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第9話


「河原……?」


高藤が首を傾げる。渡ると思ってたであろう橋を僕が降りたからだ。


「あれ」


と、僕は一軒(?)のダンボールハウスを指差す。


「あら、ホームレスの方とお友達だなんて素敵なお付き合いね」


僕はシカトを決め込んで歩く。高藤もそれ以上は何も言わずについてきた。


ノックする。パサパサと音を立ててダンボールがカビっぽい空気を吐き出す。


「誰だ?」 と低い声が帰ってきた。


「僕です」


「入ってくれ」


高藤にどうする? と目で問い掛ける。彼女はただ頷く。


「絶対笑っちゃダメだよ」


念を押してダンボールの扉を手前に引いた。狭い出入口に身体を滑り込ませる。


「っ……」


彼の、ナイフさんの顔を見た高藤が息を飲むのがはっきりわかった。そしてカビ臭い空気に噎せる。


「こんにちは」

「こんにちは」


笑顔で挨拶をかわす稀代の連続殺人鬼の彼と僕。


「その後もおかわりなく?」


「ああ、元気で殺ってるよ そちらは?」


高藤を目で示す。


「諸事情で僕に付き合う羽目になってしまったかわいそうなクラスメイトです」


僕も高藤のほうへ視線を動かすと彼女は表情をどう動かしていいのかわからないらしく顔の筋肉を微妙に固めたまま突っ立っている。


「今日は?」


「少し尋ねたいことがありまして」


「なんだい?」


「猟奇殺人犯の心理について」


僕は単刀直入に身体中が穴だらけになるほど刺されまくっていた今井 敏夫さんの話をする。



「……怨恨、もしくはそれに見せ掛けたい殺し方だな」


「ええ 普通に考えれば返り血だったり髪の毛みたいな証拠品が残ったりするリスクが増えるだけでそこまでする意味はない」


「……見せしめ、じゃないかな?」


「見せしめ?」


「ああ、そこまで切り刻めばただ殺すより大きな恐怖を抱くだろう 普通の人間は」


暗に『君や俺は普通じゃないから』っと言われてる気分になる。まあその通りか。


「返り血のことを考えればおそらく単独犯ではない 近くに車を止めていた仲間がいたはずだ」


「だとすれば何かを調べられたくない複数の人間が?」


飛躍した推理ではあるが説得力はある……気がした。


「あくまで仮説の1つだが、被害者が警察官ならば充分にあり得ると思う 問題は刺された男が何を調べていたか、だな」


「……あくまで全く根拠のない仮説なんですが、この街って殺人多すぎますよね?」


「ん ああ、そういえばそうだな」


「それも刃物を使った殺人が多い」


「言われてみれば」


「それってあなたの影響じゃないでしょうか?」


ナイフさんが僅かに目線を曇らせる。


「……続けてくれ」


「ちなみにあなたがいままで殺したのは何人ですか?」


「18人」


「テレビの報道では23人になってました つまりはこの街の人間はそれを狙ってるんじゃないでしょうか」


「自分の殺人を俺がやったと見せ掛けたいわけか?」


「そして今井 敏夫はあなたが殺した『本当の人数』を調べていた とか」


顎に手を当てて思案する仕草をする。


「……根拠はないと前置きしているのに本当にそうみたく聴こえるのが不思議だな」


暗に同意を示してくれたらしい。これ以上ここに居るのは高藤が耐えられないらしいので僕は腰を上げた。


「有意義なお話ありがとうございます」


「調べるのか?」


「隣人が猫と遊んでばかりですっかり元気を無くしてしまったんで 丁度、僕も退屈してたとこですし」


「気をつけろよ」


「そちらこそ」


ふと思い出したように彼が付け足す。


「そうだ、君の名前を教えてくれないか?」


「三島 太陽ですけど……」


質問の意図が理解出来ないまま今の名前を口にする。


「神代 葉月だ もうすぐこの街を出るつもりだからそれだけ訊いて置こうと思ってね」


僕は思わず息を飲んだ。歪んでいない優しい笑みがあった。そしてそれは……






僕が見た生前の、彼の最後の顔となった



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