プロローグ2〜秘められた才能と運命との邂逅。アナザーside〜
「はぁ~~。やっぱり居心地悪かったな。」まぁ分かってたけどね。
苦笑いしながらそう小さく呟いた私は、法事の真っ只中の実家から抜け出して、十年以上帰って来なかった地元を、目的地も無いままぶらり歩き出す。
大陸間を渡航してまで、帰りたくなんてなかった実家に戻ってきたのは、《叔母の法事にこられたし》とだけ書かれた手紙が私の職場に届いたからだった。
あの人達だって、私のことなんて思い出したくなんてなかっただろうに……。
両親から必要なことだけが書かれた手紙が、私の元まで送られてきたのは、催事の際はどれだけ忌み嫌われている者でも揃って行うように。と一族の家訓で決められていたからだ。
(しかし。なんだな。すっかり見たことない景色が眼前に広がっている。)
「やっぱり十年という歳月は、馬鹿にできないのか。」
そう独りごちながら、私の頼りにならない記憶をひっぱり出しては、留まらずに脚を動かし続ける。
実家周辺から離れてみれば、変わっていない場所もあるかも知れないと、遠くまで来たものの。
あったのは住宅地郊外にぽつんと残されている公園まで続く小路ぐらいしか見当たらなかった。
それでも、変わらない場所が有ったのが何だか妙に嬉しくて。公園までならと行ってみることにした。
いよいよ目的地が近付いてくる。
だが近づくにつれて、その表情はさっきまでの弛緩したものではなく、緊張を孕んだ眼差しで公園がある方向を睨みつけ、脚は次第に速足になっていく。
(魔法を行使した残痕!)
それに加え、何か肉の焼けついた鼻を突く臭いが、風にのって此方に向かって吹き抜ける。
夕焼けの光に照らされて此方に伸びる不揃いな人影とは別に、地面から立ち上がろうとよろける人影から放たれる、ヒリついた空気が所構わず辺りを威圧してくる。
「コラッ。そこで何やってるんだ!」
私の叫び声に、ビクリと反応を見せた人影は7人の方で、コチラを振り向く事なく「ヤベッ」と口に出して走り去ってしまう。
そして、公園に1人残された男の子はさっき迄の威圧感が一気に抜けて、どさりと糸の切れた人形の様にまた地面に倒れこんでしまう。
近寄って初めて彼の状態を認識した私の体に、動揺が奔る。
「ひどい怪我。意識は!」「大丈夫っ?。今治してあげるから、しっかりして!」
ケロイド状に焼け爛れ出した皮膚。
服と一緒に肉が焦げた臭いがする最悪の状態で。速やかな治療が必要なほど満身創痍の身体の何処に、さっきまでの威圧感が出せたのか?
必死に錬律術で強化した魔法で治療するうちに、そんな疑問はすぐに消え去っていた。