ホブゴブリン(ガヤ芸人)
冒険者ギルドで死ぬほど酒を飲んで、死ぬほどたこ焼きを食って、目が覚めたら俺はヒメナの家にいた。
「うっ……頭痛あ……何処だここ」
「おはようさん! たこ焼き作ったけど食べるやろ!?」
「うっ……オロロロロロロロロ!」
たこ焼きの匂いを嗅いで一気に気分が悪くなり、トイレに駆け込んだ。
なんなんだこの世界は……たこ焼きと飴ちゃんしか食料を見てない……。
完全に狂ってやがる……。
「いや、待て待て待て待て。なんで俺はヒメナの家にいるんだ」
トイレで吐きながら自問自答。
あっ、洋式トイレだ。なんならユニットバス。
異世界の風呂トイレ問題はクリアだな。
「……違う。そうじゃない。なんで俺は相方の家に泊まってるんだ」
はっ! 無意識で相方って言ってた……マジでヤバい……。
早くこんな気持ち悪い世界から帰りたいのに、徐々に侵食されてきている……。
「キョウヤ〜気分悪いんか〜?」
ヒメナがドア越しに叫んだ。
「おっ……俺は昨日何をした?」
震える声で返した。
「んもう! 覚えてへんの!? ウチと熱い夜を過ごしたやん!」
「うおおおおおおお! 何してんだ俺えええええ!」
「嘘に決まっとるやろ! 飲み潰れたからウチの家に運んだに決まっとるやん! 相方とそんなんするか!」
「良かったあああああ! このイカれた世界の住人とくだらない関係を持たなくてえええ!」
「それはそれでめっちゃムカつくわ」
口を濯いでルンルン気分でリビングに向かう。
ヒメナの部屋は1Kの狭い部屋だった。
ちゃぶ台の上には大皿。
その上にはビッシリとたこ焼きが乗っている。
(生きるためだ……食べよう)
今日の天気はとか、今ダスイケが絵本書いてるらしいとか、クソどうでもいいヒメナの話をBGMに俺は黙々とたこ焼きを口に詰めた。
……本当にマズイ。どうせ食べるなら銀だこ食べたい。
「なあ……たこ焼き以外作れねえの?」
「ん? 作れるで? お好み焼きとか、焼きそばとか」
「焼きそば! 焼きそばが食べたい!」
本音を言えば米が食べたい。
でも、とりあえずはたこ焼きから脱出出来そうなのが嬉しかった。
全部粉もんだからすぐに飽きそうだが……。
「ほな、稼がんといかんな! ファンミカドラゴンのドロップ品は全部飲んで消してもうたしな!」
なはは! とヒメナが笑った。
全然笑い事じゃない。
だって、そのカーディガンの買取価格100万くらいしてたじゃん。
お前がCランクに上がったって喜んでる時、俺は物価価値と単位が元の世界と同じことを知り、密かに喜んでたんだよ。
だから覚えてる。
そして、どう飲み代で100万を使い切ったのかは怖いから聞かないとく。
「じゃあ、もう一度ファンミカドラゴン殺しに行くぞ。十匹くらい狩っておこう」
「ちょ、待てって! ほんまイラチな人やでぇ。ウメダのダンジョンは低階層にもオークやファンミカドラゴンみたいな強いモンスターが出る様になった言うんで、立ち入り禁止になったんや。誰かが結界を破ったんやて、知らんけど」
「無視して入ればいいだろ」
「アカンて! そないな事したら警察官のおっちゃんにパクられるで?」
ああ……そんなものまであるのかよ……絶対に関わりたくない。
関わったら最後、果てしなく面倒くさそうな事になりそう。
「それで? 他に何か手は? あるんだろ? 稼ぐ手段が」
すると、ヒメナは勢いよく立ち上がり外を指さした。
「勿論あるで! ドウトンボリ周辺にホブゴブっさんが出るようになったらしいんや! 討伐依頼のクエストが出とる! 銭稼ぎに行くでえ!」
(……ホブゴブっさん?)
「……なるほど! ホブゴブリンか!」
確かゴブリンよりも少し大きめで強いモンス……。
そこまで考えて俺は思い出した。
(違えわ……この世界狂ってるんだった。何期待してんだ俺……)
普通にモンスター倒しに行くテンションだったけど、よく考えたらここは異世界(大阪)だった。
絶対に普通のモンスターじゃない……。
〇
ホブゴブリン。
緑色の小鬼。ゴブリンの上位種。
経験を積んだゴブリンが進化したゴブリンのリーダー。
『ギッ……ギギイ! ちょっと待って!? 今噛みましたよねぇ!?』
『ギギ! なんでやねん!』
「くっ……! アカン! ホブゴブっさんのバフでゴブっさん達の動きがめっちゃチャキチャキしとる! 切れ味抜群のツッコミしてくるでぇ!」
ホブゴブリンはホブゴブリンでもホブゴブリンだった。
ドウトンボリと言う汚ったねえ川に行くと、ホブゴブリンがガヤを飛ばし、五匹の緑色の漫才師達を援護しながら襲い掛かってきた。
やっぱり狂ってやがるこの世界。
「アカン! キョウヤ! みーんなあんたに向かっとる! ここは一旦逃げるんや!」
――カチッ。
――シュボッ。
「ふうう~」
(くっだらねえ)
俺は煙草を吸いながら、少しだけ視線を落とす。
そこには、俺の胸元に向かってペチペチとツッコミを続ける緑色の漫才師の姿。
うっぜえ……。
「なっ! どうなってんねん! なんでキョウヤは無傷なんや!」
ああ……そうか。ファンミカドラゴンは瞬殺したから俺がこいつらからダメージを食らわない事知らないのか。
……効くわけないじゃん。逆になんで効くんだよ。
さて、殺すかと。指を鉄砲の形にしようとして、ふと思い立つ。
(これ……もし、マシンガンでやったらどうなるんだ?)
……いやいやいやいや。やめとこう。そんな事出来るわけない。
しかも鉄砲ならまだしも、マシンガンなんて両手使って「ダダダダダ!」って言わなきゃいけないじゃん。
そんな事恥ずかしくって……。
「ダダダダダダダ!」
『『『『ギギャアアアアア!』』』』
好奇心には勝てなかった。
しかも出来たし。
なんだこの世界……。
「しっ……渋う! 渋すぎやろ! キョウヤ!」
「はいはい。どうも」
近くの土手に腰かけて、ヒメナがドロップ品のマイクを拾っているのを煙草を吸いながら眺める。
相変わらずイカれた世界だ。
ちなみにホブゴブリンのマイクは少しいいマイクなんだと。だからどうした。
ホクホク笑顔でヒメナが帰ってきた。
「キョウヤ! やったで! えらい儲かったわ! しかもな! 向こうでまだウチらに気づいてへんホブゴブっさんも見つけてん!」
「もういいじゃん。帰ろうぜ。本当に帰りたい」
「いけずな事言わんといてよぉ~! ちょうどウチ、レベル上がったし、一人でしばいてくるからアカンくなったら助けてな?」
コンビだからヒメナにも経験値入ってレベル上がったらしい。
ちょっと強くなったんだとさ。試してみたいんだと。
……もう、勝手にしてくれ。俺はとりあえず、今日焼きそばが食べられればそれでいい。
「はい。頑張って」
「おーきに! ほな!」
威勢の良い返事をして、ヒメナはそのまま駆けていく。
向かう先は一匹のホブゴブリン。
ヒメナがホブゴブリンと戦いを始めた。
『ギッ! なんでやねん!』
『バンッ!』
俺には完全に関西人が緑色の芸人とふざけ合っている様にしか見えない。
マジでなんでアイツあんなに真剣な表情できんの?
どんな気持ちで戦ってるんだよ……。
〇
――ヒメナside
(くっ……! 流石ホブゴブっさんや! レベルが上がったとは言え手ごわいわ!)
ウチは、ギューンって向ってくるホブゴブっさんのツッコミをギリチョンで避け、指鉄砲をホブゴブっさんに向ける。
「食らえ! 『バンッ!』」
『ギッ! ちょっ! バラエティの強さちゃいますって~』
オッケーオッケー! めっちゃ効いとるわ!
リアクションも雑になってきとる! あと一~二発でしばき倒せるわ!
『ギギッ……ちょっ! 今、姉さん噛みませんでした!?』
「アカン! デバフか! テンション下がってまう!」
『ギッ! なんでやねん!』
「っ……! 痛ったああ! 絶対血出たわ!」
軽くテンションが下がったところに、ホブゴブっさんのツッコミ。
ドタマどつかれてもうた! 女子の頭に何してくれとんねん!
「……っ! 赤チンやって安くないんやで!」
距離を取って赤チンで回復。
もうちょい回復遅かったらコブ出来てたかもしれへん。めっちゃ腹立つわぁ!
『ギッ……しんどぉ~』
一発しばかれてもうたが、見た感じホブゴブっさんは疲れとる。
あと一発で倒せるんちゃう? 知らんけど。
(ウチのテンションが戻るその瞬間……ホブゴブっさんがポックリ逝く時や)
ふらっふらのツッコミを避けながら逃がさないようにプレッシャー。
ガーン下がったテンションがギューン戻ってくる。
完全にテンションが戻り、今や! 思た時……しょーも無いことが起こった。
「『なんでやねん!』 助けに来たでぇ! ヒメナ!」
「は? はあああ? 何してんねん! キヨシ!」
しょーもないタイミング現れたのは、いっつもウチに絡んでくるBランクピン冒険者のキヨシ。
ダイスケのおっさんのいる前で「おっさんとのコンビなんて解散して俺とコンビ組もうや」って言ってくるデリカシー0のさっぶい奴や。
ハリセン片手に出てきたキヨシは、もうちょいでウチがポックリ逝かす予定やったホブゴブっさんをしばき倒し、ほざく。
「何してるってヒメナを助けに来たに決まっとるやん! ダイスケのおっさんから聞いたで! コンビ解散したんやろ!? せやからDランク冒険者なのに一人でホブゴブっさんとしばき合いしとったんやろ!? 今こそ俺とコンビ組むときや!」
「ちゃうわ! ウチはもうCランク冒険者やし! 相方もいるわ!」
「なっ……! 誰やねん!」
「あの土手に座ってるシュッとした兄ちゃんや!」
ウチがキョウヤを指さすと、キヨシはめっちゃキョウヤにガンつけながらハリセンをギュゥ~握った。
「……誰やねんアイツ。ぼーっと煙草ばっか吸って、しょうもない」
「はあ!? ウチの大事な相方に何言っとんねん! ハゲコラァ!」
「……っ! ハゲてへんわ! しょうもない言っとんねん! ヒメナの次の相方は俺や! なのになんであんな奴が……ちっ! キャン言わせたる! タイマンで勝った方がヒメナの相方や!」
「待ってや! 何勝手に決めてんねん!」
勝手に決めて、勝手に走り出したキヨシ。
やめーやっ! って止めても、Cランク冒険者のウチの力じゃBランクピン冒険者のキヨシを止められへん。
「おい! 兄ちゃん! 誰に断ってヒメナの相方になっとるんや! 決闘や! 勝った方がヒメナの相方や!」
バチクソ怒鳴り散らかすキヨシに、キョウヤは煙草を吹かしつつクールに言うた。
「ふうう〜……いいよ。負けないし」
アカン! 渋すぎやわぁ!
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おもろ! 続き読みたいなぁ!と思たら、
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