とりあえず
(最近、多いのよねぇ)
ふうっと、赤茶色の髪を束ねた女性ー
クラリスは顎の下に手を当てて、ため息をついた。
ここは、冒険者ギルドである。
ドゴォオオオッッ
騒音と共に、ギルドの壁が崩れ、周りにいた人が慌てふためいている。
喧騒の中、驚く様子もなく、クラリスはすっと立ち上がった。
「ドラゴンテイマーか!?」
「召喚術かもしれん!!」
ギルドにいた手練れの冒険者と、職員(とはいっても、こちらも退役しこそすれ猛者だった者だ)が叫び、相手の様子を窺う。
崩れた壁から、小型ではあるが、2mほどの翼竜が顔を覗かせていた。
足下には、16、7歳くらいの見慣れない黒い服を着た少年が横たわる。服の名前は確か「ガクラン」だっただろうか。
翼竜は、興奮しており、今にも暴れそうだ。
踏まれれば少年はひとたまりもないだろう。
「レスト!」
同じく、危険を感じた魔術師が、拘束呪文を唱える。
グォォ
見えない鎖に絡められたように、不自然に止まる。
、、、が、争っているようだ。
「くっ!小型だが力が強い!救出を!!」
魔術師が杖に力を込め、顔をしかめる。かなりの力に気圧されているようだ。
冒険者が足下から少年を引きずり出す。
クラリスは少年に近付き、首筋に手を当てた。
(まだ、大丈夫ね)
少年の無事を確認したクラリスは、今度は魔術師の隣に並ぶ。
「もう耐えれない!お嬢さん、来てはダメだ。危ない!」
必死に制止する魔術師に、クラリスは満面の「受付嬢スマイル」を放ち、翼竜に向かって手をかざした。
「リジェクト!!!」
唱えた瞬間、翼竜が光に包まれ、その光が霧散する。
周囲が眩しさに目を瞑り、開けると翼竜は消失していた。
消失はおろか、破壊された壁さえも元に戻っている。
あまりの出来事に、周りの冒険者や魔術師が唖然とする。
そして、ハッとして視線がクラリスに集まった。
視線を感じ、クラリスは満面の笑みで微笑む。
「商業都市、アルスの冒険者ギルドへようこそ!」