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10・彼と大事な話をしてたのに、大事件が始まったかもしれません

 教皇様が辺境伯領にある神山に、安寧祈願のお祈りに行くというのは、あのニュースが書かれた本の中で記事として扱われていたので、知っていた。

何でも、何か大事な啓示があったそうだ。


 彼が王都に発ってから一月が過ぎた。先日、王都を発ちこちらに向かうと伝報があった。短い一文で料金は最低クラスだが、伝えてくれた司祭様に、すごく嬉しそうだね。と言われた。そんなに顔に出てましたか・・・。


 この町は、教皇様が行幸の途中に立ち寄るところ、として指定され、それにふさわしい準備に追われていた。前世では神様なんて全く信じてなかった私だが、この世界には魔法があり、その魔法は何らかの理で作用する。


私はその何らかの理が神なのではないかと思っている。それに魔法があるんだから神がいても不思議はない。


しかもこの神は啓示までくれるという。前の世界に比べるとなんとも良心的な神だ。


 私は実は毎日、日が登る前に教会に赴き、かるく掃除をしてから、日が昇るころに仕事に向かう。というくらいには敬虔な神の徒だった。だってこの世界の神は、私に素敵な両親と可愛い弟と、とびきりの筋肉と、さらに便利な魔法を授けてくれた。そしてその魔法を使うたびに、なにかの理を感じるのだから、そりゃあ教会の掃除くらいはさせてもらいますよ。神様ありがとう!!


 一仕事終えたらいつものメニュー(筋トレ)をこなし、ご飯を食べ、日が高くなったら午睡をし、また仕事してから筋トレをし、晩ご飯を食べて、筋トレして就寝。

そんな毎日だ。


 しかし、こんなのんびりした生活の私が、王都に行ってやっていけるのだろうか? 王都ってあれでしょ? あちこちでバキバキのゴキゴキの衣装を着たお貴族様が、立派な馬車にのって移動してて、それを見た平民は皆土下座して、彼らが通り過ぎて、見えなくなるまで平伏させられ続けるのでしょう? 

そして彼等は、わざわざゆっくりゆっくり馬車を進ませて、ひれ伏す平民に冷たい視線を送るの。


 私たち平民は、通り過ぎるまで土下座をさせられ続けるのに、10歩も歩けばまた、次のお貴族様に土下座させられるって・・・そんなところなのよ!! と、弟に言ったら「嘘を教えて、僕をどうしたいの?」といわれた。


ちっ、気が付いたか。

いや、行ったことはないのでもしかしたらほんとかもしれない。


「来年、アレクちゃんが辺境伯都にいっちゃうのが、リリーちゃんは寂しいのよねー?」

「二年くらい勉強してくるだけですよ・・・大げさな」


ゴメンお母さん、私は来年、その王都に行くかもしれないんだ・・・。いっきに二人いなくなると寂しいかな・・。

そんなわけでラルからの誘いの話は、ちょっと言い出せずにいた。


ちらりと見た窓の外は雨だった。



 結局、半月後の教皇様の一団がやってくるその日まで、晴れたのは二度だけで、あとは雨か曇天だった。こうも日照時間が短いと作物の生育に悪い。

あんまりアレなら私が魔法で雲を吹き飛ばそうか? と父に言ったら


「出来そうな気がするからやめてくれ」

と顔をしかめながら言われた。たぶん出来ると思うけど?


教皇様の一団がやってきた。今日の天気もしとしと雨降り。

教皇様を迎えるに良い日だとはいいがたい。

やっぱり雲を吹き飛ばせばよかった。


 列の中に四頭の白い馬にひかれた四輪の、白くひときわ美しい馬車がやってきた。あれが教皇様の馬車であろう。派手な装飾は特にはないのに美しい車体だ。それが雨でしっとりと濡れてるのはとても残念に思う。晴れていれば、さらに美しく見えたであろう。


 普段ならこういう時、教皇様は馬車から降りて人々と交流してくださるとのことだったが、今日はあいにくの天気だ。ぬかるんだところを歩いていただくわけにもいかないので馬車はそのまま領主様のお屋敷に入っていくことになっている。

 途中、教皇様は馬車をゆっくりと進めさせ、濡れるのもいとわずに、窓を開けて集まった人たちに手を振ってくださった。温和そうな笑顔に大きな手。思い描いていた教皇様そのものという感じで、私はなんだかうれしくなった。集まったみなも、そのお心の広さに感動した興奮したりしていた。


 500人くらいは居る大行列がやってきたわけだ。このあたりは周辺の人間を全部かき集めても1000人もいない。さらに事前に辺境伯領から100人ほどの人が来ていた。おかげで今はものすごい人口密度だ。

 この100人の人たちはこの行列をこの小さな町で迎えいれられる準備をしてくれた。さすがに教皇の行幸といえば一大行事だ。彼等と、町の人たちの手によって町のあちこちに簡易の長屋が作られていた。そこに500人が雨ざらしにならないように収められていく。


 この辺境伯領の人たち100人が来た時、初めて知ったのだが、私たちのこの町は、辺境伯の領地だった。この町の領主様はこのあたりを任されてる辺境伯の寄り子で、この町は山の向こうの辺境伯領都への玄関口だったのだ。

どうりでラルのいる隊商がよくしてくれてたのだ。あれは自領の領民を大事に思ってくれてのことだったのだ。まあこんな田舎に住んでると、自分がどこに属してる何なのかなんてわからなくても仕方がないよね。


 そんな私も与えられたお仕着せを着て、母と一緒に給仕をしていた。もちろん元貴族で、素晴らしいふるまいの母は領主様の屋敷で働き、私は長屋だ。

 

 お仕着せは、そっけない腰を絞った黒いワンピースで、白いエプロンがセットだ。首元に白い襟があるが、私は首が太すぎて締めることができないのでスカーフを巻いてごまかすことにした。ほかにも入らない部分が多くて、改造してもいいかと領主様の屋敷のメイド長に聞いたら、仕方がないと認めてくれた。


 よっしゃ、もうちょっと可愛く改造しよう。エプロンにフリルをつけてスカートのすそにも白いフリルをつけよう。だってラルに会うんだもの。可愛くしたいじゃない? 見ようによっては前世のメイド服っぽく可愛く仕上がったが、着るのが私だと途中から失念していた。フリフリつけた筋肉とか、似合わない。


弟は神妙な顔をしてた。 そこは「微妙」な顔するところじゃない?


 さて、何せ500人だ。急ごしらえの長屋は六つほど建てられ、それぞれ80人ほどが収まっていた。町の住人たちは飛び回るように彼等をもてなしていくが、さすが彼等は教会の精鋭だ。

お客様気分はまったくなく、逆にまめに動いてくれるので、この町の住人が慣れない大人数を相手にまごまごしててもそれなりうまく回っていく。


 ひと段落したあたりで声をかけられた。ひと月半ぶりに聞く声に嬉しくなり、気持ちが高ぶるのを感じながら、それを頑張って抑えて、振り返る。


「やあ」

「久し振り」


私の口は隠しようがないくらい気持ちが正直に現れ、綺麗な弧を描いた。尻尾があったらきっとぶんぶん振っている。


 ラルは濡れた外套を脱いで入口のそばのフックに掛ける。領主様のお屋敷での歓迎会に合わせて正装をしたのだろう。鮮やかな青い礼服を着ている。しかし膝まであるブーツは少し泥で汚れていた。


「ちょっと待って」


いうなり私は魔法を使う。するりと泥と水分を落とし、皮のブーツがパリッとする。


「ありがとう」

「あとで旅用のブーツにも掛けてあげるわ。水をはじくやつをね」


「それはありがたい。正直ここまで、ブーツなのか、水を入れた皮袋に脚を入れてるのか、ずっとわからない状態だった」

「ずっと雨振ってたかものね。私ならあなたの周りだけ雨が降らないようにもできるわよ?」

「それはさすがに遠慮しておこう・・しかし・・」


「どうしたの?」

「先日の答えを、あの山とかで聞かせてもらおうかと思ったんだが・・・、この雨ではあまりふさわしい場を思いつかないな」


こういう思案顔はだいぶ年上に見える。


「相応しい場所なんてないわ。教会だって今は人でごった返してるし・・それに」

「それに?」

「こんな給仕用のお仕着せで、大事な話をしたくはないわ」

「そのフリフリの服、似合ってる。可愛いよ」


彼はこうやって不意打ちが得意だ。恥ずかしさをごまかすために、うえーって感じの凄く変な顔をする。


「変な顔」

「あなたの不意打ちが決まったのよ」

「それはおかしい。いつも正面から挑んでるのに」


確かに彼はいつも正面から向かってくる。


「ラルは・・・その恰好、似合ってるわ」

初めて見る好きな相手のきちんとした姿に、女子としては盛り上がらざる得ない。場所がちょっといまいちだが。このカッコよさの前には、些細なことだ。


「それで。どうしよう?」

「明日には立つんでしょう? 教皇様って行幸が終わったらまた王都にお戻りになるんじゃないの? その時あなたはお傍についてないの?」


次の機会に先伸ばすこともできる。


「予定では、またご一緒させていただくようになっているのだが、日取りが決まってないんだ」

「ふーん。じゃああんまり先送りするのもなんだから今言うわ。いいわ、一年後、あなたの王都行きについていくね」


 彼の目がいっぱいに開かれる。彼の手が伸ばされ私の頭を抱える。そのままぽすんと抱き寄せられた。青い礼服の下にしっかりとした筋肉を感じる。


「うわ・・」あまりの事態に、小さく呻いてしまった。恥ずかしい!


彼の胸にいる。彼は、抱きよせた腕も硬く、背中に回された頼りがいのあるその両腕に、私の心臓がそれはもう跳ねあがっていった。顔が熱くなりこのままこの胸の中にいたら自分が沸騰するんじゃないかと思う。


「でも・・・」

彼の胸の中で少しの不安を口にする。

「まだお父さんやお母さんに、お話ししてないの」


「ああ・・一年がかりで説得してみてくれ。駄目だった時には、攫って行く」

「私相手にできるかしら?」

「もっと鍛えないとな」


そんな話をしていたら足元の土間にすーっと水の膜が張られた。



「え?」


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