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19・筋肉聖女は出惜しみなし! やりすぎかもしれません

 結局、淑女教育は間に合わなかった。


完全に体形が変わってしまい、私の鍛えられた神経でも、からだの大きな差異に戸惑いを見せた。とはいえ最低限の教育を施され、今は王都の傍まで来ていた。お母様と弟が一緒だ。


 あちらに着いたら、ヴォーデモン家のタウンハウスにお世話になることになっていた。


 最初は、ご領主様のタウンハウスに身を寄せることになっていたが、お父様が、事の顛末をおばあ様に伝報で送ったところ、顔を出せといわれたのだ。やっぱりこうなるのか、と母はちょっと緊張していたが、孫の顔を見せられることになってちょっと嬉しそうだ。そんなわけで弟も連れてきたわけだ。


「お姉さまがかわいい・・・」


 いつまでも私の姿に慣れない弟がほほを赤らめ馬車の対面の席に座っている。なんで悔しそうなんだ。苦虫を噛みつぶしまくって歪みまくった表情で私をにらむ。どういうナニなんだよそれ。


 馬車は徐々に王都の域内に入っていった。ここまでの旅で分かったことだが、実は大雨の被害はわが町だけではなかった。あちこちに冠水した後があり、木々が倒れ、家が流された爪痕が残っていた。ところによっては今も水が引かず、住人が転居を考えているなんてところもあった。


 私はこっそりと魔法を使い、馬車の窓から目に見える範囲だけでも修復していく。私の町にもあったような大きな岩をどけ、崩れた土地を元のように直し、植物の成長を促し・・そんな事を続けていく。見えるとこだけやるなんて偽善っぽいなとも思ったが


「聖女様のみ心のままに」と、教皇様はやんわりと推奨してくださった。


 後で聞いたことだが、急に大岩が宙に浮いたことに驚いた住人たちが車列が休憩の際に、いったい何が起こっているのでしょうか、と教会騎士に訴え出たそうだ。騎士たちは、秘密だぞ? と言いつつ、この列には聖女様がいらっしゃって、そのお力だと教えてしまっていたそうだ。いいんか?


 あの日、空を埋めつくす雨雲を、私が目からビームで吹き飛ばしたとき、この王都の空の向こうまで一気に快晴になったそうだ。何日も大雨をもたらす雨雲を一気にかき消す奇跡が起こった時、きっと何かの吉兆が始まったに違いないと思った人々は、その日を境に聞こえだした聖女降臨のうわさに静かに湧いていた。

 それがとうとう目の前で巨石を浮かせてどけてしまうという、分かりやすい奇跡を目の当たりにしたのだ。それはもう期待が高まって仕方ないところに、教会騎士のお墨付きが出た。教会への寄進は日々うなぎのぼりで、それを聞いた私は、申し訳なささにいたたまれず、夜中にこっそり抜け出して魔法を使いまくり、さらにちょっと遠くの被災地まで飛んで行って見つからないようにこっそりと復興の手助けをしていった。


 ラルが「出し惜しみしないところが、リリーナのいいところだと思うよ」と言ってくれたので、いい気になってどんどん飛び回って直して廻った。

「いい気になりすぎた」と後でふと我に返り、反省して、教皇様に懺悔したところ「その気持ちがあるなら何の問題もないでしょう」と許された。


 そしてとうとう王都に着いたのである。実に三週間は移動に費やした。お尻が、馬車の椅子の形に変わった気がする。


 王都は大都会だった。私たちの町のそばを流れる川が、何本かの支流をそろえて最終的にこの王都のそばを流れる大きな川となるのは何だか感動的だ。その川を背に城があり、その手前のなだらかな丘陵に大きな家から小さな家まで並んでいる。遠くから見るにはかわいらしく、近くによればその勇壮さに圧倒されるように家々が鎮座している。何と驚いたことに、この町には動力不明の、路面電車が公共交通機関として存在している! しかも街路灯なんかもある。一番うれしかったのはほぼすべての家のトイレが水洗だということだ! 文明に感謝!


 王都の中心にある大聖堂の敷地に吸い込まれた御列は、そこで整列し、教皇様のお言葉があり、私のお礼があり、解散となった。皆様お疲れさまでした。おうちに帰るまでが遠足です。お気をつけておかえりください。


 ラルは、バーン辺境伯のタウンハウスにしばらく住むらしい。そのあとアカデミーに入学し、そのまま官僚目指しての勉強をはじめるとのことだ。会いたくなったら伝報石で連絡してくれといわれて・・・、そうだよそんな高価なもん渡しやがって! と怒り始めたところで逃げられた。


「落ち着いたら会いに行く」といい笑顔で言われた。うーん、やっぱり好き。


 教皇様たちにお礼を述べ、間を置かずやってきたヴォーデモン家の馬車に乗り込む。待ち構えてたんだろうなあ・・・。大きな門をくぐり、馬車が進む。

 従者に手を添えられ降り立った建物は、領主様のカントリーハウスより大きく豪華だった。出迎えた家令たちは母を見て涙を浮かべている者もいた。古くからの使用人なのだろう。続いて母が紹介した、私と弟を見て浮かべていた涙がみな決壊した。うわっ


「これは申し訳ありません・・・。しかしリリーナお嬢様はドーラ様のお若いころにそっくりです。お体の弱かったステラお嬢様が、このように、はつらつとしたお子様を授かったとは・・。我ら一同、感無量にございます」


 ドーラ様。事前に聞いていたが、おばあ様はドラヴェスというのが発音しにくいので、会う人にはみな、ドーラと呼ぶように言っているらしい。下唇を噛む感じでヴゥァェスという発音なのだが、この部分が独特なのでこう呼んでもらってるらしい。


 家令に案内され応接室に向かう。そこに近づくたびになにか独特な気配がする。私の首筋がチリチリしだした。辿り着いた部屋に待っていたのは・・・戦士だった。


 いや、たぶんこの方が私のおばあ様なのだが、纏う雰囲気が、老人のそれではない。応接室の椅子から立ち上がり、ふり返るその姿は武神と呼ぶのが確かにしっくりくる。服の下に有ってもわかる盛り上がる筋肉。そしていかめしく引き結ばれた口元、射るような視線。まさに武神である。


そういえばおばあ様の数ある二つ名の一つにあったような気がする。武神。


 この応接室は、武神にふさわしく簡素で剛健といった雰囲気だ。しかし、少ない調度品はどれも良い品のようで、おばあ様のお人柄が出てる気がする。ただ、部屋に数点飾られている、よくわからない目元だけを隠す仮面だけが、ちょっと異彩を放っている。


「お久しぶりでございます。お母様」


扉をくぐって、すかさず母が、結婚をしている女性ににふさわしい、綺麗なお辞儀をする。

私と弟も、それに倣って、何度も練習した、お辞儀、をおばあ様に披露する。


「・・・・・・ふんっ」たっぷり二呼吸置いてから、鼻に溜めた空気を吹き飛ばされる。


 これは厄介な人そうだ。


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