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35・皇帝の秘策。ピンチかもしれません

コイツは全く私の動きが見えていない。


『もや』は防御の鎧でもあるようだが、私の筋肉には無力だ。急に腹を襲った激痛にくの字になって反吐を吐く。


「くおっ? おお・・」


下がった顎にアッパーカットをくらわす。私の筋肉がみりみりと音を立て私の怒りを体現する。

 顎を跳ね上げ枯れ木がもやを引いて後ろに一回転した。しかし、もう一回転くるりと回って着地する。ほほう、私の攻撃をこんなに喰らって動けたのはお前が初めてだ。でもあと、何度耐えられるかな? 私は下がった皇帝に前蹴りを繰り出し、着地したばかりの枯れ木をさらに後ろに蹴り飛ばす。


 どーん、受け身も取れずに無様に転がる皇帝。ゴロゴロゴロ。おうおう、面白いように転がるな。そんなに離れるな。メンドクサイ。まあ、離れる原因を作ったのは私なんだけど。


「クワァ!!」転がりながら苦し紛れに何かを飛ばしてきた。指弾だ。マックス殿下の物よりかなり威力がある、しかしこんな筋肉のない、魔力だけで練られた攻撃にはなんの『価値』もない。ぺんっと手で払う。


「あああああああ・・・何だお前は・・なんだこれは・・筋肉? ただの肉の塊ではないのか?」

ようやく転がり終わった皇帝が四つん這いで黒い血を吐きながら私に叫び問うてくる。


「筋肉がただの肉なわけないじゃない。筋肉は正義なのよ?」

「意味が解らん!・・・ぐはっ!げぼ!」


うるさいので蹴り飛ばす。筋肉は正義。その身をもって教えてやる。



「ぐおおお! おのれ! 我が身を守れ!」

突然砂の中から大きな二本角が現れ、私を大きな手で潰そうとしてきた。

潰せるのかい? この私を。


左右の二本角を回し蹴りで吹き飛ばしたところで、私の上から影が落ちる。ばさりと黒い翼が広がっていた。


「おのれ! 許さぬ! おまえだけは許さぬからなあ!」


「あら奇遇ね。私もあなたを許す気はないわ。いいから降りてきなさい」

砂浜から二本角が次々に現れ襲ってくる。逃げる気か。怪鳥に変化した皇帝は燃えるような憎しみを瞳に湛えて、火山のほうに飛び去っていく。


「どこに行こうと逃がさないわよ」



***************************



 皇帝を追って火山まで来た。


山頂からどろどろと溶岩が流れ出て、あたりは非常に熱い空気に包まれている。山の中腹に自然の物ではない入口を見つけ、私はそこに降り立った。

 

 奥には炎の神殿があった。神殿の奥は火口に繋がっているのだろう、赤々と炎が上がり、中央に祀られている煤にまみれた邪神の像を照らす。


 彼らが祀る邪神は炎の竜らしい。


周りの壁を、流れる溶岩が炎の柱となって飾りたてている。地面はところどころぐつぐつと煮え、時折天上から炎の雫が落ちるのに、それを浴びても鎮座する像は静かに翼をたたんで目をつぶっているだけだった。その像に手を付き、ゼイゼイと息を吐く黒いもやが振り返る。


「我の苗床はこの炎の竜だった」


 どうやら像ではないらしい。見ればお腹のあたりに溶岩が吹き出たようなあとがある。苗床になると、あのようになるのか? いまは煤だらけの石像にしか見えない。苦し気な皇帝は語り続ける。


「産まれ落ちたのがこの場所だった。我は産まれ落ちすぐに身を焼かれた。逃れようとしても炎に焼かれて動けなかった。しかし、生まれ持った魔力で身体を再生し、逃れようとしたが、そのたびにここに満ちる炎が、ふたたび我の身を焼いていった。その苦しみに我はすべてを呪った。そして魔とは何なのかを、ここで悟ったのだ」


「では・・その竜はお母さんなの?」

私はそれを聞かざる得ない。


「我らにそんな存在はいない。もしそうだとしても、こんな場で我を産んだことを呪う以外にどうすればいい?」


「ふうん・・・あなたとはやっぱり分かり合えそうにないわね」

母を呪うなんて私には想像つかなかった。


「で? ここでどうするの? その苗床の竜と一緒に滅ぼされたいのかしら?」

「我は・・! 貴様を!! 許さ─」バクン


皇帝がすべて言い終わる前に、炎の竜が皇帝を食べた! 竜はまだ生きていたのか!? 虚を突かれたのは一瞬。しかしその一瞬でアイツには十分だった。ぶわりと炎の竜を黒いもやが包み込む。「しまった」と思った時には遅く、見開かれた竜の目は、あの気持ち悪い皇帝の目だった!


「ぐはははは! これで我も肉の体を手に入れたぞ!」


盛り上がる竜の筋肉がかぎ爪を振るう。とっさに腕で防ぐがその腕に痛みが走った!


「ぐははは! これが肉の体か! これが筋肉か! 無限に力が湧いてくるようだ! なるほどな!! くらえい!」


 動き出した炎の竜が身を翻す。びっしりと筋肉を巻き付けた太いしっぽがせまってくる。気が付くと噴煙が上がる空が見えた。私は神殿の外まではじき飛ばされたらしい。空中で姿勢を制御し止まる。


 火山が大爆発した。その火口から炎の竜が黒いもやをまとわりつかせ、ゆっくりと姿を現す。なかなかの大きさだ。威圧感がある。私は熱さだけが理由じゃない汗を、手の甲で拭う。

 竜のかぎ爪を受けた腕には傷がついていた。この筋肉を害するとは。アイツも私と同等の筋肉を手に入れたか。


「ギャオオオオオオオオオオオ」

竜が悲鳴を上げた。悲鳴。あれはアイツの叫びじゃない。魔を産む母とされ、体を乗っ取られた竜の悲鳴だだ。悲鳴を上げた竜の腹が裂け、ぐじゅぐじゅとした何かが飛び出てきた。腕だった。小さな竜が炎の竜の腹を破り、這い出してくる。それも二匹。赤黒い肉の表面にみるみる竜のうろこが浮かび上がる。


「ぐふふふ・・母になるとはこういうことか? ふふふ・・我ら親子でおまえを滅してやろう!」


うんまあ、違うと思う。そういうのは親子って言わない。分身とかそういう言うアレだ。しかしそんなことを言ってる余裕はなくなった。産まれたばかりの小竜がもう襲ってくる。左右から繰り出される連撃が速い! よけきったところにアイツのかぎ爪が向かってくる。


「ぐは!」体で受けてしまった。私のハガネの筋肉に傷がつく。あっちゃー、ピンチだ! どうしよう。私も分身するか?


 またも左右から迫ってくる小竜に魔法をたたき込もうとしたが、クラっときた。魂まで削る攻撃だったか! さすが竜! 一瞬対応が遅れたところで二匹の小竜に体当たりされ挟まれた。ミシリ。嫌な音にたわむ筋肉が悲鳴を上げる。こら! 私の筋肉! しっかりしろ! この程度で根を上げるな!


小龍を掴んで投げ飛ばす。これは間を取っただけだ。まずい、ふたたび二匹が突撃体制を取る。


「マッスル・チャージ!!」

「!?」


なにかが私を襲おうとした小竜にぶち当たった。まさに肉が肉にぶち当たった音が響く。意表を突く角度からの衝撃を、全身で受けた小竜がパァンと小気味いい音を立てはじけ飛んだ。


マッスルチャージ! それは筋肉の暴走特急! 筋肉による体当たり! 喰らったものは・死ぬ!


「マッスルレディ」

ふり返った口元が涼やかに笑っている。


「遅くなって済まない。みなには顔を見せ安心してもらったので、追ってきた」

「らる・・・ランスロット・・だよね?」


「いや・・・。俺の名はマッスルナイト! 鎧の代わりに筋肉をまとう、筋肉の騎士だ」


ズッギュウウウウウン!



「え・・・?」


マッスルナイト! 静かに名乗りを上げるランスロットの正体はマッスルナイトだった! あれ? しかしいまなんか凄い音が聞こえた気がするけど私のトキメキ音か?



 ええい何だマッスルナイトって! かっこいいじゃないか! かっこいいよな?


マッスルナイトは私とよく似た覆面をかぶり、私とよく似たスーツをまとっていた。

私とデザインが違う点は、私のスーツは手首まであるが、彼のスーツはノースリーブだ。ああ、むき出しの三角筋が美しい!! 


「マッスルナイト・・あなた・・飛べるのねぇ」

「マッスルレディの飛び方を真近で半日見たからな。見よう見まねだが、出来たよ」

「さすが私の愛する筋肉ね」


「愛されてるのは筋肉なんだ・・・」


もちろんラルも大好きよ


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