たこ焼きはマズイ
――グゥ。
腹が鳴った。
「助けてもろておおきに! 飴ちゃん食べるか!? レモン味やで!」
「あああああああああ! もうレモン味の飴はいらないんだよおおおお!」
俺が助けた女は《ヒメナ》という異世界人だった。
肩まで伸ばした金髪のセミロング。根元は真っ黒。これで染めてないと言うのだから驚きだ。
どうなってるんだこの世界。ナチュラルボーンで深夜のドンキ女の髪色になるのか。
しかし、服装は深夜のドンキ女とは全く違う。
赤いジャージにサンリオのサンダルじゃない。ちゃんとした皮の鎧に皮のブーツだ。
「なんや、急に大声出して! びっくりするやろ! そうや! レモン味の飴ちゃんが嫌いならたこ焼き食べるか? ウチ弁当に持ってきてん!」
「くっ……ぐっ……ぐううううう! 頂こう!」
ヒメナは俺が腹を空かしているのを見ると、ポケットからレモン味の飴を取りだし、それを受け取らないのを見るとバタバタと騒がしくリュックを漁り、たこ焼きが入ったタッパーを手渡してきた。
ぶっちゃけ、たこ焼きなんて食べたくなかった。
だってこのダンジョンずっとたこ焼きの匂いがするんだぜ?
この三日間で完全にたこ焼きが嫌いになった。
しかし、レモン味の飴よりかは幾分かましだ。腹も死ぬほど減ってるし食べよう。
(ああ……マズイ……銀だこの方が美味い……)
家たこ焼き。それ以外の感想は無い。
ここに来る前に食べた銀だこの方が数倍美味い。
マジで早く帰りたい。
「ダイスケのおっさん! 大丈夫か!? 目覚ませや! あんた面白いんやから! ごっつおもろいんやから!」
遠くの方でヒメナが死んだ男に向かって叫んでいた。
人工呼吸しろよ。心配蘇生法かけろよ。てか、異世界なら回復魔法かけろよ。
「うっ……うう……ホンマに俺……おもろい?」
「ホンマや! ホンマ! いっちゃんおもろいで! バラエティ引っ張りだこや!」
なんでそれで生き返るんだよ。意味分かんねえよ。
「ホンマ……? 俺……ゴールデン出れるかな?」
「……出れる! 出れるに決まってるやろ! ダイスケのおっさんなら余裕やって!」
「くっ……あんがとな、テンション上がったわ」
なんで立てる様になったんだよ。どうなってるんだこの世界。
「あんちゃんが助けてくれたんやな……おおきに」
「はい、どうも」
話しかけてくんな。絶対お前もめんどくさいんだから。
「って! 暗すぎやろぉ! もっと声張ってえ!?」
ほ~ら、出た。めんどくさい奴。
帰ってくんねえかな~。
「……すまんな。あんちゃんはシュール系スタイルなんやな」
知らん知らん。シュールとか知らん。俺はただ無視してるだけだ。
「ほな、俺帰るわ」
「ちょっ……待ってえや! ダイスケのおっさん、そんな怪我で……」
「……ええんや。ギルドに……いや、実家に戻るだけのテンションは回復したわ」
「実家って……もしかしてダイスケのおっさん冒険者辞めるんか!? 一緒にタウンタウンみたいな冒険者になろうっていうたやん!」
「……今回でワイは実力不足だと思い知ったんや……アカンわ……もうオークのノリに体がついて行かへん……実家のお好み焼き屋継ぐことにするわ……ほな」
……一応聞いてみるか。
「おい、ヒメナ追いかけなくていいのか?」
「っ……! ええんや! これが男ダイスケが選んだ道や! コンビ解散……しゃーないわ! クイーンコングは解散してピンで頑張るぅ!」
(聞かなきゃよかった……)
どうやらこいつらの中では相当深刻な話だったらしい。
ヒメナは口をぎゅっと閉じながら男泣きしている。
異世界の冒険者が言う単語とは思えない。
もっと他の単語で泣いて欲しかった。
「ウチ……ピンになってもうたわ……」
「煙草持ってる? 俺切らしちゃったんだよね?」
「……赤マルでええか? ……はぁ~あ。ウチ一人じゃその内死んでまうかもなあ。ピン冒険者が生き残るんはしんどいからなぁ。知らんけど」
「ふうう~くっそうめえ。このくだらない世界にも煙草があって本当に良かった」
「ウチは魔法使いやし……一人じゃ厳しいやろなあ。誰かコンビ組んでくれへんかなぁ」
「……じゃあやめて実家継げば?」
「何やて!? あんなあ! ウチにはタウンタウンみたいなゴッツイ冒険者になるっつう夢がなぁ――」
(あ~めんどくさい。スイッチ入れちゃったわ。聞いても無いのに語り出したよ)
どうやらヒメナはSランク冒険者になって自分のギルドを持ちたいんだと。くっだらねえ。
この調子じゃダンジョンを抜けた先も地獄なんだろうな。絶対に冒険者ギルドって所に行きたくない。
〇
「なあなあ、兄ちゃん! ウチの相方になってやあ!」
ちなみに今、俺はヒメナにべったり張り付かれて相方になれと勧誘されている。
「マジで嫌」
なるわけがない。
なんで俺がSランク冒険者にならなきゃいけないんだ。
「ホンマ頼むって~コンビ名兄ちゃんが考えてもええからぁ!」
なんでそれが勧誘文句になると思ってんだ? 頭沸いてんじゃないのか?
「良いから早く出口に案内しろよ!」
「いやや~! 兄ちゃんがコンビ組んでくれへんのやったら絶対に教えへん!」
「クソが!」
こうなったら根気勝負だ。
お前が音を上げて帰ろうとするまで俺は待つ。
お前が耐え切れなくなってダンジョンから出ようとした時が運命の日だ。
俺はその後ろをついて行って脱出してやる!
〇
そして……三日が経過した。
「いや~! キョウヤめっちゃ強いんやな! ファンミカドラゴンが出てきた時は、あの世にチーンやと思たけど瞬殺やもんな!」
「くっそ……」
「流石ウチの相方や! 赤マル言うコンビ名も気に入ったで!」
「くっそ!」
「よ! 赤マルの剣士! オークからのレアドロップ【ハリセン】が似おてるわぁ!」
「くそおおおおおおおお!」
俺は折れた。
二日目にして再び食料が無くなり、三日目にしてこれからレモン味の飴ちゃんを食べるしかないと分かった時……俺は折れた。
「分かった……コンビを組むから早く外に案内してくれ……」
そこからのヒメナは早かった。
「ほな! ここに自分の名前書いてな!」
すぐにポケットの中からギルドカードを取りだすと、そこの相方欄と言うふざけた項目に俺の名前を書かせた。
瞬間――言いようのない相方感。
(きっも……)
心が勝手にヒメナの事を相方だと認識し始めた。
めちゃくちゃ気持ち悪い。友情とも恋愛感情とも違う変な感情だ。
出来れば一生こんな感情抱きたくなかった。
「ほんでキョウヤ異世界人やったとはなー! 最初ネタかと思うてたわ!」
ついでに、俺が異世界人ということがバレた。
いや、別に隠して無かったけど。
普通に一日目。暇だったから俺が異世界人って事を話したが……。
「かぁ~! そのエピソードトークおもんないわぁ! エピソードトークはちょっと盛るからおもろいねん。嘘はついたらアカン」
謎の上から目線でお笑いを説教された。
二度と言うものかと思った。
しかし三日目。また現れたファンミカドラゴンを倒したところで……。
「なっ! 何やて!? あの伝説のファンミカドラゴンを一撃!? どないやねん! いかつぅ〜!」
ドロップ品のエレガントブラックのカーディガンを大事そうにバックにしまったヒメナは、俺に死ぬほど質問攻めをした。
異世界人と七回言ったところでようやく信じた。くっそウザかった。
そして……ヒメナとコンビを組み、コンビ名赤マルの剣士となった俺はようやくウメダのダンジョンから脱出し……。
「うおおおおおおお! うおおおおおお! やったぞおおおおお! ようやく俺はあのクソみたいなダンジョンから脱出したんだああああ!」
「なはははは! ご機嫌やん! 競馬場のおっちゃんより飲んでるやん! 知らんけど」
冒険者ギルドでホッピーを飲みながらたこ焼きをほうばっていた。
絶対に行くものかと思ってたけど飯の誘惑には勝てなかった!
たこ焼きも食べたくないと思っていたが空腹には勝てなかった!
でも!
ああ……マズイ……やっぱり銀だこの方が美味い……。皮がヘニャヘニャだ。
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