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24・筋肉聖女は学園で浮きまくる。当然かもしれません

 私は処刑台に立っていた。


 いや正確には座っていた。

何の罪かといわれれば、王太子を吹き飛ばした罪でだ。

 暴行罪。いや傷害罪? 私に限っていえば殺人未遂に問われかねない。

しかも相手は王族だ。国家反逆罪とかでもいい。


 ここは処刑場ではない、校舎の裏だ。そこで女子生徒にぐるりと囲まれ睨み付けられている。筋肉の鎧を身に纏う私でもぶっちゃけ怖い。


 ぶっちゃけ、それだけのことをした。

普通はぶつかってひっくり返るのは、王太子ではなく小さくか弱そうな私の方だ。それが細身ながらも、まあまあ鍛えてるであろう身体の王太子を吹き飛ばしたのだ。もう全力で突き飛ばしたと思われても仕方がない。実際はちょんと可愛らしくぶつかったくらいだ。ちょん。


 まあ私にとっては『ちょん』、でも相手にとってはトラックにはね飛ばされたようなもんだ。前世ではトラックにはね飛ばされると異世界転生するという話があったが、王太子が異世界転生しなくてよかった。もし異世界転生してたらこっちの世界では死んでることになる。そうなれば殺人だ。


 ということでいま、私は女子生徒たちに囲まれ、刑に処されている真っ最中なわけだ。


反省の意を示すため、今私は、しろとも言われないのに正座していた。ただ、ここで私は新発見。筋肉だるまの状態だと、実は筋肉が邪魔して正座できない。私は20年ぶりくらいに正座というものをして、ひそかに感動していた。日本人の心は正座にあるよね!


「リリーナ様。普段から粗忽なあなたの所作には、わたくしたちも目に余るものがありました」

おっしゃる通りです。


「それが何ですか、とうとう王太子殿下を突き飛ばすなんて」

いや・・突き飛ばして、まではいないのです・・・。ちょんって当たっただけなんです。とは言えない。


 今、私の処刑を請け負っているのはティターニア=パドル悪役令嬢。違った公爵令嬢。いやすっごい悪役顔なの! 綺麗にとがったあごに、吊り目がちな目元、そして薄い唇! 涼やかなお顔は普段から氷のように表情が冷たい。それが今や氷どころか顔から猛吹雪が吹き荒れ私にたたきつけてくる。うおおっ、寒!!


 彼女には、マキシマム殿下の婚約者という地位と、立場があった。公爵令嬢で未来の王妃様。その御令嬢の旦那様になる人を吹っ飛ばしたのだ。目も吊り上がるというものだ。彼女が怒るのも無理はない。


 いやそもそもだいたい全部私が悪いので、どこにも一切反論の余地がない。彼女は女生徒たちのリーダー的存在だ。だから、周りの女性のふるまいにはいつも目を光らせていたし、最近は雑な私の所作に、いちいち苦言を呈してくれていた。いつもありがとうございます。そんな私にほかの生徒も刃を向ける。


「そうよ、リリーナ様は少し男子に人気があるからと、調子に乗ってません?」

え?


「だいたい、ランスロット様とも距離が近すぎるわ」

ええ?


「英雄の孫だからと勘違いなさってるのですわ」

えええええ?


 そんにゃー・・だいたい普段から女子には距離を置かれてきてたので、話しかけてくれるのが男子くらいしかいないうえに、元・平民の気安さでホイホイ返事してたのがまずかったかー。


 ラルとの距離が近いのは許してくれ。むしろ私は彼に『抱き上げてほしい』と頼まれるくらいの仲なんだ。え? 普通は頼まれない? でしょー!? あ、違う?


 ただ、私と彼は婚約などしてない。そう思うと彼は、彼女らにとって優良物件だ。そうなれば私は邪魔な相手となる。英雄の孫の件につきましてはー・・おばあ様と出会ったのこの間だからなぁ・・あんま自覚はないのですよ?


 とか、神妙な顔を忘れてぽかんとしたままつらつら脳内で反論してると、その態度が癇に障ったらしく、みなの言葉の刃がさらに鋭くなる。そろそろ足がしびれてきたなぁと思ったところで。思わぬ方向から声がかかる。


「ティータ。そこにいるのかい?」

茂みの向こうから涼やかな声が、涼やかな氷の女王を呼ぶ。


「殿下!? はい、ティータはここにおりますわ!」


すすっと氷がみんなに目配せをすると、瞬時にささっと雲の子を散らすように全員いなくなる。なんという統率力。未来の王妃様には期待がもてる。


 これはそのほうがいいんだろうなと、私も立ち上がり、その場から離れようとしたが、久し振りの正座に足がしびれてちょっとつんのめってしまう。そこに王太子が。

うわあ、二度目はさすがに許されない! 私は何とか、しびれる脚にブレーキをかけろと踏ん張らせる。


「これはリリーナ嬢」

目が合ってしまった。こう見ると美形だ。あと、さっきぶつかった時にも感じたが、意外と鍛えられた良い胸板だった。その胸板が目に入る。視線に気が付いた王太子の笑みが深まった。バレタ。王太子殿下は少し顔を寄せ、涼やかな声でささやく。


「私も鍛えてるほうだとは思うが、君にはかなわない。ぶつかるのも二度目は勘弁してもらいたいな」 


 ・・・・知ってる!! 


 この方、私の中身が『筋肉だるま・フヒヒ女子』ということを知っている! いやフヒヒのほうは知らないか。いや侮るなかれ王家の諜報力。どこで見てるかわからない! 壁に耳ありジョージとメアリー。いつも思うんだけどこの二人は有名なスパイかなんかだろうか?


「殿下!」

しまった、まずいところをティターニア様に見られた。


「リリーナ様! あなたまた! 今度は殿下にまで・・!」

殿下にまで色目を使うのかといいたいのか。分かるその気持ち。でもそんな気は、まったくない。いや、いい筋肉だと知ってしまうとなくもナイ? いやない! ゴメン嘘! 王子ルートのフラグは一切立てる気はない。私は家族とラルと、筋肉しか愛してない。むしろ家族を一番愛している。二番は筋肉? 


「驚かせてしまったようだね、ティータ」

「え?」


「先ほどは、この可憐なリリーナ嬢にぶつかりそうになって、思わず自分から飛びのいてしまったんだ。僕がぶつかったら小さなリリーナ嬢はけがをしてしまうからね・・・」


え・・・?


「その飛びのいた姿がちょっと無様だったばかりに、みなに心配をかけてしまった。すまない、リリーナ嬢。僕が君を巻き込んでしまった」


・・・えええ・・・そんな馬鹿な。この方の、私をかばってくれる優しさだといっても、王太子が自分から無様なことをしたと、認めていいはずがない。王とはそういう立場のはずだ。なのにこんなことを言ってくれるということは、おばあ様が英雄だからか? それとも・・私が教会の認める聖女だからか? 後者かな。


 なんにせよ申し訳ない。私はあらん限りにかぶりを振って謝罪の言葉を並べ立てる。その姿があまりに情けなかったのか、ティターニア様がお声をかけてくださる。


「リリーナ様・・・その・・淑女には、それにふさわしい、謝罪の仕方というものがございます。確かに、その姿に、お気持ちは伝わりますが、先ほどの膝をついての謝罪もそうですが、そのように一心不乱になされますと・・、あなたという存在が侮られてしまいますわ」


・・・おお!? これは私のふるまいに対する正しい指摘だ! ティターニア様は極寒のお顔で厳しい猛吹雪をふき荒らすけど、基本的には正しいことしか言っていない。しかも、『侮られてしまう』という注意には善意すら感じる! この人、悪役顔だけど根はいいひとなんだろうなあ。


 ほっこりしつつ、思わずお二人のご尊顔を、ぽかんと眺めてしまったら、またも注意された。ふえええ、私ってばほんとドジ! ってアラサーフヒヒ女のこういうのは痛々しいからやめよう。反省しますますます。



殿下とティターニア様が去ってから、近くに隠れていたラルが現れる。


「大丈夫か?」

「大丈夫よ。殿下がかばってくださったし」


「まあそう思ったから出てこなかったんだけどな。あの方は聡明なかただ。きっとよくしてくれるだろう」


「あら、お近づきになってたの?」


「子供のころから何度も会ってる」

「そうなんだ」


「まあ、意外と油断のならない人だけどな」


やっぱりそういう人かー。腹黒かー。そういう人っぽいよなー。腹黒くらいのほうが未来の国王様としては安心かー?



とにかく、敵じゃないなら心強い。


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