射光
※全話を定期的に見直し所々で誤字・脱字修正を含みました改稿をしております、物語の進行には影響しませんのでご了承下さい。
前方からあまりの速さゆえに衝撃波を伴い飛来する光の剣を、ココは咄嗟に腰から抜いた短剣ラピスアビスを突きだして受け止める。
大きな質量を持った物同士がぶつかるドウンッという重低音が飛来物とラピスアビスの間に鳴り響き、同時に衝撃波が光の剣を受けたココを中心に発散してゆく。
発散した衝撃波は辺りの樹木や植物を無惨にもへし折り、土塊や岩は明後日の方向へと吹き飛んでいく。そして気がつくとココとウィズの居る場所は地面がむき出しの巨大なクレーターになっていた。
「ココ様、お怪我は!」
ウィズの心配を他所に、ココはすぐさま先ほど使いそびれた技能、消音と零の不可視化、絶対感知を発動する。
「私は大丈夫、ウィズは?」
「お気遣い感謝致します。全く問題はありません。しかし今のが天啓とやらでしょうか?」
「見たことない攻撃だったから、たぶん」
攻撃の直後からクレアルとの念話が途切れてしまったため、より周囲に警戒を向ける二人だったが、ココは射すような西陽の中心と丘の向こうの2ヶ所に違和感を感じとる。絶対感知を使用しているにも関わらず、何か靄がかかっているかのようにうまく認識できない。
(何となくの位置は分かるけどうまく感知できない。さっきの攻撃も、零の不可視可の効果は切れてなかったのに当ててきた、でも……)
「今のは明らかな広範囲攻撃だったよね」
「私もそのように感じます。ここからは私の憶測ですが、私達が相手方を感知できないように、相手方も私達を正確には捉えられないのではないでしょうか」
ウィズの憶測を聞いたココは理にかなっていると納得する。牽制するだけならわざわざ広範囲に攻撃を仕掛ける必要など無いからだ。攻撃を当てたいという意思が、正確に捉えられないが故の広範囲攻撃として感じ取れる。明らかな敵対として受け入れて間違い無いだろう。
「敵対するつもりはなかったんだけどな、このままだと村に被害が及ぶ可能性もあるし……」
「いかが致しますか?」
「とりあえず西陽に紛れてる方をターゲットに牽制、さっき受けた攻撃の威力は5級魔導程度だから、少し強めの4級魔法で様子見かな」
「かしこまりました、ではここは私が」
「うん、お願い」
ウィズは腰に差していた杖をスッと取り出して構えると、魔源の光がウィズへと集まり、空中にいくつもの魔方陣が展開されていく。
「【魔技範囲強大化】、【亜空光魔弾】!」
ウィズの魔法発動と共に、横一列に展開されていた魔方陣から光の弾が射出される。高音を発し連射される光はさながら魔法の砲台である。
夥しい数の光の弾は、丘陵地帯を射す西陽へと吸い込まれるように飛んでいった。
*
空から地上の偵察を行っているヨルグァとハミュートは、グリムが攻撃を放った東の丘陵地帯付近に何とも言えない薄気味の悪い気配を感じ取っていた。
「ヨルグァ、君には何か見えるかい?」
伝説の神鳥であるヨルグァの視野や感知能力はドラゴンにも全く引けを取らない。敵の感知に絶対の自信があるハミュートでさえ、こと感知に関してはヨルグァには一つ以上劣るのだ。
「ごめん。あそこらへんかなっておもうんだけど、ボヤボヤしてぜんぜんみえない」
「そうか……」
先ほどから目標を感知しようにも雲に覆われたものを見ているような感覚に陥り、ハミュートは全く索敵出来ないでいたのだ。しかして、感知能力に長けたヨルグァも同じようで、上空から距離を詰めたのにも関わらず察知出来ないとなると、手の打ちようにも困ってしまう。
「きのせいかもだけど、さっきからなんかいやなよかんがするんだよね」
「ああ、私もだ。嵐の前が静かなように。少し高度をあげよう」
大きな翼を優雅に上下させ、ヨルグァは西陽に隠れられる範囲内で先程よりも少しだけ高度を上げる。
そして、先程よりも高い位置から怪しいと睨んだ場所に再び目を凝らし警戒を強めた時である、丘の脇から一瞬だけキラキラと光が見えた。光は横一列にジグザグと並び、何度か明滅する。
「何だッ!? な?!」
ハミュートとヨルグァが光を確認した時にはもう、目映い無数の光の弾が眼前に迫っていた。
「ヨルグァ、避け……!」
「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
夥しい数の光の弾はヨルグァに避ける余裕など与える隙もなく襲い掛かり、豪奢な鎧を纏ったヨルグァを容易く貫いていく。
「ヨルグァ!!」
被弾したヨルグァは完全に意識を失っていた。滞空するために伸ばしていた両翼にはいくつもの穴が空き、姿勢を保つことができず地上に吸い込まれていく。
くるくると回転しながら真っ逆さまに墜落するヨルグァの背にハミュートは必死にしがみつく。先ほどは奇しくもヨルグァの大きな身体が盾となり光の弾を防ぐ事ができたが、今は完全に無防備であり、光の弾が容赦なくハミュートとヨルグァを貫いていった。
「グアアアア!! ハァ、ハァ、ヨル……グァ! グリ……ム、すまな……い……」
体勢を立て直すことさえ許されず、視界が暗転していく。ハミュートは遠退く意識の中、空中に浮かぶ森妖精の姿を確認した。
*
「エメルナァ!!」
グリムの鬼気迫る怒号にエメルナは目を開いた。強固な神壁の維持には並々ならぬ集中力が必要で、エメルナはかなり後方でパーティーの支援を行っていたのだ。
何事かと戸惑うエメルナであったが、次の瞬間、ものすごい数の光の弾が流星群の如く迫っていることに気づいた。間髪いれずにグリムがエメルナと光弾の間に割って入り、右手に装備している白銀の盾を翳す。
「聖なる杜の屋根!」
ドドドと光弾が降り注ぎ、地面が抉れて巻き上がった砂のせいで視界が無くなる。一瞬の静寂の後で砂煙が晴れると、グリムの背中が見えてきた。盾の延長線上にはアーチ状の煌めく膜のようなものが展開されてすっぽりと二人を覆っており、エメルナはグリムが自分を守ってくれたのだと理解した。
「グリム……!」
「怪我は、無さそうだな」
「ええ。貴方のお陰よ、ありがとう。でも、神壁がこうも簡単に破られるなんて……」
グリムは光弾が飛んできた方角を鋭い瞳で睨む。グリムがこのような表情をするのは珍しい。しかし、エメルナにはなぜ彼がそんな表情をしているのかが理解出来ていた。
「ハミュートとヨルグァの生命反応が消えかかっているわ、助けに行かないと!」
「分かってるさ、だがアレを見ろ」
エメルナはグリムが剣を向けた空へと視線を向ける。そして絶句してしまう。
絵に描いたような森妖精がそこにはいた。しかし、その森妖精は普通ではない。グリムやエメルナには魔源の流れが見えている。その森妖精が纏っている魔源の量は信じかだいほどに桁違いであり、今まで出会ったどんな森妖精よりも、いや以前対峙した魔王よりも強大であった。
「アレが噂に聞く森妖精の王だろうか?」
「ンダージヨ・ケニの妖精王は齢1000年を越える女性です。それにあのような魔源を纏っているとは……」
「何にせよ、手を出したのはマズかったようだ」
「しかし、このままではハミュートとヨルグァが……」
「そうだな。グアス、どう思う?」
グリムと共に先陣を切っていた筈のグアスが、いつの間にかグリムの横に戻って来ていた。
「……これ以上踏み込むのは危険だ。恐らく無事では済まないだろう。それに、あの森妖精以外に気になる反応がある。お前も気づいているのだろう?」
グアスの言葉にグリムは目を伏せて腕組みをする。グリムが考えをまとめる時にいつも行う仕草だ。
「俺が勇者と呼ばれている以上、俺は退けない。しかし、仲間であるお前達は別だ。俺に案がある、耳を貸せ」
*
ウィズが空中から見下ろした先には、鎧を装備した怪鳥と弓を携えた人物が地面に伏していた。そして、そのかなり先にはそれぞれ異なった全身鎧に身を包む2人と聖女とおぼしき女性を捉えることが出来る。
「牽制のつもりが、この程度の魔技で倒れてしまうとは、加減が難しいものです」
「ダメージに対する計算式が根本的に違うんだと思う。トルトゥガでも同じような事があったし……」
西陽に照らされたウィズから伸びる濃い影。その影からココの声が聞こえてくる。ココは"影支配者"の職業技能、シャドーダイブを使用してウィズの影に姿を隠しているのだ。
「本当に姿を見せて良かったのでしょうか?」
牽制の筈が敵を倒してしまったことで、相手がどう出るかを知るために、ココはウィズにかけていた隠密技能をあえて解除していた。
「相手を知るには、やっぱり面と面を合わせないと」
それでも警戒を完全に解くわけにはいかないという理由と、依然としてクレアルと念話が繋がらない現状から、ココは姿を見せないでいた。ココの予想が正しければ、これが彼らに対して少なからず威圧になると考えてのことだ。
「ココ様、相手方が動きを見せました。こちらに向かってきます」
白銀の全身鎧に身を包んだ青年が、地面を滑るようにしてかなりの速さでこちらへ向かってくる。
青年は地面を蹴り、ウィズのいる空中へと一直線に跳躍する。弾丸のようなスピードで突貫する青年は、輝く剣をウィズへと突き立てた。
ガキンとけたたましい音をあげながら、ウィズの杖と青年の剣がぶつかる。両者共に一歩も引かず、杖と剣がぶつかった衝撃波のみが二人の周囲にブワりと広がった。
「そんな枝きれで俺の剣を止めるのか……!」
「ハエが身体に当たってきた所で貴方はよろけるのですか?」
「ハエとは俺もナメられたものだな!」
青年は宙返りしながら後退し、そのまま空中に留まる。青年の足先からは神々しい程に青い光が迸っており、影の中から観察するココと対峙するウィズの目から見ても明らかに技術や魔技、装備、魔宿アイテムによるものでなはい。
「俺達はこの先にある村に用事がある。村が襲われているという救難要請を聞き入れての事だ」
「村、ですか。それで、何故私があなたから攻撃を受けなければならないのでしょうか?」
「率直に言おう。俺はお前達が村を襲った主犯だと思っている」
「ほう。何故でしょう?」
「滲み出ている魔源があまりに異常だからだ! 天啓、【不死鳥の翼撃】!」
青年がウィズに突貫する。輝く剣を手の中で一回転させると、剣は七色の炎を纏って大きな翼を象る。煌めく焔を飛ばしながら青年の剣がウィズへと振り下ろされた。
【天啓】を扱う勇者一向。はたして彼らの詳細とは……。
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