懇願
9/24
前回の投稿からかなり遅れてしまいました。不定期ながら更新は続けますのでよろしくお願いします!
突如として姿を見せたココの姿を瞳に写したカラメリアは、驚愕という表情を顔に貼り付ける。しかし、呪いによる身体の支配からかその表情は苦痛に歪み片膝を付いてしまう。
見る見る内に紋様が広がり、苦しそうに一瞬だけ面を上げたカラメリアは闇に塗りつぶされたような目をココへと向ける。
「アレは……? 【ピープ・イン・ステータス】」
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名称 カラメリア・プリン・カタラーナ 呪 Lv.?+
種族 オグルフ
所属 アラモウド海賊団
隠匿情報
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相手の基本情報を覗き見る技能を使用したココの視界にカラメリアのステータスがポップアップで表示される。
「欲しい情報は覗けないか」
「あんな大砲の爆発じゃ死なねェとは思っていたが、まさか本当にここまで来ちまうとは……」
ココとカラメリアとのちょうど中間の距離にいたヤガが、ココとエヴァに向けて野太い声を飛ばす。
「おい、あんたら、強さを見込んで頼みがあるんだ!」
「人の話も聞かずに襲い掛かってきて、突然頼みと言われてもね」
「……無礼極まりない」
エヴァはスッと妖精の弩を取り出すと真っ直ぐにヤガの眉間へと向ける。
「ま、待ってくれ!」
「……エヴァ、下げて」
「見ての通りウチの提督はあの腕輪のせいで呪われているんだ。あのまま呪いの紋様が全身に広がれば無差別に暴れまわる! どう足掻いても暴れる提督は俺じゃ止められねェ、だから頼む、提督を止めてくれ、この通りだ!」
ヤガは膝をついて深く頭を下げた。男の土下座を前にココは抱いていた疑念をヤガに問う。
「理由は?」
「……」
「プライドの高そうなあなたがそうまでして私に願いを乞う理由だよ。どっちにしろカラメリアは止めるつもりだけど……。あなたは重大な何かを隠しているでしょう?」
「それは……」
「この舟の行き先、この地図を見た限りでは大陸とは全然違う方向に向かってるみたいだけど」
ここに辿り着く道中で見つけた地図をヒラヒラさせながらココはヤガに問う。息を飲むヤガは目を閉じて仲間達との航海の日々を思い出していた。脳裏に浮かぶ仲間達との冒険、過酷な探索の末に発見した財宝、祝杯の宴、スプレム皇国との死闘、そしてカラメリアの暴走……。ふぅと大きく息を吐き出すと、何かを決意したようにココへと向き直る。
「舟の行き先はワールドエンドという場所だ。俺は提督もろとも全てをそこに封印するつもりだった」
「封印?」
「あの桁の外れた強さは心酔するに値する。だが、呪いのせいで暴れまわる提督は……。放置しちまう事も可能だろうが、提督は俺達の仲間だ、そこに偽りはない。それに……」
「それに?」
「俺は善良とは言えねェ海賊だがこの世界が好きなんだ、"維新の者"は世界にとっての最大の脅威。これは常識の中の常識だろ、例外はない。いつか誰かがしなきゃならない時が来る。だったらせめても俺の手で、この手で封印してやるのが仲間としてできる提督への最大の敬意だ!」
「なるほどねー。でも……カラメリアは封印させない」
「分からないのか、いつか世界を滅ぼしかねないんだぞ!」
「そんな事知らないよ」
「……ッ!」
「封印というくらいだから、その場所に着いてもすぐには封印出来ないはずだよね」
「……舟自体に術式を仕込んである。到着まではおおよそ15分、術式の発動はものの数分だろう」
「エヴァ、あの人たちを連れて舟から離脱して」
怪訝そうな面持ちでエヴァはココへと向き直ると、身を案じて問いかける。
「……しかしココ様は?」
「心配しなくても大丈夫、私が何とかしてみせる。約束だよ」
正直に言うとココもろとも封印される可能性がある以上、エヴァとしては忠誠を誓う主君が危険な地へ向かうことを善しとはしたくはない。しかし、不本意ではあるが、フロアマスターですらないエヴァはココを信じるという意味でもそれ以上は口を慎む。
「……分かりました」
「おい、勝手に決めるな、俺は舟に残る!」
暴れるヤガを迅速に拘束するエヴァ。ぐったりとしたロメスと悪足掻きするヤガを光る細い糸でぐるぐる巻きにして脇に抱える。
「エヴァ、行って!」
「……ココ様、どうか無理はなさらないで下さい」
ココが相槌を打ったのを確認して、エヴァは戦線離脱のスキルを発動する。
「……【緊急離脱】」
空間に消え入るように姿を消した3人。ココは改めて低く唸り声を漏らすカラメリアを見据える。
身体に巡る紋様は先ほどよりも広がり、目は赤く猛獣のように爛々としていた。苦しみに顔を歪めながらも、内側から迸る呪いの力に抗えないカラメリアを見ていると胸が痛むココであった。
「ゥゥゥヴヴ、タスゥ、ケ、、テ、ゥゥウ!」
カラメリアの呻き声が「助けて」という言葉に聞こえたココは一瞬だけ驚いた。抵抗する意識なのか、たまたまそう聞こえたのかは分からないが、ココ自身カラメリアの存在を確かめたくて追いかけて来たのだ。自身のサブキャラクター、謂わば分身である。ココの中にいる明日未来の意志がカラメリアを何とかしなければと叫んでいた。
「今助ける!!」
「ゥゥゥアアアアアアアア!!!!!」
雄叫びと共にカラメリアはどす黒いオーラ解放するように身に纏うと、腰に提げていたホルスターから黒いハンドガンを抜いてココを目掛けて突っ込んでくる。
「速いッ!」
間合いを取ろうと円を描くように後退しながらステップを踏むココ。しかし、着地する先を狙ってカラメリアのハンドガンが連続して火を吹く。
(あのハンドガン、"FifteeN"の射程を抜けないと積み技能も発動出来ないよ!)
ギリギリの所で弾を躱しながら跳び跳ねて後退するココ。適度な間合いを求めてカラメリアが跳躍して前進する。
(だったら逆に私も前に!)
前へと踏み出した瞬間、それを狙っていたかのようにカラメリアの向けた銃口がココの眉間へと吸い込まれる。一瞬の判断で身体を大きく後ろに翻したココは、間一髪の所でカラメリアの放った弾丸を避けることができた。
しかし、すぐにカラメリアはココの左足を払う。攻撃を避けたことと崩された体勢でがら空きになったココのボディに強烈な一撃が迫る。
「【激流拳】!」
渦巻く水流を帯びたカラメリアの拳がココの腹部を強打し、勢いのままに後ろへと吹っ飛んでいく。
「うぅ……、今のは効いたよ、でも……【移動速度最速化】、【囮回避】、【双剣抜刀速度強化】!」
吹っ飛んだことで大きく開いた間合いを利用し空中で強化技能を積むココ。腰に提げたアゾットとアマノヒツキを抜きさり、壁に突き立てるようにして受け身を取る。
(確かにカラメリアのスピードは元々速いけど、私がプレイヤーとして使っていたときよりも段違いに速い。呪いのせい? FifteeNの攻撃を避けてるだけじゃ全然埒が明かない……ッ!)
考える間もなくカラメリアはココへと追撃を謀る。ココは撃ち込まれた三発の弾丸を双剣で斬り捌く。上に視線を移すと跳び上がっていたカラメリアが目前へと迫り、右腕を大きく振り上げて次の一手を繰り出す瞬間であった。
「【天使撃堕】!」
海神の槍を模した激流の塊がココへと猛烈な勢いで放たれる。ココは短剣では防ぎきれないと即座に判断し、腰に下げていた極小のフラスコを中空へと放り錬金術を発動する。
「【真錬金・円環蛇の盾】!」
錬成された黄金の大蛇は尾に噛みついた円形を為し、煌金の盾となって激流からココを守る。だが、錬金術を強化する賢者の石が埋め込まれたアゾットの力で盾の力を増幅させたにも関わらず、槍の勢いを全ては圧し殺せずに弾丸のような飛沫がココを襲う。
(ありえない!)
ココの記憶が正しければ、銃に依存しないカラメリアの近接系物理攻撃と魔技は威力に乏しく補助程度の役割しか持たない。その為、ココが扱える最強の防御技である【円環の蛇盾】の前には無に帰すハズであった。
(そういえば、さっきカラメリアのステータスを覗いた時レベルの横にプラスの記号が付いてたけど、まさかレベルの上限を突破してるってことはないよね? でも、スピードもスキルの火力も私の知ってるカラメリアのモノじゃない……)
思考しながら、目にも止まらない速さで駆け抜けて弾丸の雨を避ける。それでも被弾してしまった弾は囮が変わり身となり最小限のダメージでココは間合いを維持する。技能を積んだココのスピードはカラメリアを越えてはいるが、中々踏み込んで攻撃に転じることが出来ない。
攻撃範囲がほぼオールレンジの海賊と超近距離戦を得意とする盗賊という絶対的な職業格差がココへと重くのし掛かっている証拠である。
「異世界に来てからラヴィといいカラメリアといい、不殺縛り前提なのかなこの世界は」
愚痴をこぼしつつも思考を止めると確実に殺られる相手。殺意を剥き出しにした久々の強者との手合わせに、ココは複雑な感情の中に少しばかりの高揚感を得ていた。
「【真錬金・金貨の爆薬】!」
カラメリアの足元を目掛けて金貨を模した爆薬を無数に散らす。地面に着弾した爆薬は連鎖するように炸裂していき、カラメリアが爆煙で包まれてしまう。
目眩ましの爆煙を切り裂くようにココは技能を発動する。
「【アサシネーション】!!」
閃光のような速度で踏み込んで爆煙ごとカラメリアを3回斬り裂き、最後の4撃目は衝撃波を伴う凄まじい突きを放つ。
単体の敵に対して絶大な威力を発揮する大技【アサシネーション】は、防御力無視という付加効果を持っているため対ボス戦に多用される。全ての積み技能を使用している訳では無いため最高火力には届かないが、それでもその威力はとてつもなく、カラメリアは鋼鉄の壁が凹むほどの勢いで吹っ飛び激突する。
爆煙が晴れていく。パラパラと割れた壁を落としながらフラりとカラメリアが起き上がる。
「とうとう本気にさせちゃったか……」
カラメリアの肌が赤みを帯び、口元からは白い蒸気を吐き出している。元から半長の耳が更に長くなり、帽子と額の間からは二本の角が伸びていく。
姿を変化させたカラメリアを見て、ココは額からは一筋の汗が滲んでいた。
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