴いてんだろ。解るんだよ俺達は。そういった事には敏感なんでな。」


「それはその、ごめんよ〜〜。癖なんだよ〜。視てしまうんだ。ゆるしてよ。それにアンタを視た訳じゃないだろ〜。」


どうやら、エルフの少年がやらかしたみたいだったが、通学路はすっかり人集りで固まってるせいで、避けて通ろうにもどうしょうもない。


このままでは、入学式に間に合わないかも知れない。

「はぁ~。しょうがないか……。」覚悟を決める。

「前の人達ちょっとごめんよ……通して頂戴……よっと。」



イライラしだしてる、前の人達をかき分けながら、騒ぎの渦中に体を無理矢理飛び込ませ、僕はふたりに割って入る。


「んァー?」「え……誰?」

急に飛び出てきた形になる僕に、ふたりの気の抜けた声が上がる。


「えっと。君たち。見たところ、同じ一年生だろ?」

「だからなんだよ。」

「人だかりもできてるし。彼も謝ってる事だし。どうだろうか。ここらで手打ちにするのは。」


「アァ。誰だてめぇは!すっこんでろ!」

獣人の青年は、声を荒げてこちらを睨みつけてくる。

負けじとコチラも目を合わせ彼を抑えるように話しかける。怒っている獣人の特有の瞳が少し怖いがそうも言っていられない。


「このままじゃ、俺達不良のレッテルが貼られちゃうぞ。さっきこの子が視たとか言ってたけど、君じゃないとも言ってた。」

「遠回しはいい。もっとわかりやすく言え。」


「つまり。ここで評判を悪くしたら、君がそこまで視られて怒っている。その人まで、悪く見られるんじゃないのかな?」

3人にしか聞こえないくらいの小声で彼に言うと。


そこには考えが至らなかったのか。うぐっ。と言葉を詰めらせると、顔を不快そうにしてエルフの襟を掴んでいた手を放すと。

男の子に向かって。


次はない。と吐き捨てるように言い。


フンっと鼻を鳴らして、避けるように開いた道を歩いて行くのを見送った。



「大丈夫かい?」

そう言って少年の方を振り向いた時には、そこには誰もなく。


野次馬達を見ると。彼らは僕を、遠巻きに見て視線が合うと、そそくさと行ってしまう。


そして、誰も側にいなくなったのを見て。頬が引くつくのを感じながら口から出た言葉が寂しく空を切るのだった。



「もしかして、これ……。やらかしちゃった……?」





まだ、まだ、続くよ。

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