村人、旅立つ
「脅迫…………か」
今現在、ただの村人の俺に勇者が借金を取りに来て脅迫まがいのことをされている。
「もしくは…………です」
「なんだ他に方法があるのか?」
「は、はい…………」
勇者ユリスは真っ赤だった顔がさらに赤くなる。^
「方法は二つあります。 国の奴隷として一生生きるか、私の…………勇者のパーティーに入っていただくかです」
「おすすめは?」
一応聞いておく。
「私たちと一緒に冒険するのをおススメします」
なるほどな…………。
「ちなみに説明を頼んでもいいか?」
「分かりました。 初めにですが、国の奴隷になると一生の衣食住が約束される代わりに生き地獄が待っています」
「却下だな」
「次に勇者のパーティーに入れば回復魔法は受け放題です。 それを逆手にとってお金を…………借金を消していく方法です」
「それはいいな…………と、言いたいところだが、デメリットがあるんだろう?」
「はい、私たちと一緒に冒険というのは死の危険があります。 もちろん全力で守らせていただきます」
聞いていて分かったことがある。
「ユリス様は優しいんだな…………」
「…………」
黙るな。 俺のほうが恥ずかしくなる!
「ゆ、リス…………」
?
「ユリスでいいです」
「分かった…………ユリス…………」
「…………」
お互いに黙ってしまう。
「俺を勇者様の…………ユリスのパーティーに入れてくれないか?」
「本当ですか!? 本当に一緒に来てくれるんですか?」
「それはこっちのセリフです。 俺みたいなお荷物でいいんですか?」
この世界には生まれた時から【役職】が決まっている。
【勇者】や【賢者】なんて職業もあるが一番多いのは【村人】である。
大体この世界の3割強を占めているこの職業は実は何でもできる。
農民でも商人でも傭兵でも、本当に何でも。
ただ欠点としては、「絶対に特化した職業を超えることができない」ということだ。
これは古代文明。 神々が記した書物にも記載されていることだ。
どんなにあがいても最後には器用貧乏で終わってしまう役職…………それが【村人】である。
だから俺なんてお荷物は国の奴隷になったほうが────
「良いんです…………」
「え?」
俺は驚いている。
実際、俺を…………【村人】を助けてくれるとは言っても、それはユリスが優しいだけで本当のところはお荷物だということを心の中では思っているんだとばかり考えていた。
だけど彼女の顔を見ればそれが本心だということがわかる。
「ちょっと気持ち悪いな…………」
「えぇ!」
ユリスは驚いているようだが、別段怒っては…………
「…………そ、それで気持ち悪い私が尋ねるのも何ですが、気持ち悪い私のパーティーにはいつ頃いられますか?」
あぁ、絶対これは…………怒ってるよなぁ…………。
「ごめんなさい! 何でもするので許してください!」
「本当ですか!?」
彼女は満面の笑み(なぜか怖い)を向けてこう言ったのだ。
「それなら出発を今日にしましょう」
「ちょっと待てよ! 流石に今日になんて…………村の人たちとも別れの挨拶もあるんだ!」
「さっき何でもって言ったじゃないですか?」
へ?
「それとも何ですか? 愛する人でもいらっしゃるんですか?」
「え!? ドルフ彼女いたの!?」
そういえばまだヴィラージュがいたな…………。
てか───
「いるわけないだろ?」
「そ、そっか…………、そうだよね…………。 あんたに彼女なんかできるわけないよね?」
「おう!」
何だろう…………。 自分で言っていて悲しくなってきた。
「そうか…………、ならば明日出発しましょう!」
なんでそこでユリスが安堵する!
「お前ら…………俺で遊んでいるんだろ…………?」
「「何が?」」
この人たち天然だぁ…………。
「まぁ、明日の昼ぐらいまでだったら、準備を終わらせます」
「ドルフ…………明日行ってしまうの?」
「まぁ、これはしょうがないしな」
ヴィラージュが寂しそうな顔をしている。
俺は何となくだが彼女の頭に手をのせて撫でた。
「何よ…………」
「今まで一緒にいたから寂しいと思うが、もう会えないってことはないんだからさ?」
彼女は納得はしてない顔はしていたが───「…………わかった」と渋々答えてくれた。
それから俺は村の知り合いに挨拶をして回ったり、準備をしたり忙しい時間が続いた。
そしてついに村から出る時間になってしまった。