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第13話



──…僕が意識を取り戻したのは3日後の深夜だった。

薄く目を開くと闇の中にボンヤリと夜月の顔が浮かびあがる。その奥には……


「……面会…ひゃ絶のはずですけど?」


……ひゃ絶ってなんだ? と朧気に思ったけど思ったが、言ってること自体は間違ってないだろう。面会謝絶。まああえて言うなら患者自身が主張すべきことじゃないってことか。


「ようやく起きたか寝坊助め」


おい、致命的に間違ってるだろ。その感想。


「親族以外はご遠慮ください」


明確に拒絶の意志を表すけど、その人は図々しくもパイプ椅子を持ってきて夜月の隣に座る。

っていうか、なんだ? この人、近くで見るとやたら芸能人みたいな無駄なオーラが撒き散らされてるんだけど。俳優が天職に見える人は生まれて始めて見た。


「堅いこと言うなや 俺様のおかげだぞ、お前が生きてるのは」


……あれ? 聞き覚えのある声だ。えーっと、健忘症は治ったはずだろ。僕の脳ミソ。思い出せよ。考えろ。マクなんとか


…………ああ そうだ。


「大橋 友也、刑事さん……ですよね?」


「ん まあな」


この人は僕が昔々精神病院で治療を受けてた頃に来た、話のわかる刑事さん。

他の警察の人はよく僕のトラウマに触れて素敵なフラッシュバックを覚醒させて「手に負えん」だとか愚痴ってそのまま帰ってったっけ? この人だけが傷に触れない程度にいろいろと僕から聞き出すことに成功してた。


「事情聴取はじめるぞ」


「拒絶します」


「今井の家を訪ねた」


僕の意志を無視して喋り出した大橋さんはタバコを取りだしかけて、舌打ち。まあ病院だからね。ここ。


「んで刺殺体を発見、ご近所さんにお前の写真を見せたらよく似たやつが入ってった ってよ」


「別人です」


「わかってる 殺ったのは神代 梓だ」


あっはっは 僕の勘も捨てたもんじゃないな。って、家の中に入ったことも否定したつもりだったんだけど。


「けど猫盗んだのはお前だろ あれは何のためだ?」


「黙秘権」


「構わない 俺は黙ってる獲物をじわじわいたぶるタイプだからな」


くっくっ と二度と低く笑う。


「って言うか、お前ら姉弟、なんだ? 事件引っ掻き回す天才か」


「神代 梓は?」


「辛うじて生きてる あいつが火を放ってお前らの逃走経路を塞ごうとして失敗して自身が炎の中に取り残される、って筋書きでいいのか? 放火魔」


……なんだろう、この人、高藤以上に出し抜ける気がしない。


「フラッシュバックは?」


「多分治りました」


「じゃあいいか、あの時の犯人もお前だろ?」


あきらかに僕に向けて言われたのに、夜月の肩が揺れる。


「黙秘権で」


「灰皿の指紋 血の付いてない箇所にお前の指紋と重なるように姉のほうのがあった」


「……」


「姉のほうの指紋は僅かに血の上にも、お前の指紋は完全に血の下にしかなかった」


「ちなみにそれを証拠として採用しなかった理由は?」


「簡単だ 姉の自供に筋が通り過ぎてた

根拠として弱すぎる」


僕は夜月を見る。夜月は僕に視線を返し、微笑。ちなみに友也さんはさっきから僕らのどちらの顔も見ずに中間に視線を漂わせている。


「大したもんだよお前らは あいつ以外に始めて負けたわ」


と、友也さんが謎の愚痴。

僕は本題から逸れた話を引き戻してみた。


「……神代 葉月の遺体は?」


「まだ見つかってない、ってか探し始めてすらないな」


「ペラペラ喋っていいんですか?」


「捜査内容じゃなくて私用の推理だ どうせ警察の連中で俺の話を真に受けたのも今井しかいなかった


証拠の上がらない刃物による無差別殺人はなんとなく神代 葉月の主犯って思い込む雰囲気が出来ちまったんだよな」


「そして残念なことにドラマよろしく少数派の推理が的中してしまった…… と」


「お前らみたいなガキまで巻き込んで、な」


友也さんが大きく息を吐く。


「なんか訊きたいことは?」


「どうして僕に目をつけたのか」


「今井 加奈子だ」


「……」


「逮捕まであと一歩のとこで、死なれた で前後に見たのがお前」


「……」


「安心しろ、あれは自殺と断定された 遺書もあったしな」


……多分、それも疑ってるよな この人。

遺書……書く時間なかっただろうから、前々から死ぬ用意はしてたんだな。やっぱり。


「で、今度は今井 敏夫の死体 一応お前の写真見せたら目撃証言バッチリ

お前の住所は裳抜けの殻、身元を引き受けた叔父? だったか? に訊けば黄空 夜月の居る三島家の実家に向かっただとか


そっちに行ってみたら屋敷は炎上中、お前は腹にトンネル開通

唯一無事そうな姉のほうに訊けば屋敷の中にはまだ誰か居るだとか

俺様、救急車呼んで火中に飛び込んで神代 梓を引きずり出した なんか疑問は?」


「いえ」

素晴らしい。パーフェクトです。賛辞して拍手を送りたくなった。間違ってもそんなことはしないけど。


「……貴方はなぜここに?」


別にいまじゃなくてもあとで機会はいくらでもあるだろうに、夜中にわざわざ面会謝絶の病室に忍び込まなくても。


「とりあえず個人的に一言いいたくてな」



 バカか、お前は



……なんか普通に罵られた。


「危ないなら警察使え お前らに顎で使われてやるために俺様達は税金でやっすい給料いただいてんだ」


「はぁ」


僕は気のない返事しか出来なかった。


「じゃ俺様帰るわ」


え? マジでそれだけ言うために来たのか? この人。いままでのやり取りは全部前置き?


「あ、そうだ」


扉開けて、なんか振り返って、


「頑張って平凡に生きろ」


それだけ言って、閉めた。




 ……完敗だな。




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