28・皇帝の野望? 恨みつらみかもしれません
「立ち話でするような話じゃない。少し付き合ってくれ」
殿下に連れられ、校舎に入り、廊下を少し歩いくと周りと不釣り合いな豪華なつくりの扉がある。ここは王族専用の応接室で、防諜能力が高いらしい。部屋付きの護衛が扉を開いてくれるので部屋に入る。
殿下に座るよう指示を出され、ラルとで並んでソファーに座ると殿下の後ろにいつも控えている、侍従役の同級生がお茶を入れてくれる。ハンナもそうだが、クラスメイトの男子や幼馴染にお茶を入れてもらうというのは、なんとも気恥ずかしい。
それでね、と、一人がけのソファーで、長い脚を組んだ殿下が切り出した。
「彼等は・・あの暗殺者たちは、相手の国で要人を殺したり、攫ったりして混乱を招くための使い捨ての攪乱要員だ。帝国が仕掛けてくる前の、いつもの戦略だけど、今回は人探しも兼ねていた。かな」
「人探し?」
「ああ、そしてそれに対してアレはよかった。マッスルレディ。僕らにはまったく思いつかない発想だったけど、とても痛快で、彼にとってはさぞ、腹立たしかっただろう」
とても愉快そうに殿下が笑う。どういう意味か分からなかったので不敬かなと思いつつうかがってみた。
「あちらの蛮族の王、ジャバゴ皇帝は、七本の角を持ち、500年生きているといわれている」
500年! どえー・・そりゃあ、完全に魔王だわ。殿下は静かに歴史を語る学者のような顔で話してくださる。どうもそいつが腹を立ててる『彼』らしい。
「彼は領地拡大の野望をいつまでも捨てないでいる・・が、彼がその気になるたびにどこからともなく、英雄や聖女、時には勇者と呼ばれるものが現れる。なぜなのかはわからないが、500年も彼らがその地から出られないときくと、もうそういうものなのだろう。英雄や聖女というのは、彼にとっては、とても忌々しい存在だろうね」
500年も邪魔されてるというのなら、そりゃあもう憎しみもひとしおだろう。
「彼はそれらの人物のうわさを聞きつけると、何とかその存在を消そうと部下を差し向け奔走させるんだ」
お茶を優雅に口にする殿下。
「9か月くらい前に彼の隣国・・我が国の事だが。で、聖女と認められる者が現れたと聞いて、腹が立ったんだろうね。様々なところで我が国を探るうごきがあった。しかし君を見つけられなかったようだね。そりゃあそうだ。こんなに可愛らしい女の子に化けてるなんて、思いもしなかったんだろう」
化けてるって言われるとなんだか「これも私なんだ!」と反論したくもなる。いや、その通りでもあるのでもちろん言わない。私の正体は、あくまで筋肉だるまのフヒヒ女子だ。
「そこで、強硬手段に出たのが昨日の数々の事件だろう。要人を襲ったりすれば、聖女や英雄なら反応しておびき出されると。しかし・・現れたのはマッスルレディなる謎の筋肉女。事が済んだら闇に消えて、そして王都に現在それに該当する人物はいない」
「私は、おびき出されてしまったのですね・・・」
「そうだね。こののち正式に君が聖女と認定されれば彼等は君を殺すために躍起になり、最終的には我が国との戦争になる」
「戦争!!」
「今までの歴史がそうだからね。我が国だって、我が国や教会が認める聖女や英雄にちょっかいを駆けられて黙っているわけにはいかない。・・・それに・・彼等とは絶対に、まじりあえない理由がある。どうしても、彼らが出てくるなら戦うしかないんだ」
そりゃあ血の色が青いといわれればもう別の生物だ。まじりあえないといえばそういうものだろう。
「彼等はね、手に入れた国の国民に同化政策を行う。その方法は単純だ。その国の女に、自分の国の民を産ませるんだ。強制的に。王族も貴族も平民も関係ない。そして生まれた子供は必ず角が生えている。・・だから、そんな彼らと絶対に相容れることは、できない」
なんてことだ。そんな相手だったとは・・・私だって、彼等に捕らわれればそうなるということか。
「しかし・・今回の彼等の動きはいつもとは少し順番が違った」
「英雄や聖女が見つかる前に、水害が起こって我が国が疲弊したのをみて、それを好機としたんだな」
確かに天災に国は痛めつけられていた。私が王都に来るまでに見た町々はずいぶん疲弊していた。
「君の町が災害に見舞われたのは、王都周辺に比べると、だいぶ後だったんだ。そして疲弊する我が国を見ていたジャバゴは我が国への侵攻を計画する。しかしそこに現れたのが君だ。やっぱり聖女か英雄が現れたと、大変憤慨していたと報告を受けている」
やっぱり凄かった、王家の諜報力。きっと凄腕のメアリーが入り込んでるに違いない。
「そこで私たちは、君のお披露目を遅らせた。その間に侵攻に耐えられる準備をしようと。・・お披露目すると500年分の怒りを込めてジャバコ皇帝が襲ってくるからね。お披露目を遅らせたおかげで準備は予定以上に進んでいる。復興も進んだし。国境にあるバーン辺境伯も軍備を強化しているはずさ」
うなずくラル。なるほど。だからおばあ様は「慌てることはない、王は一年は謁見しないさ」といったのか。
「それに、おかげでもう一つの問題も片付きそうなんでね」
まだあるのか。
しかし、ようはそのジャバゴとかいう我が儘おっさんが、領土拡張の野望など持たなければいいということだ。いっそ私がぶっ飛ばしに行ってきましょうか?
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ひとしきり事情を話していただき、いろいろと心構えができた。
「結局、災害の方も、君がだいたい何とかしてくれたので、とてもありがたかった。今は王に代わってお礼を言いたい。謁見の時に改めて王が礼を言うだろうが、それまではまず私から。何か欲しいものがあったら、是非とも進呈させていただきたいけど?」
なんか急に褒美の話になった。褒美が欲しくてやってたわけじゃないので、特に何もいりません。いろいろ聞かせて頂けて事情もよくわかりました、ありがとうございました。と答えたところで、殿下は笑みを深くして、一人がけのソファに深く背中を預けた。
「さすが聖女。というところか」
しかし、さすがと言われたとたんに思いついた。人は強欲なのだ。くれ。
「あ、もしよければ、私に指示を出せる方との伝報石が欲しいです。折角なんでマッスルレディでお力になれる事があれば、ぴゅーって、すっとんでいきますから」
手をぴゅーと右から左に水平に動かす。
思わず素が出た私の発言に、ラルが咳払いをして私の脇腹を肘で突く。
『あっ、いっけなーい! 私ったら王子様になんて言葉遣いしちゃってるのかしら!』と70年代の少女漫画の主人公みたいな顔をして、大きく広げた手を口元に持っていく。その姿に、ラルは苦虫を100匹くらいかみつぶし、殿下は大笑いを始めた。
「君が来てから愉快でたまらない。どうかこれからは私のことはマックスと呼んで、仲良くしてほしい」
「殿下。コイツにそういうこと言うと、どんどん調子に乗りますよ?」
乗りますなあ。
「調子に乗られても構わないよ。伝報石は用意させよう。しかし、マッスルレディとしての活動は君の思うようにしてくれていい。困った時には助力を求めるかもしれないが、便利に使う気はない。ただ、正体は必ず隠して、暴かれないように気を付けてくれ。そしてもう少し、格好は考えてくれると嬉しいね」
ずぶりとくぎを刺された。格好に関してはティターニア様からの詳しい報告があったのだろう。
私でもあれは、なかったなと思う。
だって、裸足だったんだもの。




