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第5話



神代 葉月に殺された人数はテレビで22人と言っていた。

彼が殺す度にかかってくるいまでは貴重になった公衆電話からの連絡の回数は17回。多分残り5回は同じ手口を使った別人の犯行だと思う。

17人と22人。きっと彼の罪は変わらないだろう。5人分の命の重さは罪という形には表れない。世間の評価も変わらない。クレイジーな大量殺人犯。ただそれだけ。


死人は、遺族は、 彼が死ねば満足だろうか?

答えは出ない。だって私は遺族でも死人でもない。ただ殺されそうになっただけ。その最初の1人ではあるけど。

ねぇ、あなたはそれで満足? 神代 葉月。



18回目の電話がなった。時計の動かない部屋で私は受話器を取る。


『俺のことが嫌いか?』


彼の独白はいつもこの一言で始まる。私は優しく答える。


「ええ 大嫌いよ、葉月」


動かない左肩が僅かに疼いた。







衣類と食糧と住居。俺が実感した逃亡生活で困るもの3つ。追跡はそれに入らない。捕まったらそれまでと割り切っている。痕跡は可能な限り絶つようにはしてるけど。


(あと1年ぐらいか)


逃げるときに目一杯持ち出した金が底をつくのは。逃亡生活もそろそろ3年目。いまの兄弟達はこの額でも目の色を変えて盗りに来るんだろうな、となんとなく。


俺が指名手配されて神代家は没落したらしい。身内の恥を刺されて代表取締役を下ろされ一転窓際へ。無駄にプライドの高いあいつらがそれを容認出来るはずなく、辞表を叩きつけ不景気の現実を知った、ことまでは夏希から聴いた。少しいい気味だった。


一度上がった生活水準を下げるのは難しく貯蓄も残り僅かで家財や家を売りに出してるところかな。想像する。昭宏が趣味で集めてた絵やらなんやらはあいつの性格上最後まで粘るんだろうか?



「ん〜……」


大きく伸びをする。そういえば夏希も猫みたくこうやって伸びるのが好きだった。懐かしく思うと急に1人が身に染みた。


須藤 夏希は唯一俺を好きになってくれた人間だ。いまはもういない。イマハモウイナイ。


いい聞かせるように反芻する。

少なくともいまさら自分が夏希と幸せに暮らそうなんて思うほど、俺の犯した奈落の深さを認識していないわけじゃない。のたれ死ぬことか捕まることでかはわからないが死は覚悟の上だ。『世直し』などと言い訳のような大義名分を掲げるつもりはない。俺は我欲のために人を殺す。ただそれだけ。

昨日で18人目だ。未だに行方不明、失踪とされてる物も多々ある。杜撰な国だ。欠伸がでる。


さて 今日も行くか。誰かの笑顔を殺しに。

不意に思った。そういえば俺はどうして夏希を殺そうと思ったんだ? 彼女の笑みは好きでこそなかったが不快ではなかった気がする。もう忘れていた。忘れないと誓ったのに。

我欲のために殺した、殺そうとした人のことはせめて覚えておこうと思ったのに。最初から壊れていたんだな 実感する。最初から? 最初っていつだ? 夏希を殺そうとしたときか? 最初に人を殺したときか? 親父の寝室を訪ねたときか? ダンボールの家を出て河原で顔を洗う。水面に映ったドロリと濁った目が俺に問い掛ける。


『俺はいつ壊れた?』


バカバカしくなって口元が歪む。我ながら醜い笑みだ。そして気づく。これは本当に笑みなんだろうか?


俺はいま笑っているのか……?


もっとよく見ようとナイフを翳してみた。白い光が俺の顔をかき消す。くだらない目的のためには7月の太陽は少しばかり強すぎるらしい。



「7月……か……」


この街に来て2〜3ヶ月。せっかくトモダチが出来たのに残念だが1つの街で4つの殺人は多すぎる。そろそろ場所を移そう。


そうだ、別かる前に名前ぐらいは訊いておこう。大丈夫。忘れない。夏希のことはまだ覚えている。


ナツキノコトハマダオボエテイル




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