26・王都を覆う闇。筋肉の出番かもしれません
あのあと、カーラはちゃんと報告してた。
間違いがある前に、きちんと手続きをしたほうがよいのではないでしょうか。という進言付きで。ありがとうカーラ。あと間違いってなんだ。
お母様もおばあ様も、本人たちに任せる、と言ってくれたそうだ。ありがとうお母様おばあ様。しかし任せていいのかアイツ。味見以上のコトされないか? ああ、それが間違いか。
今日も、お昼をラルと一緒に中庭でいただく。男色の噂が出てから、射るような視線が和らぐかと思ったが、別の視線が増えただけだった。そう、視線をたどるとその先に、憎々しげな表情の男達がいる。大人気だなランスロット! まあ背が高くて逆三角形で涼やかで顔は麗しい。どーだ、いいだろー!
「だから煽るなって・・」
バレた。
「ん?」何か変な感じ。
「どうした?」
「んー・・今日は何だか首の後ろがチリチリするの。なんか嫌なモノの気配がするわ」
よくわからないが私の中の検知器が、なにかを感じ取って私に警鐘を鳴らしている。
この嫌なものは、私にだけ向いているモノではなく、この王都全体にもやっとかかる感じだ。・・なんだろう?
「動物みたいだな・・。 ふうむ・・・なにかある、のかもしれないな。警戒はしておこう」
「うん」動物みたいって言われるとそういう野性的な勘かもしれない。筋肉は感覚を鋭くするのか?
学園内でも北の蛮族の動きが怪しいと、ひそひそとうわさにはなっている。蛮族、なんて言われているが、怪しげな呪術を使い、妖獣と呼ばれる獣を操り、恐ろしい暗殺者団も組織しているという。イメージ的には蛮族というより悪の組織だ。
「北の蛮族は、相手が弱ってると見るとすかさず攻撃に来る。我が国も最近、災害に見舞われて疲弊している。アイツらが暗躍を始めたとしてもおかしなことはない。まあ・・その災害のほうは、どこかのお人好しな聖女様が、夜な夜なせっせと復興に手を貸してたおかげで被害の回復は早いようだけど」
バレてーら。
北の蛮族ってどんな連中なのかな? とおもって、家に帰ってからおばあ様に聞いてみた。
「アイツらは、額に親指ほどの角が生えていて、肌の色が私たちより青い。斬ると青い血が出るんだ」
青い血!? え? それって人間なの?
そういえば、前世で、貴族には青い血が流れているという話があって、それは『貴族は肉体労働しないから、肌が白くて静脈が透けて見えるという意味でもあった』とかいう説を聞いて「ほへーん、なるほどなー」とか思ったものだが、こちらでそう言う表現を聞いたことなかったのは、実際に青い血の者がいて、それが蛮族といわれるものだとなれば、比喩でもそういう表現はしないわなー、と納得した。
「アイツらにはそれぞれに特徴があって、角が二本のやつは身体が大きく力が強い。角が一本のやつらは身体が小さくすばしっこい。角が三本のやつは妖術を使う」
ますます人間じゃなさそうだ。
そんな話を聞いたからか、夕食後になんとなく落ち着かずにバルコニーから夜空を眺めていた。ねっとりと何かが絡みつく気配にどうにもいてもたってもいられず、私はそのままの床をけって夜空に飛んだ。
王都の上空はとても静かだ。
ところどころに明かりが見える。王都の道路には街灯がある。仕組みはそういえばまだ聞いてなかった。ガス灯とかかな? 魔法かな? ほかにも松明を使ったかがり火や、大きなお屋敷で催されてる夜会のひときわ煌びやかな光が見える。想像してたより光が多く、夜空の星とあいまって王都はとてもキラキラと飾られていた。前世の夜景には比べる事も出来ないが、月あかりを反射する静かな川の流れもあり、それはそれで幻想的だった。
空の上から、そっとその景色に見とれているとやはり首の後ろがチリチリしてきた。一定の方角を向くとチリチリが強くなるので私のセンサーには指向性があるようだ。その方向に夜空を滑る。
しばらく飛んでいると、いくつかの個所から特にチリチリを感じる。
「一か所だけじゃない? この感じが寄り集まって私の筋肉センサーに引っかかったってこと?」
違和感の原因を探ろうと感覚を鋭くする。すると夜道を動くものに気が付いた。
川のそばの、石畳で舗装された道を、王都ではあまり見ない速度で走る馬車が見えた。速度オーバーだ。 気になって近づいて見てみる。貴族用の送迎馬車で、馬もかなり立派だ。ただし様子はあまり宜しくない。肝心の御者がいないのだ。見ていると馬車の速度がだんだん緩んでいく。どうやらなにか異変があって馬車を走らせたものの、御者が落馬してしまい制御がつかなくなってるみたい。その割にはちゃんと走ってるかな?
近づくと分かったが、なかなか豪奢な馬車だ。あの速度では追いつくフットマンもいなかったろうが、護衛がいたかもしれないレベルの豪華さだ。それがいないとなれば確実に緊急事態だ。
馬車が薄暗いアーチに差し掛かると急に馬がおとなしくなって馬車が停止する。そのままアーチの下に入っていく。御者もいないのにこいつは不自然だ。
私はそばにある建物の屋根に降りて身を隠しながら馬車を見張る。御者席にはいつのまにか黒いフードをかぶった男がいて、さらに仲間の黒フードが何人かでアーチの前後を抑えて、馬車を取り囲んでいた。フードたちは音も立てず会話もしないのに連携が取れていて、動きもプロっぽい。
すると、馬車の扉が開いて2人の女性が出てきた。夜会の帰りか、美しいドレスを着た女性と侍女という感じだ。侍女がドレスの女性を守るように男たちの前に立ちふさがる。
「あれ・・・ティターニア様だわ」
ドレスの女性が同級生の涼やかな令嬢だと気が付いた私はそっと距離を詰める。
男たちは光のない、黒い鎌のようなナイフを持っている。嫌な、なにかを感じるナイフなのでたぶん毒でも塗ってあるのだろう。うん。どう見ても悪漢です。よし、ささっと行って助けてしまおう。と思ったが、私は目立たないようにしなければならないのであった事を思い出した。 うーんどうしよう・・筋肉だるま状態になってから行けばバレないかな?・・いや意外と顔はそのまんまだったりするしなぁ・・・。
なら顔を隠せばいいかと思い至り屋敷にある、あれを使わせていただくことにした。
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ティターニア視点
ちょっと気分がすぐれなかったので、今日のグランツ将軍の夜会は早々に退出させていただいた。気分がすぐれなくなった理由はマキシマム殿下の兄、ビルド様のせいだ。あの方の目は正直気持ち悪い。
人を値踏みする事を隠しもしないし、相手が女となれば、どうやって手を付けるか、それしか考えてない。マキシマム殿下と似たお顔立ちだが、正直まったく好きになれない。
マキシマム殿下・・・マックスのことは、政略云々を超えて好きだ。思いやりがあって思慮深く、それでいて抜け目なく、聡明だ。誰もいないところでは私に甘えてくれるところが最高だ。
まさか王太子派の集まりにビルド様がおいでになるとは思わなかった。いったい何が目的なのか・・・。
などと考え事をしていたら、馬車の速度がぐんと上がった。何事か!? と思ったとたんに護衛騎士が叫ぶのが聞こえる。「急げ!こいつらは・・がっ!」急に声がかき消える。そのあとドサリ、がしゃんと落馬したと思われる音がした。二つ、三つとそんな音がした後に馬車が走る音以外何も聞こえなくなった。
「お嬢様!」侍女のメアリーがいつの間にかナイフを出している。護衛騎士がやられたのなら、彼女のそんなものは何の役にも立たないだろう。
「しまいなさいメアリー。もし交渉になった時に、相手を無用に刺激するかもしれないわ」
「しかしお嬢様!」
「しまいなさい」
馬車が急に速度を落とし止まる。私は馬車の中の手すりにつかまり、急な速度の変化に耐える。窓から見える周りが暗い。扉が外から開かれる。そこにはフードをかぶり口元を布で隠した男がいた。まずは二人。あと何人控えてるかわからない。メアリーが先に馬車を下りた。
馬車を包囲する男たちは全くの無言。私を殺すことが目的で、身代金を取ることなど考えていないのだろう。
そして手に持ってる小さな鎌のような形をしたものはきっと暗器だ。ぬめりとした光沢を放っている。触れるだけで、ただでは済まない毒が塗ってあるのだろう。いや、あの小さな鎌なら殺すことを目的とする毒ではなく、毒を得て苦しみ、その姿を見せしめとしてさらす。そんな類の、質の悪い毒が塗布されてるのかもしれない。そうでないなら馬車から降ろす必要はない。
最終的に、貴人の無残な姿を人の目にさらすのが目的なのだ。男たちはゆったりと構えている。小娘二人、害するのになんの緊張もないのだろう。いったいどこの勢力か・・。メアリーだけでも逃がしてもらえないだろうか・・・。そんな事を考えていた時、緊張感のかけらもない声が聞こえてきた。
「目・か・ら・ビィーーイム!!」
一筋の閃光が取り囲む男のひとりを貫いた。
「なに?」
男がひとり、どさりと倒れたる。見ると男の胸のあたりがまあるく焦げている。男は苦悶の表情を浮かべて、おかしな感じに手足を曲げてぴくぴくと痙攣している。死んではいないようだが、麻痺しているのか?
とっさに顔をあげると、周りの暗殺者たちもあたりを警戒している。後ろでまたもどさりと音が聞こえる。
「私を探すふりをして、ひとりはさっさと目的を果たそうとするとは・・おぬしら、なかなかのプロね」
暗がりから濃い金色の髪を後ろに結わえた女が現れた。女? 声は女性の声だったはずだが・・。現れた人物は飛び切りおかしな格好をしていた。顔の半分が隠れる奇妙なマスクをつけ、肩も露わなベストを羽織り、下には乗馬で穿くようなブリーチズ。しかしそんな事より目を引くのは、服のすべてをハチ切らんとしているその筋肉だ。
「ふっふっふ・・・。王都の闇夜に紛れ込む、悪の所業を許さない! 鎧の代わりに筋肉まとう、人呼んで筋肉の戦士! マッスル・レディ!」
ドドーン!
彼女の後ろになにかの幻覚が見えた気がする。




