18・筋肉聖女、湖面の淑女に? 彼には不評かもしれません
今日はついに教皇様とラルがこの町に戻ってくる。
正確には王都へ帰る途中に立ち寄るわけだが。むしろラルにとっては実家からやってきたことになるのだが、私の気分的には『私のもとに帰ってきた!』という気分なんだ!!
先ぶれの騎士がやってきて、しばらくしたら本隊がやってきた。町のみんなで、総出の出迎えだ。
片づけはすっかり完了し、今はあちこちで家を建て終わったころだ。ご領主様の家の隣に、立派な私の家が建設中な以外はだいたい元通りだ。
私はあれから、川を整備し、二度と洪水に見舞われないようにしたのと、山も崩れないように対策した。これで大丈夫。
それ以外は特に変わりのない元の田舎の町になるといいな。被害のあった畑もいまは新芽が出ている。辺境伯領からの支援も的確だった。まあ異母妹が住んでるとおもえばそのくらいはするかも? お母様は辺境伯からみると異母妹だよな? 詳しくは聞いてない。
教皇様の馬車がいらっしゃった。今日は晴天に恵まれているので、前回お越しになった時と違って教皇様がその美しい馬車から降りられた。教皇様は人々と再会を喜びあいながら、まっすぐ私の方に歩いてこられる。
「聖女様。お久しぶりですね」
「はい、教皇様、お久しぶりです」
ここしばらくお母様に教え込まれたカーテシーを取る。いわゆる片足を下げてスカートの裾を持ち上げる挨拶。
聖女という存在は、神に示されて、この世界に現れるものとされてるので、教皇と立場は同じだといわれたが、歳上の方には礼を取っておきたい私の気分がこういうお辞儀をさせる。
本当は聖女と同じように英雄も王族や教皇と対等に意見できる立場だから、こういうお辞儀は必要ないらしい。私が偉い人という実感はないけど。実際の偉さというのはは相手がどう思ってるかにもよるしね。
貴族の挨拶を優雅にこなす私を見て町のみんなが微妙な顔をする。
みんなはここしばらく、こんな顔ばかりしている。
それはしばらくぶりに会った騎士たちも同じだ。もうむしろ、怪訝な顔といっていい。
教皇様は特に動じられてないのか特に変わった様子はない。
あえて言わせて頂けば、さすがだ。
その後ろに立つランスロット、ラルは驚愕を浮かべた顔で固まっている。なんですか、その顔。言いたいことはわかるけど。ふふふ。
教皇様がうながしてくれ、私はランスロットの前に立つ。見上げる彼の顔は混乱の極致だ。
「りりーな・・なんだ・・・コレ・・」
「そうよ。久し振りね! ラル」
コレとは失礼な!
・・・とはいえ気持ちはわかる。してやったりと笑いが出てしまう。
なんと今の私は筋肉だるまではない!
『小さくて可愛い』リリーナちゃんなのだ!
『小さくて可愛いリリーナちゃんなのだ!』何度でもいう。
私は、魔法を使って、もし、筋肉がなかったらこんな私! というのを再現していた。ぶっちゃけ美少女だ。身長は元の私より頭一つ以上小さくなり、腕や脚も普通の女の子サイズ。むしろ少し細い。大きく可愛い目元は・・って、顔ははあまりかわってないな。もとよりお母さんゆずりのいいパーツ構成だ。美少女! 鏡を見て、自分でも違和感がすごい。顎が細くなったかな。それと肌が日焼けしてなくて白い。
さらに今日はハンナの頑張りによって濃い金色の髪は流れるように梳かれ、顔には少女にふさわしい軽めの化粧も施された。目元にはきらめくように、可憐な唇はぷっくりと目立つ。ハンナにはこの変身した姿は大好評で、毎日楽しそうに弄りまわされている。
「数か月会わない間にずいぶんと・・・やせたね・・」
痩せたって言うのかアレ・・・町の人のささやきが聞こえる。
「ええ! 今ではどんなドレスでも入るわよ!」
と、笑顔を返すと眉間にしわが寄せられた。あれ?
「ふむふむ、ランスロット殿は以前のリリーナ様のほうが好みのようですね」
笑って、うなづく教皇様に照れながらランスロットが答える
「いえ・・別にどのような姿でも私はリリーナを愛しておりますが、急に姿が変わったので・・、体調など大丈夫なのかと心配になりまして・・・」
あー・・なるほど、心配ということか。見た目が可愛くなって喜ぶのではなく、まず心配してくれるというのは嬉しい。『アイシテオリマスガ』とかさらっと言うのは勘弁してもらいたいけど!
「心配いりませんよランスロット殿。聖女様の本質は何も変わっておりません」
さすが教皇様、見抜いていたか。いぶかし気に視線を教皇様に向けるラル。
「大丈夫よ、ラル。私は何も変わってないわ。実はこれは魔法で見た目を変えてるだけなの!」
「え・・・? 魔法?」これが? といわんばかりの表情。
「これから教皇様と一緒に王都に向かうのなら、この姿のほうがいろいろ便利かと思って。この魔法は見た目が変わるけど、中身は元の私。むしろこの数か月でまたパワーアップしたくらいよ?」
といって、握手のように右手を差し出す。
一瞬躊躇した後、ラルが確認するようにその手を握る。
「いくわよ?」
「あ、ああ・・・」
私の意図が分かったラルが身構える。
しかし小さな私の手が一気に彼の手に食い込んだ。
万力のように締め上げてやる。ギリギリギリ
「うわああああ! わかった! おまえは間違いなくリリーナだ!」
余りの急激にかかる圧力にラルの腰が砕ける。よなよなと悲鳴を上げる姿はなんか可愛い。
自分より頭二つ大きな、鍛えた男を手だけで捻り倒す。そんな女は私しかいない。
「ふー・・・しかし、姿はずっとこのままなのか?」
手をさすりながら残念そうに問われる。残念なの?
「もちろん戻れるわよ。なんなら、今ここで元に戻って見せようか?」
そのとたん町中の人がやめてくれ! と悲鳴のように口々に止めに入った。あれ? 町の人も私の筋肉、かっこいいって言ってくれたじゃない。
「リリーナがアレをやるとその・・服が筋肉でびりびり破れて、俺たち、目のやり場に困るんだよ!」とディージャーが必死に答えてくれた。
確かに、前に、この姿で町に降りたらみんな誰だかわからなくて、ホラとばかりに変身を解いたら服がはじけ飛んだのを見せた。私は見られても恥ずかしい体をしてないので困らないが。・・むしろちょっと見せたいかもしれないが、見せられる側にはたまったものではないらしい。美少女が筋肉だるまに変身するのだ。心臓に悪いと。
「見せたのか?」
なにを? あら、ラルがちょっと怖い顔になってる。
「みんなに・・・その・・服が・・あれな姿を・・・」
「ええ・・・私だと分かってもらえなかったから、えいってやったら、なっちゃった」
「あまり・・ほかの男に見せてほしくないな・・」ずいぶんご機嫌斜めだ。
「あなたは・・・見てもいいの?」
「おまえの筋肉を堪能する権利は、俺だけの特権にしたい」
さらっと言いやがって! にっこり笑ってさらっと言いやがって! ああ、ああ、あんただけの特権にするよ! 気を付けマッスル! もうっ! もうっ! 顔が熱い! ドキドキする! おのれラルめ! ランスロットめ! 抱きつくぞ!
「しかし・・こんな魔法があるんだなあ・・・」
とつぶやくラルのその表情は、あきれている感じだ。くるくる変わるな。
でもなんで?
「いや・・もうおまえって、なんでもアリなんだなって思って」
いや、さすがに『何でも』はナイ。ナイか?
ナイよな? ナイがナイ? ナイがナイはなんでもアリ?
「その姿も可愛らしいが、俺はいつもの姿も気に入ってる」
もう! もうもう! もう! なんでこいつはあの姿が好きなんだ!? 私もあの姿大好きだよ! むしろこのベッキベキのボッソボソだと落ち着かないくらいだよ! ほんとにこいつは趣味が悪い! 趣味が悪すぎてもう私以外、こいつのパートナーはありえないんじゃないか? あああああパートナーってなんだよ! 恋人? 伴侶? あああああああああ!! 本当に爆発するほど真っ赤になってうろたえまくってる私にとても優しい笑顔が向けられる。その顔! 反則! おのれー!!
「元の姿が見たかったら言うといいわよ。・・・たまには戻してあげる」
「おまえの着替えを用意しておかないとな」
服が破れるところから見てる気か。いい笑顔でそんな事を言うコイツはやっぱり趣味が悪い。わーい。
ハンナが少し離れたところでものすごく残念そうにこちらを見ていた。その残念そうな顔は残念な私に向けたものなのか? それともハンナが努力して可愛く仕上げてくれたのに、それより筋肉の姿のほうがいいという、この残念な男へ向けてのものなのか? 後者かな? どっちもか。
「そういうお話は、お二人の時にしていただくと、よろしいかと思いますね」
わお! 教皇様もいるし、周りにみんなもいるんだった!ハズカチー!!
みんなも赤くなってるよ! ごめんね! 幸せそう? その通りだよ!!
あとでディージャーに
「赤くなって慌ててる『可憐な少女』なおまえは、とてもかわいいと思う。だけど中身があれだと思いだしてしまうと、なんとも言えない気分になるんだ・・」
おまえ! 失格! やっぱり私にはラルしかないな!! ・・しか、ないな!
数日後、私たちは王都に向けて旅立った。




