表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/38

13・大事件を何とかするのは、私の筋肉しかないのかもしれません!!!

 胸の表面に急に熱を感じる。


何事かと思って胸元に手をやると、布越しにラルからもらった石が指に触れる。

そこからしっかりとした熱を感じる。石が熱を持っている?


「え?なに?」


首にかかるチェーンを引っ張り、服の中から石を取り出してみた。涙滴型の鮮やかな青い石がころりと熱を持ってそこにある。握ると言葉が届いた。


「リリーナ! 川はうまくしてくれたのね! ありがとう! でも裏山が崩れそうなの! お願い!」


え? 言葉が脳内に浮かんでくる。声ではなく文字でもなく、「言葉」とだけ感じられる。抑揚も感情もこもってないが、言葉の後につくビックリマークのようなものが感じられるので、言葉に勢いがある気がする。


えええ? これが伝報石? ・・これって伝報石だったの!?

 

おのれラルめ! ランスロットめ! 何が軽いだ、お値段じゃなくて重量のことか!? 伝報石って貴重な品って聞いたわよ! いったいこれいくらするの!? 後でとっちめて聞き出してやる! と石を握りながら飛び立ち、裏山のほうに向かう。


「お母さん、そういう言葉遣いはよくないと思うわ・・」

「・・・後で連絡します」


そう念じて石を胸元にしまいなおす。石から伝わる言葉が低かった気がする。

母は怒ると怖い。いや実際は怖くはないが、大事な母に怒られるということが怖い。


 光の帯を引いて裏山を目指す。ほんの数秒の飛行だったが「裏山が崩れそう」といわれたその山は、今まさに崩れ始めた。

 山の木々が裾野に向かって一斉に走り出す。ざわざわと幹を左右に揺らし、まとまって山肌を下る様はちょっとコミカルに見えないこともない。みんなで一生懸命、わーって感じで走って山をくだっていく。そんなふうに見えなくもない。思わずふふふと笑いが漏れた・・り・・は、しない!! 


土砂崩れって凄い速度だ! まずい! またしても考えてる余裕がない。


 とにかく土砂が崩れ落ちる先であろう、山のふもと、町との間に全速力で飛び降りた。

勢いが付きすぎて地面をえぐりながら着地し踏ん張る。ズザザザザー。


まだ止まってないのもかまわず見上げると、目の前に轟音とともに山が降ってくる。降ってくる!! 上から見ると壮大な崩落に、「自然ってすげー」とただただポカンとしてしまう光景も、正面に立てば、絶対的な暴力が襲ってくる恐怖そのものだ! 先ほどの鉄砲水も怖かったが、土や岩が、むき出しの木の根とともに向かってくるのはビジュアル的にクルものがある。どうする!? 吹き飛ばすか!? 逡巡してる暇はない! 


 山ごと吹き飛ばす気で「ええい!」と両手を土砂に向ける。

今の私にならやれる!! 吹き飛べええ!!!



あれ?


そのとき、急に、山での思い出の数々が、脳裏にかすめた。かすめてしまった。


 山頂からすそ野まで、みんなで競争してたらすっ転んで、そのまますそ野まで転がったなんて思い出。山菜を取りすぎて怒られたり。シュタの実を食べ過ぎておなかを壊したりもした。毎日、この山を登ってトレーニングもした。


そして、お気に入りの場所として、ラルを連れてきて語り合ったのもこの山だ・・・。


そんな思い出ばかりのこの山を、私が吹き飛ばすの!?



躊躇した。逡巡し、身体が固まったのは一瞬だったが、その一瞬あれば土砂が私を飲み込むには十分だった。


「リリーナ!」


誰かの声が聞こえた気がする。しかし、目の前が黒い土でいっぱいになって、私は目をつぶってしまった。



***************************



 まっくらだった。目を開いたはずだが・・、まっくらだ。

何も見えない。実はまだ目を閉じてるのかもしれない。


 自分の状態がよくわからない。地面を背に、仰向けにひっくり返ってるような気がするが、向いてる方向が上なのか確信がない。前世で、雪崩に巻き込まれると上下が分からなくなると聞いたことがある。こんな感じだろうか? 

 自分がどうなってるのかさっぱりわからない。手は・・・ある。布越しにラルに貰った石を握りしめてる。石を握った右手はそのままに、左手を前に出す。すぐに何かに触れる。


「う・・・」うめき声が漏れでた。私は慌てて魔法を振るう。あたりに柔らかく暖色系の明かりがともる。


 目の前に人の首が見える。視線をあげると首の主はラルだった。どこか痛めたのか顔色が悪く、額には汗がじわじわとにじんでいた。


「ラル・・大丈夫?」

「やあ・・リリーナ。いまいち・・大丈夫じゃないな。おまえは・・大丈夫か?」

「うん・・たぶん・・」


 ラルは私に覆いかぶさっていた。両手を地面に突っ張り、その下に私を守っている。やっぱり私は土砂に飲み込まれたようだ。決定的な場面で判断を誤った。その不甲斐ないさで胸がいっぱいになる。「私は町を守れなかった」そう思うとラルの顔を見てられなくなって、そっと目を周りに移す。土の中だ。真っ黒い土のあちこちにむき出しの根が、うねり飛び出ており、暗がりに浮かび上がるそれは、魔物の伸ばす触手のようで恐ろしげに感じる。


 私たちの上半身は半球の形にくりぬかれたようなスペースにいる。しかし背中にじくじくと雨水がにじんでくる。私は無意識に魔法を使ったのだろうか?


「これって・・魔法?」

「そうだな、魔法だな」


「ラル・・今どうなってるの?」

「今は・・崩れてきた土砂に埋まっている状態だ」


 やっぱり・・。ぽたりとぬるい水が顔にかかる。なんとなくそれを手でぬぐいながら視線を下げてしまう。自分の力を過信してたつもりはない。でも、私なら崩れてくる山を吹き飛ばすことはできた。私にはその力があった。でも、思い出の場所を私が壊す事に、惑った。瞬間の逡巡がこの結果を招いた。それにラルを巻き込んでしまっていることに、とても申し訳ない気持ちになる。


「ごめんなさい・・私・・あなたを巻き込んでしまった・・」

「いや・・君と一緒にいるなら、こんな場所でも天国に感じるよ」


もう、昇天しないでよ? とは言わない。いうとホントになる気がするから。イメージを実現するのが魔法使いだ。だから言わない。言葉を飲み込み別の話をする


「これ・・今どうなってるの?」


私の魔法でないことに気が付いていた。魔法はイメージだ。イメージしていない魔法は発動しない。この状態のイメージが、この時の私になかった。だから恐る恐る聞いてみた。


「魔法で動きを止めている。俺はリリーナほどの魔法使いじゃないから、長くはもたない」

「え・・・?」


ラルは魔法使いだった! ちょっとびっくりした。


 そういえば貴族の半分は魔法使いだっけ・・そう思えば彼が魔法使いでも不思議はない。ただ、母や司祭様に聞いていた一般的な魔法使いというのは呪文の勉強ばかりしていたり、呪いの道具を研究したりで、頭脳労働を主としており、体を鍛えたりする魔法使いはいないと聞いていた。私は特殊な例なのだと。なのに、彼は最初に会った時から身体を鍛えていた。今も、私がうっとりするくらいには筋肉をまとっている。そもそも貴族は基本、体を鍛えたりはしないだろう。だから貴族なのだ。と思っていた。


「俺の場合は、魔法使いというより、剣士がほんのちょっと魔法を使えるという程度だったんだ。だけどリリーナに鍛え方を教えてもらって、筋肉を効率よく身に着けるたびに魔力も強くなっていった。素手で岩を断ち切るほどの魔法使いになれるとは思いもしなかったよ。まさか筋力と魔力が相関関係があるとは・・・たいていの貴族も気が付いてない事だろう」


この国の貴族は、はかりごとや社交にばかり気が行って、体を動かすことは全然頭にないからな。と笑って話すランスロットだったが、まったくよどみなく話せていない。咳をし、呻きながら話す彼は、どこかを痛めてるようだ。または魔力の枯渇か?


「・・・魔法使いだってわかってたら、もう一つ二つ、教えられる鍛錬法があったのに」

普段から魔力をまとうアレとかがそうだ。アレはかなり効果的だ。苦しそうなことを心配しても、状況は改善しない。彼の状態がとてつもなく心配だが、今は脱出のための情報収集を兼ねて、務めて普通に話を続ける。


「そうか、それは今度、改めて聞くことにするよ。まあ、俺が使える魔法使いだと知れると、跡目問題がこじれるからな。今後もしばらくは秘密にしておきたいんだ。俺は兄さんをそれなりに尊敬してるし・・」・・・。


「なによりお前と一緒になりたかったからな」


 続く言葉を待ってみたら、こんなところでこんな時になんて事を言ってるんだコイツわ! 王都で一緒に暮らそうを一歩越えて、一緒になりたいなんてとうとう言われたぞ!? 私は絶対に赤くなってるが、逃げ場もないので視線だけ木の根に向ける。さっきは恐ろしげに見えたが、今はうねったゴボウくらいにしか見えない。ゴボウも根っこか。


「で、先日、呪文を詠唱せずに魔法を操るリリーナを見て、自分もあんな風に使えればと思ってたんだが・・。今日は、リリーナが土砂に巻き込まれるのを見て、守りたい、山・崩れるな! と思ったらこうなってた。・・凄いだろ?」


 確かにすごい。なるほどこれは、周りの空間を固定化してるのだろう。動きを止める魔法はイメージが簡単だ。今のまま止まることを願えばいい。だが、動いているものを止めるためには結構な魔力がいる。動こうとする力よりも強い魔力が必要だからだ。そう思うと、彼の魔力はかなりのものだ。


「じゃあ、まずはここから出ましょう? 山の固定化を一部解ける?」

「そうか、俺はは崩れる山を固定したのか・・。 すまない。こんな魔法を使ったのは初めてなんだ。いまは・・一部だけってのはイメージできない」


 固定化を解かないまま、私の魔力でそこをこじ開けると、彼にその作用がかかる。崩れる山を固定化するほどの魔力を一部でも跳ね返したら、彼が傷ついてしまうだろう。


さっき水がにじんできたから、私の背中側には魔法がかかってない気がする。背中側を掘り進めば固定化を維持したまま脱出できると思う。


「わかった。まずは脱出しましょう。外に出るのは、私の魔法で何とかするわ」

「助かる。そろそろ限界なんだ」


いうなり彼の腕からカクンと力が抜ける。ズズッと山が音を立てる。すぐに踏ん張りなおすが、代わりに生ぬるい水がぼたぼたと落ちてくる。私の目は限界まで開かれた。暖色系の明かりに照らされ気が付かなかった生ぬるい液体の正体に。


彼は後頭部にかなりの怪我をしている!? 見える範囲の彼に視線を動かすと腹のあたりに木の根が飛び出してる! まさか背中から突き抜けてるのか!?


一気に血の気が引いた。


しかし、一気にいろんなものが湧いてきた。いろんな思いがあったが、今は!彼を助けることが私のすべてになった!!


私は、彼を助けるためだけの塊となった!!


私の筋肉が盛り上がる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ