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15・大事件を解決したら、聖女と呼ばれてしまうのかもしれません

ちょっとずつブックマークも増えてきてうれしいです! 今後ともよろしくお願いします!

「さて・・」

 

 目の前にある二つの問題を解決しよう。ラルが見せてくれた固定化の魔法というのは、あの瞬間には私のイメージになかった。

 『吹き飛ばす』くらいしかとっさに思いつかなかった。前世の漫画やアニメの記憶がなかったら、私の想像力は結構貧困かもしれないと、小さくうなだれつつも、ラルのアイデアを借りることにする。


 固定化を一歩進めた魔法を発動させる。さっき、ラルが掛けていた『動きを止める魔法』を『今の状態を維持する魔法』に上書きしておいた。


それを『今の状態から、元の状態に戻りなさい』と、お願いする。


元の状態。あの日の駆け回り、語り合い、恵みをくれたあの大好きな山に戻ってくれるよう、それぞれの土、それぞれの樹、それぞれの石、それぞれ山にいたみんなに、元の場所、元の状態に戻るようお願いをする。


 私の大好きだったあの山の姿に戻って欲しい。そう願いつつ大好きだった山を思い描く。そして魔力を絞り出す。


 ゴロゴロと大きな岩が山肌を登りはじめる。ずりずりと折れた木が逆回しのように再生しながら山をすすんでいく。黒い土が山の中に納まっていく。その上に白い土が覆いかぶさっていく。


 吸いだされる魔力が尋常じゃない。さすが私が愛した、私を鍛えてくれた山だ。事ここに至っても、私に厳しく接してくれる。よっしゃ持ってけドロボー!その代わりちゃんと元に戻りなさいよ!


 しかし全部取られる前に、私はもう一つの問題に取り掛かる。固定化という発想はなかなか便利だ。私は気を失う直前のラルを固定化し、怪我が命を削る前にそこに留めた。さあここからは私の最大の魔法! 癒しの魔法の出番だ! 

横抱きにしていた彼を浮かび上がらせ、空中で治療を開始する。


 癒しの魔法というのは思っていたものと違った。見えない部分のどこに、どう治すべき患部があるのか察知するのならば、光の魔法でもできる。 臓器や血管を元のように復元するのは動きの魔法でもできる。しかしそれだけでは治らない部分がある。


それはことわりに繋がる魂の部分だ。身体が傷つくと魂も傷つく。魂を癒さなければ真の癒しとならない。手術は完ぺきでも治らない患者がいるようなものだ。


 癒しの魔法が使える人はこのことに気が付いた人だと思う。ほかに会ったことないから知らないけど。


 とにかくラルの体を癒していく。固定化を解いて魂が離れる前に身体の復元を行う。


 正直・・・ラルは死んでいた。


 限界を超えた魔法をつかって、自分の身体で山を一つ背負ったようなことをした。ここに今、形があるだけでも奇跡だと思う。あのとき彼に、鍛え方を教えてよかった。彼の筋肉と、それを作った努力が、彼をまだここに留めている。


死の淵から死者の世界に零れ落ちる寸前、私は彼の命を固定化した。そして今は全力で、癒しの魔法を照射している。 おっと、残念ね死神さん。私を前に、あなたの出番はまだまだないわ。


 彼を治療しながらゆっくりと地上に向かうと、町からみんなが歓声を上げて走ってくる。ちょっと待って、まだ全部治療し終わってないから。私はそれが終わるまでゆっくりゆっくりと降下していく。


背中に突き刺さった木の根を優しく取り去り、何本もの骨をもとに戻し、ぱっくりとわ・・・。うんまあ、全部言うと結構なスプラッターなので、顔だけは涼しい顔をして、頭の中はぐるんぐるん治療に割り振って、綺麗に完治させることができたころで、ちょうど地上に降り立った。


 ちょっとだけ離れたところに、みんなの期待を込めた目が並んでいる。 


なに。 なんなのこの距離。 なんか言えばいいの? こういう時って何言うの? 映画に出てくる大統領の演説っぽいやつ? えーと、えーと・・なんて考えていたらラルの顔の血色がすっかり戻ってうっすらと目を開く。私は彼を魔法じゃなく、筋肉で抱き抱え、そっと足から地上に降ろす。 


あれ? これって普通逆じゃない? まあいいか・・・。



「・・・・気絶してからもずっとリリーナの声が聞こえてた・・」

「ラル・・・」


ラルの第一声。はにかんだ顔がかわいい。おのれラルめ!ランスロットめ!惚れちゃうぞ!?

照れながら、微笑み、続きを待っていると


「どっせい!、とか、よっしゃ!とか・・勇ましい掛け声ばかり聞こえてきて、ああ、俺きっと、大丈夫だろうな・・って安心できたよ。ありがとう」


ずるり。


 私の足元だけで、ふたたび地滑りが起こる。リアルでズコー!って出るとは思わなかったよ! ああいうのは、お笑い芸人が派手なリアクションとして無理やりやるものだと思ってた! なるほど! なるときは自然となるものだったんだねってそうじゃねえだろ! と、私の心の中のお笑い芸人が盛大なノリツッコミを繰り出した。


いや、こういう時は見つめ合って、甘い雰囲気になるもんじゃねえのか!

あ・ま・い・雰囲気!


「そりゃあリリーナだもんな!」

「ああ、俺もリリーナが光って飛び上がった時には、ああ、これでもう大丈夫って思ったもんよ!」

「さすがリリーナ!この筋肉は伊達じゃないねえ!」

「リリーナの筋肉かっこいい!」

「かっこいいリリーナ!」


リッリーナ!リッリーナ!


 みんながわっと寄ってくる。そして巻き起こる大きなリリーナコール。もしかしてみんなも私たちが甘い雰囲気になるかもと、ちょっと様子を見て距離を取ってくれたのかしら? ちなみに私はどっちかというと男子より女子に大人気だ。 


 この筋肉、と言われて自分の姿を顧みると、服はボロボロで結構肌が露出してしまっている。肩は膨れ上がった筋肉がはじけ飛ばしたのかノースリーブ状態だし、スカートは裾に付けたフリルが全部飛んで、あちこちびりびりになって、特に右側はスリットが入ってるように縦に裂けてる。 


 おかげで鍛え上げた太ももがぽろりと覗いて、たくましいふくらはぎは両足とも露わになっている。エプロンもなくなってるので黒いぼろぼろのワンピースを着た筋肉がそこにいることになる。何という甘い雰囲気と遠い姿。禁欲的ではないこの国でも、これは限界を超えて露出していると思われる。


 しかし、あえて言おう、もっと見てくれ! 私の筋肉がこの危機を救った! 素晴らしいこの筋肉をもっと見せたい! もっとこの筋肉をたたえてくれ! もうこんなぼろ布脱いでしまおうか!? そうだそうしよう! よっしゃさあ脱ぐぞ! と思ったところで教会騎士の外套を掛けられた。


「何をしようとしてたのかな?」ラルの目が怖い。怖い。

「いや・・・フロント・ダブル・バイセップスで、私の上腕二頭筋をアピールしようかと・・・」

「なんのことかわからないけど、それ、しなくていいから」



ええ・・・今こそボディービルダー的にアピールのタイミングじゃ・・なんて唇を尖らせてみたが、確かにそこまでアピールする必要はない。リリーナコールに乗せられたらしい。 私は別に露出狂じゃない。


 ふいにみなが視線を外し、おなじほうを向く。視線に合わせてすっと人が分かれ、その先に、姿勢よくお立ちになる教皇様がいらっしゃった。


「おお、リリーナ嬢。とても素晴らしく、慈愛のこもった、大変良い、お力の示し、でした」

「あ・ありがとうございます!!」


静謐で美しいはずの白いローブはすっかり濡れそぼり、ところどころに泥のしみがついて、なんとも残念なことになってしまっている。しかし教皇様の威厳はいささかもそがれることはない。しかもご本人も、お召し物が汚れていることなどまったくに気にしたご様子がない。

 静かな声で語りかけられ、私の胸は喜びに跳ね上がる。私におじい様はいないが、こんなおじい様がいたら間違いなくお爺ちゃん子になる。


 ぬかるんだ足元を涼やかなお顔で、二つに割れた町の人たちの間を静々と進んでこられる。すると、教皇様が来た方向に、教会騎士や、その従者たちがみな、ぬかるみに膝をついて教皇様に敬意を示している。500人からいる彼らが膝をつく様は、なかなかに壮観だ。町の人たちもそれに気が付き、慌てて倣って膝をつく。


教皇様にこうべを垂れる数百人のつむじが見えて、あわてて私も膝を突こうと腰を折ったところで教皇様本人に制された。


「私は、この旅で大切な出会いがあると、神の啓示を受けておりました。・・・そして今まさに、このような素晴らしい出会いが、私を迎えてくれました。なんと喜ばしいことでしょう。私はあなたが聖女であると、ここに宣言いたします」


両手を腹にそろえ、深々と教皇様が腰を折ってお辞儀をする。相手は私っぽい。いつの間にやらラルも私の隣で膝まづいている。あれ? 今まともに立ってるの私だけ!? 私、聖女? あれ?このみんなが膝まづいてる相手は・・もしかして私!?



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」



たっぷり間をおいて、私はそれしか言えなかった。


ようやく聖女となりました。 目からビームとか全然聖女らしくはないですが。

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