31・王都動乱。筋肉が奮戦するかもしれません
街のあちこちで火の手が上がっている。
混乱を助長するための作戦だろう。一つの火事のもとにチリチリを強く感じるのでそちらに飛ぶ。
そこには今まで見たことがなかった二本の角を持つ蛮族がいた。大きな体だ・・三メートルか四メートルはありそうだ。上空に来ると軍の兵士が蛮族に立ち向かっていた。私が指導した、あの兵隊さんたちだ。しかしさすがに体格差がありすぎて形勢不利だ。私は「とうっ」と掛け声をあげ地上に降りるついでにキックを放つ。
マッスルドロップキーック。言わないけど。
私の足の下敷きとなった二本角の頭が石畳を砕いて地面にめり込んだ。おや? 思った通り頑丈だ。まだ意識がある。そのまま手を突いて起き上がろうとするので、目からビームで麻痺させる。「ギャワ!」と悲鳴を上げて身体がおかしな感じに硬直する。これは効くか。
「マッスルレディだ!」
「マッスルレディ! 来てくれたか!」
笑顔になる兵士たち、一気に士気が高まるのを感じる。しかしまだ彼らの前には敵兵がいる。二本角がもう一匹と後は一本角だ。
「は!」
私は誰にも捉えられない速度で敵兵の間をジグザグに走り抜ける。走り抜けざまに全員に拳をたたき込むのを忘れずに。私の動きが止まり、皆さんが驚き、見開いた目に私の姿を映したとき、一斉に白目をむいてドサリドサリと角付きたちが倒れて行った。しかし
「グ・・グガ」
おっと、ちょっと優しく殴りすぎたか。やっぱり二本角は頑丈なんだな。ヨロヨロと口から泡を吹きつつも踏ん張って立っている。まだ手に持った大きな金づちを振り上げ向かってこようとしている。その根性は良し。
二本角に向け、私は右手を向けて指を鳴らす。パキンという音に合わせて、二本角の体を衝撃が貫く。変な感じに身をくねりドスンと倒れた。たまには魔法も使うわよ。うふふ。
「おお・・・凄い・・」
「噂以上だ・・マッスルレディ・・」
「ありがとうマッスルレディ!」
「火を消しましょう!」まっするしゃわーー。
右手を差し出し指先から水を噴出させる。川の水を手元に転移させているのだ。まだ火が弱かったのですぐに消し止められた。
おっと、けが人がいるわね。よっと、癒し! ・・うん。もう大丈夫。
「ありがとうございます」
「なんと素晴らしい・・」
「ありがとうございますマッスルレディ様!」
驚愕と感謝の目を向ける人々に送られながら次の現場に向かって飛び上がる。
「ああ! 私の子供がまだ火の中にいます! 助けてください!」
眼下に騎士団員に縋りつく母親が見えた。騎士団員はすぐさま消火に使っていた水をかぶり、迷うことなく激しい炎に飛び込もうと動き出した。さすがだ、この国の騎士は人助けに躊躇がない。
その彼の前に私が降り立つ。
「マッスルレディ!?」
「私の筋肉は、炎より熱い」
驚く騎士を後ろに、言い終わると同時に燃えさかる炎に飛び込む。中にはベビーベッドにぐったりとした赤ん坊が寝かされていた。崩れ落ちる壁を筋肉ではじきつつ赤ん坊を抱え脱出へ。さらに癒しの魔法をかける。ほーら大丈夫だよー!
煤に汚れぐったりしていた顔がすぐさま笑顔になって私に向けられる。かわいい! いつか私もラルとの子を抱いてみたいなあ・・・。なーんてね。笑顔で母親に子供を渡すと、それはもう何度も頭を下げられ感謝された。
いえいえ、私も赤ちゃんを抱かせてもらって嬉しかったです。騎士団に後を託し、次の現場に向かう。
上空を飛んでいると雨が降ってきた。はて、雨が降るような天気ではなかったが? でもおかげで火の手が弱まっていく。すると、兵士たちが蛮族の集団と戦っているのが見える。一本角も二本角もいてピンチだ。急行して助けに入る。先ほどと同じように二本角をけり倒し着地。
「マッスルレディ!!」
「皆に一時的に力を与えます。民のためにも奮起してください」
「えっ!?」
「リィンフォース・パゥワあーー!!」
私を中心に光が走る。駆け抜けた光を浴びた味方の兵士の腕や脚や胸が盛り上がっていく。
「うおおお、これは!!」
「力がみなぎる!!」
「これが筋肉の力!」
口々に雄たけびを上げて蛮族に襲い掛かる。私は隊長格の人を見つけて声をかける。
「行く先々に兵士がいる。相手の動きを読んでいた?」
「はい、マキシマム殿下の指示です」
「なるほど。読んでいたのなら、こちらも読まれてるかもしれない。私は王宮へ向かいます」
「! 確かに! お願いいたします!」
「任せて!」
垂直に飛び上がり家々の三倍くらいの高さになったところで急旋回して王宮に向かう。途中見かけた兵士たちにリーンフォースパワーで強化してあげつつ飛び続ける。雨はどんどん強くなっていく。
「マッスルレディー!ありがとーう!」
「頑張れよーマッスルレディー!」
下から私を応援する声が聞こえる。私を信頼してくれる人は家族だけじゃない。そう思った私は胸が熱くなって目をこすった。雨とは違う雫がほほを流れる。
頑張るぞ!
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王宮も混乱してるようだった、庭先が騒がしい。衛兵らしい兵士たちが、他の兵士たちを縛っている。お互い着ている鎧は同じものだ。闘った跡もある。仲間割れかな? いや、あのスットコ兄が反乱したとかのほうがありうるな。
立派な方のスットコ殿下は無事だろうか? 私は殿下の気配を探り、急いで降り立つ。
ザワリ。
殿下を護衛していた近衛兵っぽい人たちが血気だつ。
「曲者!」
「殿下から離れろ!」
剣を向けられるが、すぐに殿下が制してくれる。
「彼女はマッスルレディだ。剣を収めよ」
「マッスルレディ!?」
「あれが!!」
殿下に近づくと殿下を少し見下げていることに気が付く。あれ? 背伸びたな私。
それでもラルのほうが大きいかな。彼、どうしてるかな。心配ないと思うけど心配だな。なんて考えてると殿下がほほ笑みながらお声をかけてくださる。
「ふうん、なかなか動きやすそうな服だね。なるほど、いいね。それに、話で聞いていたよりずっとたくまして頼もしい」
「なんか最近またパワーアップしたみたいで」えへへ。背も伸びたようだし。
「なるほど。しかし、その筋肉が本当の姿だったとすると仮の姿で作法を覚えるのも一苦労だったろう。彼女も君が妙に覚えが悪いことを気にしていたが、納得いった」
「・・・申し訳ない・・・」ティターニア様の苦労を思うとうなだれるばかりだ。
「気にすることはない。君の働きから考えれば、よしんば王の前で寝そべって謁見に臨んだとしても不敬には当たらないさ」
さすがにそれは不敬かどうかより、私の常識を疑われてしまう。
「さて、蛮族については僕たちも予測はしていたし、準備もしていたが、それでもこの混乱だ。君の活躍も計算には入れさせてもらっていたが、それでも思わぬことは起こる。兄がすでに殺されていた」
あのボンクラ、退場早いな!!
「恥ずかしい話だが・・・」と前置きして、マックス殿下は兄・ビルドが王位簒奪を狙ったことを明かしてくれた。そしてこの混乱は蛮族を兄と宰相が手引きして引き入れたのが原因らしい。王たちは無事だとのこと。
「では、混乱は王都だけではないと?」
「ああ、兄がすでに死んでいることを知らない宰相は、自領に戻って兵を集めている。周辺の貴族にも同調する動きがあり、内乱に発展するだろう」
「困ったもんですね。何なら私が一発殴りに行ってきましょうか?」
「ははは、それは頼もしいが、今回は遠慮ー」
「!」
殿下の後頭部めがけて鈍く光る得物をもった黒い影が落ちてくる、私は撃ち落とそうと目に力を溜めたが・・
「マッスルフィンガー」
殿下が人差し指を立て、うでを振り上げる。まだ殿下とは距離があった黒い影、刺客が目に見えないなにかに撃ち抜かれ吹き飛んだ。吹き飛ばされて、背中から落ちた刺客を一斉に兵士たちが取り押さえる。
「殿下・・・その技は・・・」
「指弾という技・・まあ魔法だね。前はこんな威力はなかったが・・」
ムキリ。殿下が腕を曲げると上腕二頭筋が盛り上がる。おおっいい筋肉! 私のなにかも盛り上がる!
「ティータが、マッスルレディに触発されてね、一緒に筋肉をつけようというから、僕だけで勘弁してもらったんだよ」
ここにも筋肉の戦士が一人誕生していた。
「将来、王様になったら、マッスルキングとか呼ばれますかね? いや、キングマッスル?」
「智謀の王とか、賢王とか言われるなら望むところだが、筋肉王といわれるとちょっとアレだから、これ以上は控えさせてもらうよ」
アレってアレか! 筋肉はあほっぽいってことか! 脳筋なんて言葉があるけど、鍛えたからって脳まで筋肉になるわけじゃないんだ! でもまあ確かに、私は私の国の王様が、筋肉王だとちょっと嫌だ! 筋肉をこよなく愛する私でも結構いやだ! 税金無駄に高そう! あとなんか国全体が暑苦しそう! 賢王! 賢王になって! 拳王はダメですよ!!
「で、先ほどの話の続きだが、宰相を殴りに行く話は遠慮しておく。それは私が武で制そう。君のおばあ様・・英雄殿も手を貸してくれると申し出てくれてるしね」
「はい、出過ぎた発言でした」
おばあ様が出てらっしゃるならなんの心配もない。おばあ様は私と同等に強い。
「いや、代わりにマッスルレディーには行ってほしいところがある」
「はい、何なりとお申し付けください」
すると、急に周りがざわざわとする。人垣が割れて、雨に濡れそぼった一人の男がそこにいた。背の高いその男の表情に、私の胸にズグリと痛みが走る。
「殿下・・・」
「どうした。ランスロット」
幽鬼のようにふらりと現れたランスロットにいつもの明るい面影はない。
私の胸がどんどん締め付けられる。
「バーン辺境伯領が、蛮族に襲われました。いえ・・・ジャバゴ皇帝が一人で乗り込んできたそうです。領都は大損害を受け、わが父、兄、が亡くなりました。母と妹は重体だと、伝報石で報を受けました」
私はその時、息の仕方がわからなくなって・・しまっていた。




