25・彼が積極的。筋肉聖女は慣れてないかもしれません
しかし翌日から、だんだんおかしなことになってきた。
どうも私という存在の排斥運動が始まったようだ。学園に入って二か月でこんなことになるとは。お母様ごめんなさい。しかし私には大抵のいじめが効果ないので心配しないで。
ある日、ダンスの時間に練習靴を隠された。棚を開け、手を入れると手ごたえがない。しかし私には魔法がある。こんなこともあろうかと、タグ付けしておいた靴を瞬時に元の場所に移動させる。ご丁寧に切り裂かれたりしていたが、これも瞬時に修復する。燃やされてたりしたら面倒だったが切り裂かれるくらい問題ない。
ある日は二階から水を駆けられるが、大洪水を何とかしてしまう私にそんなものは何の効果もない。綺麗に、そして不自然にならないよう、私をよけて水が落ちる。
ある日は階段から突き落とされ・・ない。この学園に通う程度の少女がトラックを押したところでひっくり返りはしない。もちろんトラックは私だ。だるまは押されても倒れないのだ。私の場合トラックというよりはもう戦車というべきか?
押されたことにも気づいてないという風に装いてってってーと走り去る。それをティターニア様に見つかり「廊下を走らない」と注意される。すっ・・すみませぇん!
日に日にエスカレートする攻撃だが、逆にどう気が付かないふりをしてスルーしていくかが楽しくなってきた。負荷がかかると燃えるたちなのは筋肉と一緒だ。私こそが筋肉だ!!
「大丈夫か?」
またラルに心配される。先日も同じことを言われた気がする。いまは中庭にあるベンチに座り、2人で昼食をとっている。ラルを独り占めしてるので周りの視線が痛・・くはない。どーだ、私のランスロットはかっこいいだろー。へへーんだ。
「これ以上煽ってどうする・・・」バレた。
「ええ・・あおってなんかないよぉ」
ふええ。口元に手を持って行ってしなを作る。
「なにそれ?」
「キャラづくり。なんかこういう風に言うと余計に相手がイラっとするみたいで」
「イラっとさせて、どうするの?」
「ええと・・楽しい?」
「疑問形なんだ」
私だって16歳の女の子だ。友達もできずに、効果がないとはいえ、ずっといびられ続ければ楽しくはない。しかし最近はさすがに何かおかしいとみんなも思い始めたようで、攻撃が言葉によるものに変化してきた。これはあまり防ぎようがなくて面倒くさい。私はここにマナーや礼節の勉強に来たはずなのに、何だかどんどん変な方向に進んでいる。この姿は失敗だったんじゃないだろうか?
おばあ様は、人の縁も、あって困るものじゃないといっていたが、こういう状態の縁はないほうがいい気もする。とはいえ私は卒業までここにいるわけじゃないし、ラルが平民に下って官僚になれば、私も平民に戻って、もう二度と彼女たちと会うこともないだろう。じゃあいいか。
「魔法、目立たないように使ってるんだな」
「国王様との謁見の日に聖女としてお披露目するらしいから、それまでは控えめにしろっておばあ様が」
「確かにそのほうがいいな。お前の力は強すぎる」
「だよね」
この会話はお昼時の中庭のベンチで、周りに刺すような視線がある中で行われているが、私が周りに音声の認識を阻害する防壁を貼ってるの。耳をそばだてても、声は聞こえるけど内容はなんだか、よくわからない風にしか聞き取れないようになっている。便利だなぁ魔法。
「ところで、今日はこの後予定があるか?」
ラルがいい笑顔で誘ってきた。なになになにするの!?
「いいえ、特にないわ。帰って筋トレするだけ」
振りまくるしっぽを気づかれないように、やんわりと返事をする。
「そうか、じゃあ放課後、一緒にトレーニングしないか? 気分転換に」
「へえ? いいわね。どこでやるの?」ぶんぶん。
「最近、軍の施設を使わせてもらってるんだ。これがなかなか面白いんだ」
「楽しそうね」ぶんぶんぶんぶんぶん。
2人で笑うと周りの視線が余計に鋭くなる。そんな顔してるとお嫁の行き場所がなくなるわよ?
軍の施設に行くなんて言うと、カーラにきっとすごい顔をされるので「今日は読みたい本があるので放課後は図書館に行く」と伝報石で連絡する。ラルとの伝報石を首に。お母様と、カーラあての伝報石をそれぞれピアスにしこんでいるが、連絡する相手がふえると、そのたび石が一つずつ増えていくので意外と厄介だ。あとカーラの魔力は微力すぎて、了解の意くらいしか伝わってこない。
念のために図書館に私の姿の幻影を残していく。熱心に本を読む幻影だ。自立行動をして本を取り換えることまでする。
普段の私は脳筋なので本なんて読まないが。
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ラルに案内されて、軍に施設にやってきた。
学園にほど近いところにそれはあったが、今まで意識しなかったので気が付いてなかった。
門には警備する兵士が見張りをしている。ラルは手を挙げて挨拶しながら近づき、通行証のようなものを出した。兵士は形式的にちらりと証を見ながら気さくに挨拶を返してくれた。
「いよう、今日は一人じゃないのか」
「領内の知り合いの子が来ててね。軍の施設に興味があると言うからね。一緒に使わせてもらおうと思って」
「見たところ、だいぶ若いようだが大丈夫か? ここの設備はちゃんと軍用だからな。怪我とかするなよ?」
「気を付けるよ」
手を振って別れる。実は私は今、男の子になっている。もちろん正体を隠すためだ。ラルと一緒に軍の施設で遊んでた、なんてクラスメイトに聞かれたらどんな目に合うか。
それに場所が男子の兵舎なので、女性が気軽に入れるところではない。ましてや貴族の娘があらくれ兵士に交じって軍隊訓練を受けるというのはいろいろ問題が多いのでは? ということでラルと相談した結果、男の子として参加することにしたのだった。というかあなた、そもそもどうやって私をここに案内する気だったの?
「リリーナなら何とかするかなって思ってた」
するよ! 何とかすればいいんでしょう! というわけで、特に大きくもない胸をもう少ししぼませ、髪もラルに似せて魔法で黒く染め、肩で切りそろえている。髪についてはそこまでしなくていいんじゃないかと、ラルがうろたえていたが、これは魔法だから、実際には切っていないし染めていないと伝えたが微妙な顔をしていた。名前はリリ。あんまり変わってない。
施設の中をラルの後ろにひょこひょことついていく。ふーん。男っぽい造りね。おしゃれさも楽しそうさもかけらもない実用一点張りの頑丈な建物。しみついた汗がハードな訓練を思わせる。悪くない。好き。
完全に軍隊用の施設で、物騒な武器や魔法にも耐えるような防具もおいてある。王都を守る兵士ともなれば日々鍛錬が必要で、こんな砦を作って毎日鍛えられてるわけだ。訓練施設はごっつい砦の一部に作られているのだ。なかなか期待しちゃう。
「ところで、どうして、こんなところに入れる許可が出てるの?」
「グランツ将軍という方が、口添えしてくれたんだ。グランツ将軍は君のおばあ様の元部下さ」
「へえ・・・」
しばらく歩くと、ラルの言っていたであろう『なかなか面白い』という施設にたどり着く。なんというか、前世であったアスレチックコースのようだ。並べて建てられた棒。高低差のある坂や、木造りの巨大な壁。梯子を渡した池。壁に開けられた細い穴。それらが所狭しと並んでいる。
「楽しそうね!!」
「おまえならそういうと思ったよ」
準備運動をしてさっそく取り掛かる。まずは軽く、一周してみる。走って障害物に辿り着いたらそれを乗り越え、次の障害物に向かう。おお・・これはなかなか体力を使う。バランス感覚も必要だ。特にこの、壁登りが面白い。大きく二種類に分かれており、ボルタリングのように石が飛び出ているものと、何もない壁に細い縦の切れ込みがあるだけのものとがある。どちらも握力と勢いが大事だ。池にかかるアーチ状の梯子を手でぶら下がり、渡ってゴール。
匍匐前進というのは初めてやったが、何だか土まみれになるのが楽しくて、童心に帰ったつもりで堪能してしまった。
いつの間にか何人かの兵士が感心したように見ていた。
「いや、あの壁を、初見で登り切ったのはおまえさんくらいだよ。しかもそんなに小さいのに・・」
「ほんと、そんなに小さくて見た目もかわいいのに・・おれ・・自信なくしたよ・・」
兵士が何人かうなだれている。確かにあの壁は私の身長の三倍はある。そしてそれがほぼ垂直に立っている。
「じゃあ一緒に訓練しましょう!」
と呼びかけた私に何だか皆さん頬を赤らめて「そうだな」「やるか」と元気に同調してくれたが、「こんなに可愛い子に誘われちゃあ、やるしかねえな!」という声まである。えーと私今、男の子ですよね? 疑問形?
何周かしたころにラルがにやりと笑う。このコースを続けて何周もできるのはそうはいない。
「じゃあ、そろそろ勝負するか」
「今度は何を掛けるの?」
「負けた方が勝った方の言うことを聞くというのは?」
「ラルは、なにも賭けてなくても、いつでも私のどんなお願いも聞いてくれるから、あえて勝負して、その権利を勝ち取る必要はないね」
ラルは私に優しいのだ
「ふうむ・・確かに。じゃあ、勝った方が負けた方の頬にキスをするというのは?」
「か・・勝った方がするの? そういうのは逆じゃないの?」
なんだその提案は。コイツ負ける気全開で言ってるな?
「俺が勝って、おまえににしたいのさ」
「その言葉、忘れないでよ」
ホントにしたいというなら実力で示してもらわないとな! って、なんだよこれ!? 思う壺か!
しかし、ラルの提案は本気だった。スタートするまで私は今の体のサイズを忘れていた。私の二倍くらいある長い脚でぐんぐん先に進んでいく。障害物のクリアーは身軽な分私の方が早い。そこで追いついてもまた走るターンで先を行かれる。
周りの応援がすごくなっていく、気が付いたらすごい人だかりだ。いつの間にか賭けまで始まっている。いいのか?
最後の障害物にはラルのほうが先にたどり着く。最後の障害物は池にかかる梯子だ。さっと飛び上がって梯子を掴む。この障害物なら足の長さは関係ない!おりゃあああ! と回転よく腕を動かす。勢いよく飛び降りて着地! 判定は!
「勝者!ランスロット!」
くー!! 足が長ければ手も長いよ!! 私が一つ飛ばしで梯子をつかむのに、アイツは三つも飛ばして掴んでいくんだ! くっそー卑怯者ー! 元の姿でもう一度勝負だ!
「ふふ、おまえ相手に初勝利だ。今日はこのまま勝ち逃げにさせてもらうよ」
「次は必ず私が勝つから!」
「じゃあ、今回は遠慮なく、景品をいただくとしよう」
「へ?」
腰をがっちりと抱かれて引き寄せられる。あれれ? 小さな私はラルの胸にすっぽりと収まり、首筋に手が当てられる。
はわーなんだこりゃー? とか思ってるうちに、ちゅっっと湿った音がして・・・彼の薄い、しかし柔らかい唇を私の頬に感じる。うおう!
・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
・・・え? あれ? あわわ! うわー! 長い! 長いよ!
ちゅってするだけじゃないのか!
いや確かに一回、ちゅってしてるだけだけど!
うわわーー! まだ!? ぎゃああああーー!! ああああああ!!
まだなの!? もう・・もう限界いい!!
私のハガネの心臓が爆発しかけたところで、ようやく唇が離れ・・なかった。
離れかけた彼がまだそこにいて、私の首筋を湿ったなにかが撫であげる。
ぺろり。
ふぎゃ!!顔を振り向かせるとそこにラルがいた。
目を細め、色っぽい唇の両端を釣りあげ笑っている。その唇にそっと桃色の舌が覗いて唇を舐め、撫でた。いつもはやさしいラルがそこにはいなかった。悪戯が成功した猫のような顔をした、綺麗な男が代わりにいる。蠱惑的な笑みは、吸い寄せられるように目が離せない。
「おいしいな」
「・・!?」
「しかし、今日はここまでにしよう。これ以上は、俺のほうが我慢できなくなりそうだ」
そっと腕の力が弱まり、開放され・・ない。改めて引き寄せられる! 悪戯猫の顔が近い。
「次は何を掛けようかな?」
ぷしゅー。限界だった。私は美しい男の腕に抱かれたまま、意識を手放した。
目が覚めるといつものラルがそこにいた。大きな背を小さく丸め謝罪の言葉を口にする
「スマン、やりすぎた」
「うん・・私の取り扱いには注意して・・ああいうのは・・まだ心臓に悪いわ・・」
「気を付ける」
さっきのアイツは誰だったんだ? いやむしろこいつが偽物なのか?
まあいい。どっちも好きだ。
ぼーっとしたまま送ってもらい、ぼーっとしたままカーラに引き渡された。
「なにかありました?」私の様子が変なのかカーラがいぶかしむ。
「いや・・うん・・ええと・・」
まごつくラル。しかたない、わたしがはなそう。
「らるに あじみされた」
「はあ!?」かーらがのめがつりあがった。
「す・・スマン!頬にキスをさせてもらって、少し首を舐めた!」
「はああああああ!?」
しばらく止まって再起動したカーラは「奥様にご相談します!」といってラルを追い返した。そのあといい汗をかいたのがバレてすぐさまお風呂に連れていかれた。
服を脱がされたら、カーラが悲鳴を上げてぶっ倒れる。しまった、一部が『男の子』のままだった。再起動したカーラが起き上がるときには女の子に戻ってして「疲れてるんだよ」と言っておいた。
「先ほどのランスロット様のお話に、少し頭に血が登ったようです・・・」
ごめんカーラ・・・。
翌日から二つのうわさがでる。一つはラルが実は男色家だという噂。あんた、軍の施設でみんなの前で男にキスしたんだから、そう言われてもしょうがないよ。
もう一つは妖精が図書館で本を読んでいたというものだ。閉館になっても帰らず、熱心に本を読んでいる美しい少女がいて、女性の司書が声をかけても反応がなく、触れようとするとなんと通り抜けてしまう。そのあと、花が散るようにほどけて、消えて行った。という話だ。
あ、それ私の幻影・・。消すの忘れてた。




