06.みさきと加藤
「「あっ」」
声が重なった。
目をチロっと見た後すぐに加藤は視線を逸らした。
顔を見ないまま、みさきの首元や制服や革靴、肩にかけてあるスクールバックに目を向ける。
それを見てみさきは、容姿とか変だったかな。と一瞬思ったがすぐにどこかえ消えていった。
「ええっとね、話があるんだけど。」
「ああ、そうなんだ」
そして三秒ほどの沈黙が続く。
そうなんだってなに?私は何を続けて話せばいいの?
「あげてもらってもいい?」
「え、ああ、いいよ」
おじゃまします。と小さく呟き革靴を抜いで、玄関のマットへ足を踏み出す。
「こっち」
そういう加藤に続いていくみさき。加藤の家はなんだか新居のような新しい匂いがした。
「なんで家わかったの?」
「みずきに聞いた」
「ああ~」
その返事にはなにか嫌悪感というか、まじか~みたいなオーラが混ざっていた。
ヤッタことが嫌なのだろうか。でもみずきにはもう言ってある。
階段を上り、加藤の部屋が開かれる。
中は少し散らかっていた。娯楽物が豊富だ。ゲームはもちろん、漫画、少年ジャンプ。
ああ、やっぱこういうの好きなんだ。私もやってみようかなとこっそり思ってみる。
「ああー」といいながら、部屋の辺りを見ている。そして思いつくように「あっ」と言って、
机の椅子を引く。
「あざーす」
軽いノリで椅子に座り、加藤は床の絨毯部分に胡坐をかく。
「んんっ、それで話って?」
咳ばらいを一度してから、そう話し出す加藤。
「何の話だと思う?」
自分は性格が悪いかもしれない。とそう発してから気づいてしまう。
しばらく天井を見上げるように考え込むと、
「いや、わからない」
そう言うと思っていたから、即答で
「妊娠した」
と加藤の部屋の窓を見ながら静かに言った。
「・・・・・・・」
加藤はみさきの顔をじっとみながら押し黙る。
「ど、どうするんだ?」
「まあ、小さなうちにちょっとね、摘み取ろうかなって」
「そうだよね。ごめん。オレ、何も考えて・・・」
と言い切る前に
「加藤はそれでいいの?」
それは真意をつこうとした質問だった。
「・・・・僕は構わないよ、みさきがしたいようにしてくれれば」
沈黙が二人の距離と空間を包んだ。
「ああ、ごめんね変に誘っちゃって。私が変な気を起こしたから」
「いや、でも・・・・・俺もごめん」
「加藤が謝ることないよ。しっかりしてなかった自分が悪いんだからさ」
「お、親には言ったの?」
その「親」というキーワードにびくりと体が反応してしまう。
「いや、まだ言ってない・・・」
「でもいつか言うんだよね」
「まあ、恐ろしくて考えたくないんだけどね」
「そっか。僕も行った方がいいかな、みさきの家に」
「え、ううん!いいよ。その時は自分で言うからさ」
「そっか」
二人は話すこともなく沈黙が続く。
「じゃあ、私帰るね。長居するわけにはいかないしさ」
「え、別に遠慮しなくても」
「遠慮なんかじゃないよ。ごめんね変に妊娠なんかしちゃって。じゃあまた学校でね」
そう行って、そのあとは加藤と一言も話さず急いで部屋を逃げるように出て、家を後にした。