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第10話



 パンッ!!



(しくじった……!)


全速力で駆け出す。ターゲットに選んだ女は大学生らしかった。いつもと同じようにやるとそいつは突然懐から拳銃を抜いた。至近距離からの発砲。真っ白になった頭が血飛沫と激痛で色を取り戻す。二発目が放たれる直前に俺はもしものときの逃走経路として想定していた脇道へ飛び込む。女が追ってくる。




死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。


なぜ? なぜ俺は必死に逃げている? 殺した時から死は覚悟していたはずだろうが 死にたくない──? 死にたく、ない 夏希に会いたい。もう一度、もう一度、夏希! 夏希夏希夏希夏希夏希。俺の生涯で唯一俺を肯定してくれた人。俺が生涯で唯一愛した女性…──




あのとき俺は意味がわからずに途方にくれた。ただ1人の理解者すら失い全てを壊そうとした。「俺のことが嫌いか?」 そして彼女の左肩を刺した。吼えた。誰かが駆けつけて逃げた。のちに──まだ携帯の料金が払われていたときに──大学の友人からの電話で彼女が大学で酷い嫌がらせにあっていたことを知る。「神代家の御曹司と付き合っている小生意気な女」として。彼女からの電話があったのもたしかその直後だった。彼女は「逃げて」と叫んだ。電話越しでも耳が痛くなるほどの大声だった。警察が近くまで来ていた。


逃げた。道行く人々の笑い声が不快だった。気に入らなくて刺した。また逃げた。そして俺はいまここにいる。


角を1つ曲がる、と別の学生とぶつかった。転げる学生。視界の端に追ってきた女の拳銃が映った。


撃たれる──覚悟した瞬間、俺は、その学生を突き飛ばした。


 そうしてから盾にすればよかったのだと気づいた。しかしそうしなかったことを喜べた。どうやら俺はまだ人間らしい……


 パンッ



乾いた銃声と衝撃が俺の胸を貫いた。冗談のような量の血が噴き出す。



「な………つ……き……」


この街へはほんとは君に会いに来たんだ…… でも向き合う勇気が持てなかった 殺されるな…ら……


 に

  が

   よ

    か

     っ

      ……た




 ◇


「きゃぁぁぁっ!?!?」


そう遠くない距離から悲鳴が聴こえた。


「高藤」


「漫画のネタになるかしらね」


と、曖昧に同意して二手に別れて走る。大体の見当で探し回るとそれは直ぐに見つかった。


「黄空……?!」


返り血にまみれた夜月が僕を一瞥する。そして唐突にそれが駆け出した。


神代 葉月の死体が真横にあった。


「なんで……」


あいつが今更、僕の前に? 高藤が肩を叩くまで僕は呆然と立ち尽くしていた……


「あの人……夜月さん……?」


「ああ 多分」


黄空 夜月は僕の姉であり……僕の両親を殺した女だ。








×年前、当時若干×歳の女の子が食卓にあった灰皿と包丁で両親を殺し姿を消す。という事件は穏やかだったこの街を恐怖に叩き落とした。しかし、保護された弟に虐待の痕が見られたことから警察は女子もまた同様の状態にあったのではないかと推測した。


しかし僕は彼女のことをしばらくして遺体で見つかった と聴いていた…… こいつらに


「答えろ お前らは嘘をついたな?」


僕が神代さんの形見となったナイフを突き付けているのは、僕の叔父にあたる人だ。


「た…太陽……?!」


「夜月は生きてるんだな? 警察に捕まって何年か前に刑期を終えて出てきた 違うか?」


切っ先を喉に僅かに喉に食い込ませる。


「答えろ」


「そ……そうだ 夜月は生きてる」


「どこに住んでる?」


「あ…白夜の…お前の父親の……実家だ」


僕はナイフを首から離した。張り詰めていた糸が切れたのか膝から崩れ落ちる。


「どうして隠したかは訊かないよ あなたたちが僕をどう思ってるかは知ってる」


あの人達は僕を恐れてる──だから僕はあの家に一人で暮らす自由を与えられた。


「太陽っ……」


「僕は夜月のところに行きます」


続きを言わずに僕は叔父の家を出た。



そして、呟いた。


「必要なら、殺します」




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