第12話
こういう場合は………
まあ若干違うけど想定してなかった訳じゃない。
うん。もしかしたらふつうに良心の呵責を覚えて殺せないんじゃないかなぁ なんてバカげたことを思ってたんだよね。僕でも一応。
と、なるとパターン2に移行せざるを得ないってことだよなぁ…… だって姉だし。いや 姉だよ?
義理とかじゃなくて血の繋がってるらしき。
ああ でも、やだやだ。神代 葉月と今井 薫を撃退した魔法のアイテムである【塩 母なる海から取れるクセに幽霊に痛みを与える謎の物体】も所持していないと言うのに…──
僕は足を絡ませて夜月を押し倒した。
覆い被さる。薄い胸板が触れ合う。胸ないな。とか姉にセクハラ発言してる場合じゃなく、
ドンっドンっっ!!!
無骨過ぎる2発のノックが扉を突き破って花瓶やらを破壊した。
──…なんで拳銃持った殺人犯の相手なんかしなくちゃ行けないんだか
えっと、なんで気付いたか? スペシャリーな僕の視力と第六感的な背筋がハチャメチャな悪寒に襲われたからですよ。
でもまあ拳銃はあくまで脅しの道具、のはずだ。いまのも一応回避行動をとってみたけど当てる気はなかったはずだ。
昨日拳銃しか持って来なかったのは失敗だったね。犯人さん。
つまり、犯人の狙いはこうだ。
神代 葉月を殺害し死体を管理する。すると彼が警察に捕まることは未来永劫に無くなる。
あとは刃物を使って人間殺し放題。罪は葉月さんが被ってくれます。
なんともまあ杜撰な計画。あきらかに狂人の仕様だ。
で、昨日の目撃者は三人。夜月、僕、高藤。
神代さんも合わせて四人の死体を抱えて身を隠すのは不可能。って言うか腕怪我してるだろうしね。
稀代の殺人鬼、神代 葉月だぜ? ただ殺されただけのはずがない。
「立て 隠れるぞ」
起き上がり小声で指示を出して部屋の中に逃げ込む。そこはキッチンだった。記憶はまだ正確らしい。あとはあれがあれば、おっ あったあった。
犯人は鍵を破壊するために銃弾を無駄使いする。あーあ、開いてるのに。
「……」
「き…昨日の……?」
……この人、僕の姉にしては頭の回転が鈍いなぁ。それ以外に何があるんだよ。拳銃と縁のある生活でも──送ってたのか。僕の身代わりでブタ箱にぶちこまれた身だから。
「大丈夫 助けるから」
柄にもなく僕は笑っていた。嘲りでも愉悦でも狂気でもなく、ただ自然に。
……死亡フラグじゃないといいなぁ。
なんて思いつつ、
「あ いま誰か家の人いたりする?」
大事なことを聞き忘れてた。フルフルと首を横に振り否定する夜月。
じゃ、別にいいか。
僕は躊躇わずにガスを捻って近場のプラスチック製のゴミ箱を燃やした。めちゃくちゃ熱いけど我慢。
「離れてて」
と夜月に指示。
そして部屋に踏み込もうとした犯人さんを殴打する。
僕はあっ と間抜けな声を出す。
囮? なんか枕みたいなのを打った。直後に本命が来て、
僕は火のついたゴミ箱でそれの顔面を殴打した。
「ひぃぁっ!?」
甘いんだよ、心中で呟いて一撃目はナイフでした、なんて簡単な種明かし。たんぱく質が焦げる匂いが鼻をつく。
髪の毛に火がついたらしい。のたうちまわるが古い木造の家なので逆効果。火の範囲が拡大されて呑み込む。飲み込む。
ひたすら拡大。
「行こう 夜月」
手を引いて裏口から抜け出す。古い家だからね。
「さよなら、神代なんとかさん」
多分、妹さんかな?
神代 葉月が歪むだけの材料があったならそれは当然他の家族にあて嵌まる可能性もあるわけで、神代って以前に神代財閥がどうとか言って所得税がどうこうでテレビでやってたのだ。何年か前に。
それがここ数年で簡単にタブーとなった。神代 葉月が殺人鬼であるせいだ。
つまりはいいとこのお嬢様が突然その生活を奪われたわけで、その復讐。ついでにおそらくは葉月さん同様の我欲で惨殺の隠れ蓑。
居場所を知ったのは偶然か葉月さんが連絡を取ってた誰かに訊いた、とかかな?
なんて勝手な想像を働かせてみる。証拠もないしそもそも僕自身そんな気がしただけで全く違うかも知れないけど。
もしかしたら路地裏でエーテル嗅がされて放置されたあの人かもしれないけど。
とりあえず僕は夜月の手を引いて。
「さて、逃げようか」
ぱすん
「……ぁ………………」
れ?
ううううう撃たれ歌うたた撃た撃たれ射たれ討たれ打たれ伐たれ、撃たれ、た?
お腹、貫通、血、どっぱり、直撃、貫通。
あ ダメかも。これ。死んだ。かな?
振り返ってみたけど炎の中から適当に撃った弾が偶然僕に直撃したみたいで、当たったのが4発目だったな。
5、6 残りは全部外した。
7発目の銃声は聴こえて来ない。
夜月は、生きて、る、な?
な…ら
よ
………し
っと……