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23・学園入学? 筋肉聖女は浮いてしまうかもしれません

 学園に編入する日となった。

 

 住む部屋を整えたり、ドレスを作ったり、制服を作ったり、ラルとデートしてたり。そんなふうに過ごしていたらあっという間にその日がやってきた。

 事前に渡された教科書を眺めて、弟に「大丈夫?」と聞いてみたところ、お父様に習っていた程度で十分通用しそう。と頼もしい返事が返ってきたので気にしないことにした。私もまあ優秀な司祭様に師事していたので、当分は大丈夫そうだ。


 学園には入学ではなく編入。この国では年頃の貴族は、共同生活を学び、人脈を築くために子弟用教育学校に通うのが常識らしい。寮があり、そこから通うこともできるようだし、平民なども別クラスで登校してくるらしい。


 私たち姉弟は、辺境伯領の学校で学んでいたということにしておいてもらった。もっとも、あっちは実務に近い事を教える学校で、平民がほとんどだ。学問に対する考え方はそれぞれの領によって異なっており、平民に学などいらないと考える貴族も少なくはない。


 弟は学校というものに通うのは初めてなので、少し緊張しているようだが、私は前世で通った経験があるので落ち着いてこの日を待っていた。


 朝、カーラたちに仕度され、学園指定の制服に袖を通し、可愛らしいベレー帽をちょこんと頭にのせてヴォーデモン家の馬車に乗り込む。


「お姉ちゃ・・お姉さまはどうしてその状態だと身長まで変わるの?」

「身長がちょっと低いほうが、この制服、可愛く見えるよ?」


いまは12歳の弟のほうが、ほんの少し上に視線がある。


「そんな理由で伸び縮みされると・・・ああっ! 僕はいったいどうしたら!」


私の身長が伸び縮みすることに、お前にどんな、どうする選択肢があるんだ?


 学園の馬車寄せにはいくつかの貴族の馬車が停まっていたが、生徒たちは馬車から出てこない。まだ登校には早いようだ。一般の平民が通う学校の傍を通ったが、生徒はもうすでにかなりの数が通学路を歩いていたので、あちらの方が始業時間が早いようだ。

 みんな歩いて通ってるようだが、楽しそうに話をしながら通学してる姿は前世と同じで、あちらの方が楽しそうだ。


「僕もあっちがよかったなぁ・・お貴族様と一緒なんて、気が重いばかりだよ」

学園には侍女を連れて行かないので、今馬車に乗っているのは私と弟だけだ。


「慣れるしかないわね。あなたに貴族の学校に通わせようというのは、おばあ様はアレクをヴォーデモン家の跡継ぎに、とでも考えてるのかもしれないわね」


「ええっ!? いやだよ! 僕姉さんと一緒がいい」

「私と一緒に何をするんだ?」


なんか変身するようになってから弟がおかしい。だが待て弟よ。これは世を忍ぶ仮の姿で、本来の姿はお前がよく知る筋肉だるまだぞ? と思ったが、コイツは変身する前もまあまあのシスコンだった。姿に惑わされてるところはあるかもしれないが、まあ結局シスコンなのだ。


行者に扉を開かれ、馬車から降りようとすると、すこし武骨な手を差し出された。

ラルだった。


「おはよう、リリーナ、アレク」


私の手を取り降ろしてくれたラルは学園の制服を着ている。

「あれ? ラル。あなたって半年後にアカデミーに入るんじゃなかったの?」


「驚いてくれた? 君らが学園に通うので、護衛を兼ねて僕も通うようにと、君のおばあ様に言いつけられてね。父に頼んで、編入の手配をしたんだよ」


「英雄って・・・。それに辺境伯って融通きかせられるのねえ」


「国境の鎮守のために我が家は重要だからね。よっぽどの無茶なこと以外は王宮も言うこと聞いてくれるんだよ。・・まあ、不穏な空気があるときは、国境の貴族の人質は何人いても困らないということも、あるんだろうさ」

肩をすくめるラルは、がっちりとした細マッチョ具合が、厚めの制服を着ててもうかがい知れて、とてもかっこいい。くそう、とてもかっこいい。しかし人質。なんの?


「お兄様!」


可愛らしい声が後ろから聞こえる。ふり返るととてもかわいらしい女の子が、黒いポニーテールを揺らしながら早歩きでやってくる。


「お兄様!ひどいです!置いていくなんて!」

ぷりぷり怒る顔が可愛い。確かにお兄様と呼ばれたラルと、目元のあたりが似ている。髪は同じく黒い。艶があって綺麗だ。


「ごめんよトリィ。リリーナを見つけたから、挨拶しておきたくて」

「えっ! まあ! この方が聖女様なんですの! まあ! まあ!」

かわいらしい瞳がいっぱいに開かれて、ぽかんと空いたままになる口をかろうじて手で覆う。


「はじめまして!わたくし、トリスタン・ディノ=バーンと申します! 兄からリリーナ様の活躍は聞いております! どうぞ、トリィとお呼びください!」


「あ、トリィ。彼女が聖女だって話はしばらく内緒だから」

「まあ、そうなんですの? わかりましたわ!」

はつらつとしたお返事が、貴族らしくなくてかわいらしい。


「アレク、この子は君と同い年だ。同じクラスになると思うからよろしくしてやってくれ」

「えっ!? はっ! はい!」

おい、見とれてたな。意外と気が多い子だと、弟のことを、もう一段、下方修正。


「あの子は産まれてからずっと王都に住んでる。産まれながらの人質ってことだ」


「なんのための人質なの?」

「そりゃあ、国境の貴族が、あちら側に寝返らないためさ」


なるほど。

共同生活を学び人脈を作るための学園に貴族の子弟を全員入学させる。

その理念はいいことだと思ったけど、王都に貴族の家族を集めて、いざというときには人質にするという側面もあるわけか。


世の中世知辛い。



「ヴォーデモン家のアレックス様、リリーナ様、バーン家のランスロット様でございますね。学園の使用人・モルドと申します。編入、心よりお待ちしておりました。手続きが多少あります。ご案内いたしますのでこちらにどうぞ」


 綺麗な所作の青年が出迎えてくれた。確かにどこに行けばいいのかわからなかった。しかし、学校に使用人がいるのか・・・。それぞれ自分で使用人を連れてくるものもいるようだけど、それとは別に、学校側も用意しているということか。さすがお貴族様が通う学校。

 まあ確かに、前世では生徒の案内から掃除の指導まで全部先生がやっていた。仕事は分けてもいいだろう。

 そう思うと前世の先生ってやる事多いうえにクレーム対応までさせられて、あれは奴隷と変わらないな。公立の学校なんか給料も安いだろうし。なんでそんな仕事に就くんだろう?


トリィはすでに生徒なので、案内の必要はなく、使用人が来た段階で分かれた。


 案内された場で、校長先生っぽいひとからありがたい訓示を受け、担任に連れられ教室に向かう。この学年には一クラスしかないのでラルとは同じ教室だ。歳が違うのだが、編入ということで同じ学年にしてもらったらしい。ごまかしたか? 


 しかし学校についてから、何だか周りの目がうるさい。それはラルがかっこいいからだ。もともと年相応に見えない落ち着きと、あまり見られない綺麗な黒髪黒目。そして何より同年代の男子の中でも特に鍛えられた身体がかっこいい! かっこいい! ちなみに女子の中では私はもちろん美少女だが、貴族は基本、みんな美少女なので、美少女は貴族の中では目立たない。なんだか理不尽だ。


「どうした?」

ぼうっと見てたら、優しい目を返されドキッとする。


「ラルがかっこよくて・・・」

ぽつりとつぶやくと、ラルが赤くなりながら笑う。

「リリーナも可愛いよ」

どきーん! もう私一生『このまま』でいる!


「でも、あの姿のほうが好きだな」

ああ! コイツは本当に趣味悪いな!! わーい!!


「ときどき戻って、またあのたくましい腕で抱き上げてほしいんだが」

「・・・それはなんか違うと思う」

違うと思う。



「うん、二人とも・・学園での自由恋愛は認められているが、節度を持って行うように」

しまった、担任の先生が一緒だった。


「あと、2人はそれぞれ立場もあるだろうから、いろいろややこしいことに巻き込まれないよう気をつけてくれたまえ」


「ややこしいこと・・ですか?」

「ああ、自由な恋愛は認められているが、すでに婚約者がいるものも多い。ややこしいいざこざに発展しないように、よく注意して、節度を持って・・ね」


 あれ? 私とラルは一緒に暮らそうという約束はしたけど、嫌なら実家に帰っていいという猶予がついている。これは婚約という状態ではないわけだし、そうなると二人とも一応フリーということになるのか。辺境伯に英雄の孫。確かにややこしいことに巻き込まれそうだ。


さて、学園生活。


 教室であいさつしたり、休み時間に囲まれたりするのは前世と同じだ。違いは全員貴族ということだ。腹の探り合いもあるし、家の格や、派閥の違いで付き合えたり付き合えなかったりする相手がいる。め・・めんどくさ!!


 しかし二週間もすればだいたい環境は決まってくる。私は軍閥に属するヴォーデモン家、ラルは広大な領地と強力な権力を持つ辺境伯の次男。それにふさわしい派閥に組み込まれていく。なるほど貴族の学校生活というのはこういう派閥の形成にも役立つわけか。


 しかし、私はラルと違って、産まれた時から貴族ではない。ついこの間、貴族の仲間入りした新参者だ。いくらお母様とおばあ様に突貫で指導されたからといって、身についてない所作や言動はすぐにボロが出る。そういう姿をさらしていけば、徐々に女子生徒の中から浮いていく感じがしていったが、半年もたてば完全に孤立していた。

 ああ、今世では家族はいるけど友人には恵まれないのか・・。

いや、ラルもいるし、町に帰れば友人だらけだ。別にいいや。



 そんななか私の立場を危うくする、決定的な事件が起きた。

 

 前の授業で教室を移動したのだが、そこに忘れ物をしてきてしまった。

残りの時間が少なかったので慌てて取りに行こうと、教室に入ったばかりのところで振り返って走り出そうとしたら、そこに人がいたのだ。

 思わずぶつかってしまうのだが、これがまずかった。なんと相手の男子生徒を吹き飛ばしてしまったのだ。そりゃあそうだ。私は姿も形も可愛らしい小さな女の子だが、中身は筋肉だるまだ。私の筋肉の暴走突進を受け止められる者はそうはいない。


さらにこの学園に通う貴族なんかみんなベキベキのボッソボソだ。真の私ならば鼻息でポヘーンとみんなまとめて吹き飛ばしてしまえる。いや、女子として、それが出来てもやらないが。



 寸でのところでブレーキをかけたがちょっと遅かった。

この体の制御はいまだ100%じゃない。吹き飛ばされた男子生徒は廊下の反対側の壁に張り付いて呆然としている。めり込んでないだけましか?


「殿下!」慌てた声が壁に張り付いた男子生徒に向けられる。なぬう!?

「ちょっと!リリーナ様!」そして鋭い声が私に向けられる。


なんと私が吹き飛ばした相手は同じクラスのマキシマム・ディー=フィッツバード王太子殿下だったのだ! 


ぎゃああ。王子が学校とか通うな!


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