表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

20・おばあ様と対面! 筋肉で語り合うかもしれません

「お座り」

「はい」


私たちは顎で指された長椅子に三人で腰かけ、おばあ様と対面する。


家令の指示で使用人がお茶の用意をする。我が家ではかいだことのない、少し柑橘系の匂いがするおいしそうな紅茶が注がれたカップが並べられる。おばあ様が口をつけるのを見てから、お母様がカップを握る。おばあ様は口をつけたカップを置いた後、何も言わずに庭の方に視線を向ける。


一分はそうしてたと思うが、じとりと視線をこちらに戻しようやく言葉を発する。


「おかえり。ステラ」


母はいっぱいに目を開き、口を横にひき結んでいる。間を置かずうるんだ瞳からぽろりと涙がこぼれだした。口の端がわなわなと震え、少し俯きながら


「ただいま・・帰りました」と絞り出した。

にこりともしないおばあ様と、涙をこぼすお母様の間にこれまでどんないきさつがあって、今も何があったのかは私にはわからない。

しかしなんとなく、これまでの問題はこのやり取りだけで十分片付いたように感じた。


「その二人が私の孫だね」


 おばあ様の視線が鋭くなり、私に向く。おお、私が先でよかった。これきっと、目からビームで出る。目には見えない強力なビームを感じ、慌てないようにすっと立ち上がり出来る限りの礼を尽くしたお辞儀をする。


「リリーナです。16になります」

「あっ・・あれっアレックスです!12になります!」


「ふうん。・・・リリーナはかわいいね。アレックスは・・・弱っちそうだね」


恐ろしい圧力の視線に柔らかいものが混じっている。アレクは気が付くかな?

「しかし、リリーナはぎりぎり、アレックスに至っては落第だね」


これは例の作法に関する言及だろう。

「ええ、お母様。・・・しばらく私も無作法な生活をしておりましたので、その点、おろそかにしてしまいました。それにつきましては反論の余地もありません」


おばあ様は、ふんと鼻息を鳴らし立ち上がる。

「まあいいだろう。おいおい慣れて行けばいいさ。それより三人ともこっちにおいで」


立ち上がったおばあ様は大きい。母より頭一つ、私からは頭二つ大きい。その人が、私たちを庭の窓の方に誘う。いわれるままに、そろっておばあ様のもとに行くと、三人まとめて抱きしめられた。おばあ様のひろい懐に包まれると、なんとも幸せなものが、胸いっぱいに広がる。ああ、前世で一人もいなかった肉親が、またここに一人いて、私を愛してくれる。

とてつもない幸福が私を包んでくれる。


「ステラを強い子に産んであげられなくて、私はずっと悪いと思っていた。しかしこんなかわいい孫を産んでくれて、本当にありがとうよ。これからは三人とも遠慮なく私に会いに来るといい」

 いっそ住んでしまえ、と笑い声をあげるおばあ様は英雄と呼ぶにふさわしい豪快さだ。私も楽しくてしかたなくなってしまう。


「私もお母様にお詫び申し上げなければなりません・・・。立場もわきまえず勝手に飛び出し、自由にふるまい。今まで申し訳ありませんでした」


泣き笑いの母が謝罪する。するとおばあ様がそっと離れ


「いいんだよ、あの男にあんたを連れて行けって言ったのはあたしさ。気にするこたぁないよ」

「えっ・・」


「好きになったんだろ。好きな男と一緒になれない苦しみは、私はよっくわかってるんだ。だから気にすることはないのさ」


おばあ様かっこいい! 私は大好きになったおばあ様を、もうとことん好きになった。


「それにしても・・」

 一気に視線に剣呑なものが乗る。びーむ! 気温が少し下がった気がする。その視線の先にいるのは私だ。


「聖女だって聞いたから、どんなに強そうなのが来るのかと思ったら、普通の女の子だね」

ががーん、この可愛い可愛いモードのリリーナちゃんを指して普通って! 普通の女の子は筋肉だるまと可愛いモードを使い分けたりはできませんよ! さっき言った可愛い孫は弟のみか!? 私も入れておばあ様!


 家族のぬくぬく再会喜びモードから、一気に冷え冷え極寒モードに急降下。なんでまた、そんな視線を孫に向けるのおばあ様! おばあ様は私に何を求めているの!?


「私はね、英雄と呼ばれた女さ。男はともかく女は強いに越したことはないとおもってる。ステラは病弱だったから仕方ないが、あんたはそのステラを癒すほどの魔法使いだと聞いている。それがどうだい? ベキベキのボソボソじゃないか。あんたはほんとに聖女って程のモンなのかい?」


 おおう、そうか、それは確かにその通りだ。その通りでいいんだよね? この可愛いモードの私はベキベキのボッソボソで、おばあ様の鼻息でポヘーンって飛んでいきそうなくらいの弱そうさだ。しかしそういう話なら、話は、別だ。そう、そういう話なら、逆に、話はいらない。


「おばあ様。わたくし、おばあ様の事をお父様たちにうかがってから、おばあ様がどのような方か、いつも想像しておりました」

ふむ。とおばあ様の目が細められる。


「どのような努力。どのような鍛錬、それらをどう重ねてられたのか、様々に夢想し、思い描きながら、・・・虚像のおばあ様を私の中で作り上げ、真似をし、追いかけてまいりましたの」


おばあ様の片方の眉が上がる。


「どうぞ、わたくしが思い描いた虚像が、真実にどれほど近かったか確かめさせてください。・・そしてその結果がおばあ様の満足のいくモノになっているかどうか。お試しください」


私は小さな右手をひろげ、緩やかに上げる。目線の高さに手が来たとき。おばあ様に笑いかける。不敵な笑いだ。


部屋の入口に立つ家令が息をのむ気配を感じる。

「ほう?」面白いといわんばかりにおばあ様もにやりと笑う。


お母様と弟が五歩は下がる。よくわかっている。

おばあ様の大きな手が、私の手を掴む。掴むというより包むという感じだ。準備はこれだけだ。


「いきますわ」

「来るがいい」

腕相撲のような姿勢だが、机はない。孫の手をつかむおばあ様の目が吊り上がる。


「ふん!」

「ぬうん!」


ビキビキビキ! 空気が振動する。庭に通じる窓が悲鳴を上げる。


私はおばあ様を一回転させるつもりで腕をひねるが、なんと堪えられてしまう! すごい! 私のちからに耐えられる人と初めて会った! 嬉しくなった私はギアを一段上げる。


「おりゃあ!」

「ぬううう!!!」


やばい! 凄い! さすが私のおばあ様! ギアをあげた私の力に見事に耐え、逆に押し返してくる。こんな人が家族だなんて最高だ!! もういっそ私の全力を見てもらいたい! しかし全力を出すには変身を解くしかない。うおおお見てもらおう! 私の真の姿を! 私の筋肉を! いくぞおおおお!!!!


バキイッ! 私が真の姿を出そうとしたその刹那、おばあ様の右足を支えていた床が抜ける。

急激に圧力が弱まる。お母さんの「あらっ」って声が楽しそうだ。弟は青い顔をして泡を吹いている。


「おやまあ」

急激に力が解放される。勝負は終わってしまっていた。笑うおばあ様はとても楽しそうだ。


「あんた、私の変身能力まで、再現してたんだね。・・なかなかやるじゃないか。はっはっは!!」

「おばあ様の前に、偽りの姿で現れたこと、お詫び申し上げます」

私は神妙に腰を折り、頭を下げる。


「ははっ!いいんだよ!どうせ元の姿も私の若いころにそっくりなんだろうさ! ねえ、ジェド?」

ジェドと呼ばれた家令は半目になってやっぱりそうかー・・という顔をする。


「いいねえ! リリーナ! あんたは『正しく』私の孫だよ! 教会もなんだって聖女にするなんていうんだろうね。この子は英雄の器さ! いやさ勇者か?」

 おばあ様はとてもとても愉快そうだ。ああよかった私もおばあ様に孫と認められた。胸をなでおろしていると母が少し子供っぽい物言いをする。


「そうなのお母様。そのことなんだけど、リリーナは聖女として教皇様に認められたから、国王陛下に謁見しなければならないのよ。だけど、見ての通りの無作法者でね? 謁見にはまだ日があるようだから、しばらくこっちで『私が』淑女教育しようかなあっと思ってるのよ」


私がの部分が強調されてるのは何だろう?


「ふうん。確かにやったほうがいいだろうね。作法も学も、経験も人の縁も、あって困るもんじゃない。弟の方も面倒を見てやろう。一週間後には入れるよう。王立学園への編入手続きをしておく。あそこなら、貴族にもまれて勉強もできるし礼儀作法も身につくだろう。ついでに味方も作るといい。慌てることはない、王は一年は謁見しないさ」


 衝撃の展開だ。えっ!? 私、学園に入るの!? 平民なのに!? あれ? もしかして私、おばあ様の孫ってことは貴族!? ががーん今気が付いた。



「あと、淑女教育なら、私が直々に手ほどきしてやるさ」

お母様が青ざめた気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ