異世界(大阪)転移
『ギッ……飴ちゃんいるううう!?』
目の前にはハリセンを持った緑色のおばちゃん軍団。
『ギギッ! なんでやねーん!』
背後には唐突につまらないツッコミを入れる緑色の漫才師軍団。
「……どうしてこうなった」
上を見上げて目を瞑る。
少し前の事を思い出してみよう。
〇
……確か俺は渋谷に行ったはずだ。
メンズ109で服を買おうと昼過ぎに家を出て、小腹が空いたので駅近の銀だこで腹ごしらえ。
8個入りのチーズ明太子を買って、スマホを見ながら店内で完食。
外に出たと思ったらここだった。
「情報が……少ない」
しかし、目の前に飛び込んでくるのは……。
『ギギッ……うちはうち!よそはよそ!』
『ギッ……どないやねん!』
「情報が……多い」
緑色のおばちゃん軍団に緑色の漫才師軍団。
カオスだ。カオスすぎる……。
しかも……。
『バンッ!』『バンッ!』
『なんでやねん!』『どないやねん!』
緑色のおばちゃんは俺に向かって銃を撃つ真似をしてくるし、緑色の漫才師は何も言ってないのに凄いツッコンでくる。
ーーカチッ。
ーーシュボッ。
「ふううう~……」
一旦、煙草に火をつけた。
ああ、緑色の漫才師がウザい……ペチペチペチペチツッコンできてマジでウザい。
「ウゼエ」
とりあえずムカつくから緑色の漫才師に煙草を投げつけてみた。
『ギッ……ぎゃああああ! 熱すぎやろ! バラエティの熱さちゃうって!』
うっざあ……なんだコイツ大げさにリアクションして……。
当たってないだろ、何故さも当たったかのようにゴロゴロ転げまわる。
『ホンマやめて下さいよぉ!』
しかもニヤニヤしてやがる。
これはアレか? おいしいとか思ってるのか?
『ほんまに煙草はヤバいですって兄さん!』
俺は兄さんじゃねえ。
どこをどう見たら俺が親族に見えるんだ。肌を見ろ肌を。お前らみたいな緑色じゃねえだろ。
「ふうう~」
二本目の煙草に火をつけた。
『ちょっとほんま怖いっすよぉ~! 俺もうトラウマになりましたもん〜』
ワラワラと凄い勢いで緑色の漫才師が集まってきた。
いや、今回は投げないから。根元までしっかり吸うから。
『バンッ!』『バンッ!』
ああ……遠くで銃を撃つ真似をしている緑色のおばちゃんが目障りだ。マジでウザい。
俺は煙草を近くにあった泉に投げ捨てると大声で叫んだ。
「てめえらマジでうっざいんだよ! つまんねえことしてんじゃねえ!」
『ギギャアアアアア!』
『ギギイイイイイイ!』
瞬間――爆散。
周囲にいた緑色のおばちゃん軍団と緑色の漫才師軍団は全員肉片となって飛び散った。
頭の中に聞き覚えのある声が鳴り響く。
※ ※ ※
『結果はっぴょオオオオオオ!』
※ ※ ※
レベルアップ 0→25
名前 東 京谷
スキル 鑑定を習得しました。
スキル 状態異常完全体勢を習得しました。
スキル 炎魔法耐性を習得しました。
スキル 水魔法耐性を……
「いや、もう見なくてもいいや」
俺は視界の端に浮かぶ文字の羅列から視線をそらし、三本目の煙草に火をつけた。
「ふうう~……異世界転生かぁ……」
もしかして、とは思っていた。
しかし、あまりにもテンプレと違いすぎて出来るだけ考えないようにしていた。
でも、見えてしまったステータス画面。
見えてしまったスキルという文字。
現実は小説よりも奇なりとは言うが、本当に奇なだけだな。
ちっとも面白くない。
「もっと、まともな異世界が良かっ……」
『ギギャアア! ウメダの泉に煙草を捨てたらあかんやろ!』
「……スキル鑑定発動」
振り返ると、そこには火を噴く関西弁の龍がいた。
スキルを発動させて見てみると……。
ファンミカドラゴン:レベル99
スキル ハッピー
スキル ラッキー
スキル ラブ
スキル スマイル
スキル ピース
スキル ドリ……
「……見なくても良かった」
ファンミカドラゴンが必死に俺に向かって火を噴いてくる。
さっき得た炎魔法耐性のおかげだろうか。全然熱くない。
いや、どうでもいいか……。
「ふうう~」
煙草を最後まで吸いきり、再び泉に投げ捨て俺は叫んだ。
「うるせえ! クソつまんねえんだよ!」
『ギギャアアアアアア!』
※ ※ ※
『結果はっぴょ……』
「あーもうウザいウザい! そう言うのいいから!」
何も考えないようにしたら頭の中の声は消えた。
多分今のでレベルとか上がってスキルとか増えたんだろ? どうでもいい……。
「加速的速やかに元の世界に帰ろう」
俺は緑色のおばちゃんが落とした飴ちゃんを踏みつぶし、緑色の漫才師が落としたマイクを蹴り飛ばすと、最後にファンミカドラゴンが落としたエレガントブラックのカーディガンを破り捨てた。
「くっそが! 舐め腐りやがって! せめて魔石とか落とせや! なんだよエレガントブラックって! 黒は黒だろ!」
スキル鑑定を発動させてあたりを見渡すと。
【ウメダのダンジョン 最下層】
と、視界の端に表示された。
嫌な予感がしたので一応緑色のおばちゃんが落とした飴ちゃんを数個拾って……。
「誰が食べるか!」
やっぱりムカつくから投げ捨てた。
これ食べて生き延びるくらいなら餓死した方がましだわ。
〇
そして、さまよう事三日。
わらわら出てくる緑色のおばちゃんや緑色の漫才師を爆死させながら、歩き回った。
「くそっ! くっそおおおおおお! くそおおおおおおおおおおおおおおお!」
二日目。腹が減りすぎて緑色のおばちゃんが落とした飴を口に入れた時はガチ泣きした。
悔しいけどめちゃくちゃ美味かった。レモン味だった。
でも、すぐに飽きた。
三日目。遠くから『アカーーン!』と関西弁が聞こえてきた時は、これ以上新しいモンスターが出てくるのかと絶望した。
しかし、もしかしたら飴ちゃん以外の物を食べられるかもしれないと近寄った時、その絶望は希望に変わった。
「ひっ……人だ! ……はあ!?」
そして、緑色のおばちゃんに殺されたと分かった時、再び絶望した。
だってハリセンで頭を叩かれただけだぜ? なんで死ぬんだよ。スペランカーのがまだ耐久力あるわ。
『食らえ! 『バンッ!』』
その向こう側で金髪の女がおばちゃんに向かって銃を撃つ真似をしていたのが見えた。
多分あの感じピンチなんだろうな。全然そうには見えないけど。
「はあ……」
クソデカい溜息を付いて、その後目をぎゅっとつぶり考える。
(多分『つまんない』の一言でも殺せるんだろうけど、会話を聞く感じあれがこの世界の魔法なんだろうな……)
一応俺も男だから魔法には憧れる……でも大の大人がそんな事するなんてバカみたいだ。
めちゃくちゃやりたくない。
「はあ……くっそ……『バンッ!』」
男が少しだけ勝った。
やってみたら。案の定緑色のおばちゃんの頭は吹き飛んだ。
「きっつぅ……」
めちゃくちゃ恥ずかしかった。でも、今はそれよりも腹が減ってる。
この二日間レモン味の飴ちゃんしか食べてないからな。もう一生食べないだろう。見たくもない。
俺は『何やて!?』と関西弁で叫ぶ女に向けて叫んでいた。
「おい、そこの女! このダンジョンの出口は一体どこにある! どんだけ複雑なんだよここは!」
気づいたらブちぎれてた。
耳に入ってくる言葉は全て関西弁。
口にするもの全てレモン味の飴ちゃん。
目に移るもの全てきついノリの関西人。
さらに、このダンジョンどことなくたこ焼きの匂いがするんだぜ? 普通キレるだろ。
「そこの女! お前に聞いてるんだよ!」
ぽかんとしている女に俺は更に怒鳴りつけた。
何とか言えコラ! どうせお前もきついノリの関西人なんだろ?
「今日はこれくらいにしたるわ! ほな!」
「……」
ほら、やっぱり。きっついわ。
「って! つっこまへんのかーい! ノリ悪いでぇ!」
「そう言うのがくっそむかつくんだよ! なんだこの世界!」
これが、俺とこの女の初絡みだった。
だだスベリだ。
「……」
訂正。無言で笑い待ちしてやがる。
死にスベリだ。
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