17・母の母は湖面の淑女!? すごい人かもしれません
『お母さんのお母さんは大陸一の魔法使いといわれてたけど、なんだか魔法使いというよりは剣豪みたいなひとだったね・・』
人だったね。・・なんてお父様がいうから故人かと思ってたよ! 知らなかったよ! 16年生きてきて、まったく知らなかったよ!
私はとてもうれしくなった。お母さんのお母さんがまだいらっしゃる!? お母さんのお母さんなんて、とてつもなく凄い存在じゃないか! 前世で天涯孤独でさみしく死んだ私は、家族というものに憧れていた。飢えていた。その私にまた一人血縁者がいることがわかった! しかもそれがお母さんのお母さん! すごい! すごいすごい!
「おばあ様ってどんな人なの!? 王都に行けばお会いできるの!? お名前は何て言うの!?」
ワクワクしながら母に問いかける。笑われてたことなんて吹き飛んでしまった。
「お母様のお名前はドラヴェス。ドラヴェス・ロレーヌ=ヴォーデモン。ヴォーデモン家の現・頭首で、元騎士団の英雄よ」
護衛騎士の顔が驚愕に染まる。ヴォーデモン。その名は私も知っている。40年近く前、北の蛮族がバーン辺境伯領を襲ってきたときに、たった一人、王都から駆けつけ戦った英雄だ。このお屋敷の前に馬にまたがった像がある。あれがまさかおばあ様だったとは。正直いえば、あの像は男の人だと、今の今まで思っていた・・・
「ヴォーデモン家は名家でね。そしてそこそこ強い魔法使いが出る家でもあるの。そのなかでもお母様は特別たったわ。あまりに強力なお母様を持て余したおじい様が、半ば押し付ける形で騎士団に在籍させたんだけど、辺境伯領の一大事に、その魔法を使ってほかの団員を置いてけぼりにして駆けつけたらしいのね。そしてそこで獅子奮迅の活躍をして蛮族の軍隊を退けちゃった、という話ね」
凄いなおばあ様。
「その功績をもって英雄と認められ、英雄の権利を使って、当時跡取りのいなかったヴォーデモン家のあとを継いだんだ。英雄だからね。だれも反対しなかったそうだよ」
と父が引き継ぐ。
『英雄』とは、国家が認める素晴らしい功績を示した者に与えられる称号で、これは主に戦争での活躍や、味方への献身的活動などがあった者に与えられるのだそうだ。基本的に国家に属するものとなる。よって王様から直々に与えられるものらしい。男女関係なく与えられるとされるとされているものだが、この国の歴史上、女性でこの称号を与えられたのは、おばあ様だけらしい。
それに対して『聖女』とは、教会が与える称号で、これは奇跡を成した・示した「女性」に与えられる称号だそうで、男の場合は『聖者』と呼ばれる。神の啓示を与えられた者もこれらで呼ばれるので、目に見える功績がなくとも教会が認めさえすればそれらと呼ばれる。教皇様は啓示を受け取ってらっしゃるので聖者か。
結果だけ見れば、確かに私は聖女でも、しかたないだろう。川逆流させたし、崩れた山も元通りにしたもんな・・・。奇跡・・・といわれても仕方ないかな。
「お母さんは、お父さんと結婚するときに、家の名を捨てたんだけど、実は、おばあ様はずっと私たちを気に掛けてくれていてね。私がすべてを失った時に、ここの領主のもとで働けるようにしてくださったのも、おばあ様なんだ」
「えっ?」
驚いたのは母の方だ。
「・・・あんな風に飛び出してきましたのに・・?」
「私がお前と結婚して、まだ前の事業をしてた時に、おばあ様がやってきて、お前を頼むといわれたんだ。だけど、おばあ様はあんなだし、お前の・・ステラが私と一緒になりたいという思いを尊重して、飛び出すお前を止めなかったんだそうだ」
「おばあ様・・・」お母さんは感動したのか涙を浮かべている。私だって泣きそうだ。私のお母さんのお母さんは素敵な人だった!
「だけど・・」あふれる涙を、とりだしたハンカチで押さえながら、母は言う。
「母に見られたら、この子、ただじゃすまないわよ」不穏な言葉が飛び出した。
「お母様は、礼儀作法にとても厳しい人だからねえ・・・。しかも恐ろしいほど強い・・」
「蛮族との戦争では、獅子奮迅の活躍。なんて記録には残ってるけど、実際は圧倒的だったらしいよ。国境の砦に殺到する北の蛮族を、ほとんど一人で壊滅させたんだ・・」
「そのうえ社交界では湖面の淑女なんていわれるくらい、美しい所作で男の人たちを虜にしていたらしいよ」
おいちょっと待て、なんだかイメージが合わないぞ?
「名家に生まれて、家名だけの女なんて呼ばれるわけにはいかないと・・負けず嫌いな人ですから。作法も武力も完ぺきだったといわれてました。おかげで私にも厳しくてね・・・周りの貴族に馬鹿にされないよう、淑女にふさわしい礼儀作法を身に付けなさいと。・・・厳しかったわ」
嫌な思い出でもあるのか、お腹のあたりをさすっている。
しかしなんだそのチート野郎は。なんでそのお強いおばあ様から、こんななよっちい母が産まれたんだ。
「それはまあ、お母様のお父様があまり体の強い方じゃあなかったからだろうね」
「お母様のお父様・・・おじい様? って・・どうしてヴォーデモン家を継がなかったんですか?」
弟の素直な質問に、父が私と弟を手招きする。侍女や護衛騎士には聞かせられない話らしい。そっと耳を近づけると
「それはね、ステラのお父さんは、辺境伯領の領主様だったからだよ。いまの辺境伯爵様のお父様だ。蛮族を退けたおばあ様は、当時のご領主様と愛し合われて、その時ステラを身ごもるのだけど、そのとき辺境伯様には王家に決められた婚約者がいて、おばあ様と結婚できなかったんだ。貴族のお嬢様が未婚のまま身ごもるなんて事になったら大ごとだけど、国を救った英雄が身ごもったとなったら、誰も追及できなかったんだ」
あえてまた言及するが、父の声は大きい。本人は小声のつもりかもしれないが、全然小声になってない。護衛騎士は驚愕し、ハンナは「あれまあ」という顔をする。あれまあ、だよまったく!
ということで、私にはお母様のお母様で英雄の、恐ろしい肉親が一人増えたということで、なんだかとっても嬉しくなった。
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湖面の淑女。数あるおばあ様の二つ名の一つだ。静かな湖面のような、美しい所作をとる、妖精のように可憐なおばあ様は、いつしか社交界でそのように呼ばれていたらしい。しかしそうなると、・・・私に疑問が浮かぶ。
「おばあ様は剣豪のような方だったのではないの?」
かつてお父様は、おばあ様をそのように表していた。妖精のように可憐なおばあ様と剣豪のようなおばあ様。昔は妖精で、そのあと鍛えて剣豪になったのだろうか? なんだか整合性が取れなくて、改めて父と母に聞いてみる。
「ドラヴェスお母様はたしかに、かつては可憐な少女だったと聞いているけど、私がお会いした時にはすでに剣豪・・・そう、今のお前のようだったよ?」
「お母様の魔法は、大河を逆巻かせるほどだったというから、相当の魔法使いだったはずね」
はて。私は相当な魔法使いだと自負があるが、私には湖面のような美しい所作は取れない。何せ筋肉が邪魔をする。淑女らしく背筋を伸ばし、すっと立ったつもりでも、ボディビルダーが身体の厚みをアピールするような姿勢になるし、小さなカップをつまんで口元に持って行っても脇が開く。理由は上腕の筋肉と胸の筋肉がぶつかってしまうからだ。肩の筋肉は盛り上がり、ほほほと口元に手を持って行っても盛り上がる筋肉がみちみちと音を立て、優雅さのかけらもない。
そもそもこの身体では、着れるドレスはないだろう。教会のローブを着ても、肩と胸がしっかりしすぎてまるで下に鎧を着ているようだった。
ご領主様のお屋敷に、前世で見たようなきれいな鏡があった。16年生きてきて、初めてしっかり自分の顔を見たが、確かにパーツ構成や、その配置は美少女だ。ただし、小さな顔に太すぎる首。もうこの段階で美少女の要素は打ち消される。奇跡のように歯並びがよく、虫歯もなかった。そんな笑顔は白い歯がとても素敵だが、農作業で日焼けしたこの身体は、ポーズを取れば完璧にボディービルダーだ。二コリ。
ということで、私はおばあ様と同じ、剣豪のような姿の、相当な魔法使いでもあるが、可憐な少女ではない。むしろどうして両立出来たんだおばあ様。超人か?
「このままでは双頭の竜に締められる・・・」双頭の竜とは数あるおばあ様の二つ名の一つだ。両腕をあげ、上腕二頭筋をアピールする、ボディビルダーがするあのポーズっぽいのを、雄たけびを上げて行うおばあ様をみた敵が、その両腕を恐ろしいドラゴンになぞらえて呼んだという話しだ。嘘か誠かわからないが、どんだけだよおばあ様。実は趣味が合うのではないかと思っているが。
ううーん・・・と唸り、考えた私には、一つ思い付くことことがあった。
「一丁やってみるか・・・」
シフトドレスを翻し、ベッドを下りた私は早速、その思いついたことを試してみた。




