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トリックスター ~最弱職業の中で最強と呼ばれた盗賊~  作者: 大栗えゐと
盗賊王と海賊王
18/26

忍耐

2019/7/27 Twitter復活しました、こちらも更新の告知用ですのでフォローよろしくお願いします!

 「ほらぁ、早くしないと置いてくよぉ」


 「コ……ココ様、お待ちを」


 ヌーフの方舟の4階層、駆動エリア。拳よりも小さなものから見上げるほど大きいものまである木製の歯車、複雑に捻れて絡み合い蒸気を吹き出す鉄製のパイプ、人が乗れそうな足場がついた回るバルブ、止まる事なく動き続けるロープ式のコンベア、流れる動きで開閉を繰り返すピストンなど、方舟の駆動に関わる物が詰め込まれた謂わばエンジンの内部であるが、殆どの機関は木製でメカメカしくも何処か退廃的な印象を受ける。


 ココ達はそんな駆動エリアの様々な絡繰りを足場にして奥へ奥へと進み、現在はエリア全体のちょうど中間辺りで足を止めていた。


 「……ウィズ様、タイミングが重要です」


 「エヴァ、助言は嬉しいのですが先ほどからそれしか言ってませんよ! 私、本当に苦手なんですよ、もっとこう具体的で的確なアドバイスを頂けませんか?」


 ビッグバンでは忍耐ステージと呼ばれる特定のエリアが存在する。【恒常技能(パッシブスキル)】ーーー恒久的に発動するスキル。任意でスキルを発動しないことは可能ーーーを除いた装備や強化スキル、アイテムなどによる身体能力の向上に関する一切の補正が効かず、純粋な身体能力のみでアスレチックと呼ばれる様々な仕掛けを突破しなければならないためプレイヤースキルが要求される。大抵の場合は足場を踏み外し落下すると極僅かなダメージと共に初期位置と呼ばれるスタート地点に強制転移し最初からやり直すはめになることと、ボスに辿り着く前室に設置されていることが多いため忍耐ステージを好む者は多くない。


 駆動エリアはそのような忍耐ステージの一つであり、難易度的にも難しい部類ではない。身体能力を向上する恒常技能(パッシブスキル)の多いココやエヴァにとっては朝飯前なのだが、メイン職業(クラス)が次元魔法司であり、生粋の魔技使役者(マギフォーサー)のウィズは元々身体能力向上系のパッシブスキルに乏しいため、難度の低い忍耐ステージでも四苦八苦する羽目になっている。


 現在ウィズは推進機と呼ばれる一定の感覚で放射する光に触れるとエリア外、この場合はヌーフの方舟の外に飛ばされる極悪仕様の仕掛けを前に足踏みをしていたのだ。


 「もしこの光に触れたらやり直しが利かないのですよ!」


 「ウィズって意外とビビりなのね」


 「!」


 聡明で忠義に厚い普段のウィズとのギャップに、少しだけ可愛いなと感じて何の気なしに放ったココの言葉が弱腰になっていたウィズの尻に火をつける。


 ウィズの目付きがキリッと変わり行く手を阻む推進機を瞳に据える。


 「フローレンス・サザビーにおいて、尊大なる方々にフロアマスターの統括指揮を任されたフロアマネージャーたる私が、クランマスターであるココ様の手前でお見苦しい姿をお見せするわけにはいきません」


 「やる気満々って感じね。エヴァの言うとおりタイミングだよウィズ。光の放射する感覚は一定だからタイミングを見計らってこっちに跳ぶだけでいいの」


 「ありがとうございます。ココ様の助言を胸に今、私は行きます! おおおおお!」


 気合いの雄叫びをあげて勢いよくウィズが跳ぶ。今いる足場から推進機を挟んで数メートル先のココ達が居る足場に向かって。


 「ココさ……!」


 「……」


 「あっ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 パーティーメンバー[ウィズ・ロイ・ハーネット]は推進機に飲み込まれました。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ココとエヴァの視界の隅に切ないログが入る。


 (こういう所はビッグバンの頃と変わらない。視界にパーティーメンバーのログが出たりするの)


 「って、そんなこと考えてる場合じゃないか」


 「……ウィズ様、タイミングが重要です」


 「……エヴァ、もうタイミングが遅いわ」


 ココは呆れたツッコミを入れつつ、【念話(コール)】を使ってウィズに連絡を取ることが出きるか試みる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 対象は念話の届かない場所にいるか、オフライン状態です。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ダメか」


 「ココ様如何いたしますか?」


 「ウィズならこの程度、大丈夫。トルトゥガに来たときから保険に見張りもつけて来ているし、このまま進むよ」


 「……かしこまりました」


 ココはエヴァと共に先を急ぐ。もちろんウィズの事を心配していない訳ではないが、未だ会うことが出来ていない自身のサブキャラクターであるカラメリアに思いを馳せる。この何とも言えない逸る気持ちをココは抑えることができないでいた。


 二人は黙々と進む。しかし、幾つかの罠を避けて不安定な足場を抜けたときである。舟全体が大きく揺れた。地震とは違う、物体を叩きつけたような振動の揺れが不規則なリズムで起こっている。


 「……舟が目的地に到着したのでしょうか?」


 「もしそうなら私達は舟のデッキに強制転移させられているはず。振動は下から……。この下の機関エリアで何かが起こっているのかも。急ぎましょう、ゴールは見えてるよ」


 「……はい」







 ヤガはロメスを抱え起こし呼び掛ける。


 「ロメス、おい、ロメス起きろ!」


 ヤガの呼び掛けにロメスはかすれ声で反応した。クラーケンからすれば痛みを嫌がった何気ない攻撃ではあったがロメスにとっては痛恨の一撃であったようで、被箱者(インパンド)の能力によるスケルトン化が無理矢理に解除されていた。


 「……ヤガ……さん」


 「どうやらHPは殆ど残って無いようだな。いま手当てを……」


 瀕死のロメスは力を振り絞ったように右手でヤガの後方を指差す。


 「あの化物烏賊なら俺が倒した。後で塩辛にでもしてやるさ」


 「ちが……!」


 「大丈夫だ、この程度の出血なら持ち合いのポーションでどうにかなるだろう」


 「……うしろ!」


 「まさか!」


 ここでヤガはロメスの異変に気付く。異様な気配を感じて振り返ると、ヤガの攻撃により血の海とかした一帯からクラーケンが起き上がっていた。


 「俺の……最大の一撃を与えても殺れねェってのか!」


 ヤガはクラーケンのゴムのような肉質から打撃はさほど通らないと推測して、ククリ刀で斬り抉るような一撃を放った。追撃の爆発にしても、クラーケンを後退させたほどの威力である。しかし、クラーケンの額、ちょうど攻撃を命中させた場所はロメスが与えた一撃の時と同様に煙を上げながら治癒を始めていた。


 触手を広げてこれから起こる衝撃に備えるかのように地面にどっしりと構えたクラーケンは、嘴のついたおぞましい口元に青黒い光が集めてゆく。


 「光線系の攻撃か……! ロメス、捕まれ!」


 肩に手を回してロメスを無理矢理立たせると、左肩に担ぐようにしてヤガはその場を移動する。


  クラーケンの口元に集まった光が集約する。次の瞬間、直線的で広範囲の苛烈な黒いビームが発射される。


 薙ぎ払うようにゆっくりとビームが迫る。一度でも当たってしまえば一溜まりも無い。鈍重ながらも刻々と追ってくる膨大なエネルギーの塊。身を隠そうにも盾になりそうな物はない。


 「FPはもう残ってねェ、ここまでかっ!」


 「パズ・クラーケン。レベルは25、自己再生能力に自在な攻撃。大技の【インク・ビーム】。打撃耐性Ⅷ、闇属性耐性Ⅳ、斬撃耐性脆弱Ⅸ」


 突如、ヤガとロメスの元に透明感があり品を感じさせる女性の声が聞き慣れた通ってくる。


 「銃撃耐性はⅩ!」


 響く単発の銃声。クラーケンを目掛けて放たれた弾丸はビームを両断しながら進み、スリットの入った瞳を貫いて一撃で標的を沈黙させる。


 女性であった。とても端正な顔をパーマのかかったブラウンのミドルヘアーが包み、頂点が小さく割れた赤い三角帽、胸元をはだけさせたブラウスの上から赤い貴族風の末が広がった内巻きのコートを纏う。短いドレス風のフリルスカートからスラリと伸びた脚は、膝丈のロングブーツがよく映える。


 右手に構えたハンドガンからは煙が一筋伸びて、今の銃声が彼女から放たれたモノだと語っている。クラーケンは崩れるようにぐにゃりと倒れ、青黒い体液が濁々と流れ出る。


 「提督?!」


 「ヤガはかすり傷。……流石は鬼人(オグニ)、頑丈ですね。ロメスは……瀕死のようだけれど二人とも無事で何より……ですわ」


 「ああ、助かりましたよ。でも呪いで……動けないハズじゃ?」


 「えぇ、呪いなんかに……ワ、ワタクシは屈しは……シマセン」


 「やはり苦しそうだ。提督、休んでいて下さい」


 (俺の目的は提督の封印。提督にゃ悪いがもうしばし寝ててもらわねーと……!)


 「でも、なぜ……ヌーフの方舟に?」


 「ああ、それなんだが」


 ヤガは三番隊が発見した塔の島のこと、戦兎(ワーラビット)による海賊船強襲のこと、スプレム皇国によるトルトゥガ襲撃のこと、計り知れない強さを感じた盗賊のこと、そのことで現在ヌーフの方舟で戦闘を離脱したこと、しかし、スプレムの追手が舟に乗り込んでおり戦闘になってしまったことをカラメリアに伝える。もちろん、ヌーフの方舟を起動させた目的、最悪の事態を想定したヤガによるカラメリアの封印については伏せる。封印に反対したロメスが手負いで気絶しているのも、ヤガにとっては好都合だった。


 「戦兎(ワーラビット)に紅白の神父、純妖精(ピクシー)、盗賊の女、塔の島……。まさか……、いえ、ありえません。ウゥゥゥ………」


 何かを考えこむように言葉を紡いでいたカラメリアは、突然苦しそうに頭を抱え込む。


 「提督、やはり呪いが」


 「ゥゥゥゥウウウア!」


 「呪いの腕輪から紋様が伸びてる! 提督、今すぐ治療室に!」


 「ヤガ、ロメスを連レテお逃げナサい、ハヤク!」


 カラメリアは呪いに効くという聖水の服用が欠かせない。その上で安静にしていなければ、呪いの侵食は止められないのだ。多少動く程度なら問題は無いにせよ、先ほどクラーケンを倒すのに[MP]を使用してしまったことで呪いの侵食が進んでしまった。


 (提督が来なきゃ俺達は間違いなくあの化物に殺られていただろう。しかし、今度は提督が……。航行時間から推測するにペルトリコンの海域はもう近い。ワールドエンドに着くのが先か、俺達が提督に倒されるのが先か)


 「ヤガ!」


 「くッ! 手負いのロメスを連れていなくても提督、たった2年で海賊王まで登り詰めたあんたから逃げるのは無理だろう」


 「方舟カラ離脱シナサイ!」


 刻一刻とカラメリアの紋様は身体全身に広がっていく。


 (このクソみたいな最悪の状況。ロメスを逃がし、俺の目的を遂行させる可能性があるとすれば、アイツらに賭けるしか……)


 「カラメリア!」


 ヤガの耐え忍ぶような嘆願が届いたのか、ただの偶然なのか。ヤガが賭けた可能性、最強の盗賊と自らを称す女。ココがカラメリアの前に姿を現したのだった。

ご覧いただきありがとうございます。

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