12・大事件を何とかするのは、私の筋肉しかないのかもしれません!!
ディージャー視点
俺の住む町はとてもつまらない田舎だ。田舎だし。とても田舎だし。どうしようもない田舎だ。こんな田舎だけど、俺は結構気に入っている。そりゃあつまらないのは間違いないが、仕事はある。家族に仲間たちもいる。昼は畑で働いて、夜は友達とエールを酌み交わす。そんなつまらないけど大事な町に、ひとりおかしな奴がいる。
リリーナは身体を鍛えるのが大好きだ。昔はかわいくてちょっと好きだったが、今は正直、女とはとてもじゃないが思えない。体つきが違うのだ。子供のころに川で一緒に遊んでるときに見たら、9歳くらいですでに背中の筋肉が盛り上がっていた。
先日アイツは、森から現れたおおきな熊を素手で殴り倒した。
その前は冒険者とか言うあらくれが、エリおばさんの酒場で暴れた時に現れて、ぶっ飛ばしていた。相手が剣を抜くとは思わなかったが、相手の剣を素手でつかみ、クリームを挟んだワッフルみたいに握りつぶしていた。両刃の剣が両方とも同じほうを向いた。
さらにその前は、町中を駆けまわる暴れ馬を逆さにして持ち上げ、おとなしくさせていた。
そう、リリーナは町で何かが起こると必ず現れる。アイツは魔法が使えるのに、それを一切鼻にかけず、誰でも同じように話しかける。頭もいいし、勉強もするし、いつも身体も鍛えている。優しくて強くて、凄くいい奴だ。みんなもアイツのことが大好きだ。
そんなアイツが、なんであんなに勉強して身体を鍛えるのか? アイツがいないときに皆でそんな話をした。俺は「あれはきっと自分のためじゃなく、『誰かのいつかのため』のもの、なんだよ」といったらみんなもそうだと言ってくれた。アイツはほんとに凄いやつだ。
アイツは町で困った事があると、やってくる。
大雨が降り川が氾濫し、山が崩れると言われても、俺はあまり心配してなかった。なんとなくアイツが何とかしてくれる気がしていたからだ。他人任せというわけじゃない。この状況を何とかできるなんてアイツくらいのものだから。
一軒先が見えない程の雨のなか、少し高いところに光る何かが浮かび上がる。リリーナだ。
人が光って浮かび上がるなんて非常識さに、教皇様についてやってきた教会騎士たちがうろたえる。俺たちと一緒に長屋の屋根の上にいる騎士や司祭様たちが、いちいち驚愕してるのが愉快だ。
俺達もリリーナが浮かぶのを初めて見た。でもあいつなら、そのくらいの事、できたところで全然驚くことではない。
「おお・・・空に浮かんでいる・・奇跡だ・・」
「奇跡だ・・あれが聖女様じゃないのか?」
「そうだきっとあの方が・・・」
教会の人たちがささやきあっている。聖女? まあリリーナだしな。
「リリーナ! 頼んだぞ!」
俺は雨に負けないよう、飛び切り大声を出す。おまえらの言う聖女はリリーナという名前なんだと伝えてやろうとも思って。
「そうだ! リリーナ!お願いね!」
「ありがとうリリーナ! 気を付けてね!」
「がんばって!」
「ありがとー!!」
俺たちの町の人間がこぞってリリーナに声援を送る。中にはもう感謝してしまっているものもいる。だがそれは正しい。アイツ相手にはそういうものだ。
うろたえてた騎士たちが顔を見合わせうなづきあう。
「うおおおおお聖女様! 頼みますう!!」
「光の聖女様! おねがいします!!」
「聖女様ぁ!!」
「うおおおおおおおお!!」
いつの間にかリリーナは聖女ということで確定らしい。
まああいつならそのくらいで相応しいだろう。
方向を定めたのか、光る塊がそちらに向かってものすごい勢いで飛んでいく。
飛び去る前に、俺たちのほうに向かって親指を立てていた。なんのサインかはわからないがとてつもなく安心した。
リリーナはやっぱりおかしな奴だ。
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「何だかおかしな気分ね」
川の流れがせき止められ、氾濫した水が辺り一面を泥の川に変えている。飛び上がって遠視で確認しながら作戦を立てていたら、町の人や教会騎士の人たちにまで声援を送られた。恥ずかしい。照れ隠しに親指をたててグッとサインを送って飛んできた。
なんのサインかはよくわからないけど、気持ちはまあ、任せとけ!
という感じ?
町の裏手、上から見ると川の水がひときわ波立っているところがあった。そこから水が逆巻いて大量に町に流れ込んでいる。たしかあそこは双子岩があったあたりだ。流されてきた木や岩がどんどんアレにひっかかって方向を変え、町になだれこんでいく。たぶんここが氾濫原だ。
けっこう大きかった二つの岩はすっかり泥水に沈んで姿が見えない。身体に透明な球体の障壁を張って適当にあたりをつけたところに飛び込む。障壁の中に水は入ってこないので、凄い景色になっている。泥の奔流の中で障壁にゴツンゴツンと何かが当たる音が響く。
泥水を透視すると双子岩と思しき大きな岩が川の中にあった。記憶に思ってたより大きい・・・いや、この岩は双子岩じゃない。さらに二回り以上も大きな、山の岩石だ。山から流されてきて、ここで双子岩に引っ掛かっているんだ!
長方形のこの子がちょうど川をせき止めているようだ。前世で見たバスほどの大きさの岩石をここまで転がしてきた大自然の力に、改めて驚きつつ、その自然の流れに逆らって大岩に近づいていく。
「その大自然とて、私の前では無力なのだ!!」
川底に両足を踏ん張り、両手を腰に引き、「フッ」と息を吐く。左手を前に出しつつ右手を引く。左、右と歩を進め・・腰を回転させて右拳を突き出す!
「砕けろ!」
ドッパアン。前世でジムに通ってるときに、格闘家のインストラクターが教えてくれた『殴る』を思い出して拳を繰り出した。グローブをつけてサンドバックを殴ると気持ちよかったのを思い出す。だが、今目の前で起こった現象には気持ちいいを飛び超えて、私でもびっくりしてしまう。
川をせき止める岩が粉々に砕け、轟音ひびかせ、そのままあたりの泥ごと上流に向かって逆巻いたのだ。ゴゴゴゴゴ
「うそお」
今、私の前側の水がなくなっていく。
水がどんどんと逆流して川をさかのぼっていく。ついには川底が見えてきた
あああ・・。大自然・・・本当に私の前では無力なのか?
勢いで言っただけなんだ・・なんかごめん・・。
「この先には町とか村はなかったよね・・?」心配になってくる。
逆巻いた水は上流に向かって押し戻され、開けた川底が道のように続く。すると私の背中側にあった川の水が、水がなくなった側に流れ込んでくる。どどどー。
さらに、どおおおおと一気に町の水位も下がる。おお。
「しかしこれ、さっきの水がこのあと、もっとすごい勢いで流れてくるんじゃない?」
想像通りの音が上流から聞こえる。吹き飛ばした分の水が鉄砲水となって荒れ狂ってくる。マズイ。大自然の逆襲だ。調子に乗ってスンマセン。
今度こそその勢いで町が流されてしまう。轟音はどんどん近づいてくる。どどど、どうしよう!? もう一度吹き飛ばす? 何なら天に撒くか!? 海に瞬間移動させる? いや、この町から出たことのない私は海の位置を知らない。王都の真上に撒いたりしたら目も当てられない。
うーんうーん! そういえば前世には東京に地下ダムというのがあった! いっぺん見学に行ったことがある! あれはとてつもなく凄かった! あんな風にどこか地下に穴を掘って・・・駄目だ! その土砂をどこに置くんだ!
えーんえーん、自分でやってしまったこととはいえ、こんなことになるなんて思いもしなかった。
私の筋肉凄すぎ!
感心してる場合じゃない! あああああ、そこまで来た! もう来た!
うーんうーんうーん!!
私はある意味、一番安易な手段を選んだ。
「もうこの水! 東京の地下ダムに流し込んじゃえええええ!!!!」
もう一度拳をおりゃあっと突き出すと、拳の数メートル先ににぽっかりと黒いあなが浮かび上がった。
私のところに到達した鉄砲水は目の前の黒い穴にみるみる吸い込まれていく。
直径四メートルくらいの穴なのでそこに入らずに脇を通り抜けていく水もあるが、とにかく勢いは殺したし、水位もぐんと下がっていく。
どんどん水が吸い込まれていくのを見て、だんだん怖くなっていく。
「えええええ・・・・出来ちゃった? これ本当に東京の、あの地下のダムにつながってるの?」
いくらとっさにイメージしたのがあそこだったとはいえ、我ながらこれは無茶苦茶だ。東京の人ごめんなさい。もしあっちも今、洪水だったらどうしよう・・・というか、これって、こっちの世界の水をあっちに異世界転移させてるんじゃない?
ええええ・・・大丈夫それ? こっちの生物があっちに行ったりしてない? 生態系とか大丈夫かなぁ・・・。ま、まあこの世界には私が信じる神がいる。きっと何か良いようにしてくれるだろう。会ったことはないけど私は信じている。
「あとは宜しくお願いしまぁす!!」
パンと両手を叩き合わせ、祈る。こんなお祈りでいいのかどうかは知らない。何事も気持ちが大事だ。けっして丸投げではない。私にだって限界はある。たぶん?
とはいえ、人事も尽くさずに天命を待つわけにもいかない。ちょっと調べてみると、この黒い穴はどこかにある、地下の大空洞につながってるようだ。この世界の理がそこにつなげてくれたのだろう。ありがとう神様。
ピシャアン!その時。神の啓示が私にも下った。
雷に打たれたような衝撃が全身を襲う。
「首都圏外郭放水路は、東京じゃなくて、埼玉県にある・・・」
記憶のなにかが開いたのか、本当に神の啓示だったのかはわからない。しかし啓示は下った。
「ごめんなさい、さいたまの人たち・・・ありがとう・・」
胸に熱いものがこみあげてきた。
さいたま市じゃなく春日部だと、後でまた啓示があった。




