05.「加藤大輝」という男
小さい頃につけた宇宙のポスターがはがれかかっている。
今日は部活はなかった。部活をやっていると休みが欲しくなる。けど実際休みを与えられても、なにをすることもない。
あの日から加藤大輝は、少しおしゃれに気を付けている。
ちょっといつもと違うおしゃれな匂いがする部活用の消臭スプレー、学校に行く前にはワックスを軽く髪につけ、制服もしっかりと整えるようになった。
それは、みさきを意識してのことだ。
大輝には兄しかいない。身近に女性といったら母親をはじめ、母の妹の親戚のおばさんくらいだ。
だから女性とかかわる事態、苦手分野であり未知との遭遇みたいなものだ。
小学生の頃は女子に話しかけるのは得意ではないが普通にできるというものだった。
しかし、中学にあがると、なぜか女子が遠く、高く、尊い存在になった。自分でもなぜそうなったのかは
分からない。思春期なのかも分からない。女子が正直怖い。
何を考えてるのかわからないし、正直な意見としては、悪口ばかり言ってる。そんなところだ。
けど、高校に入ってみさきから話しかけられた時は挙動不審になってしまった。
加藤はいつも男子としか話していない。
だから女子と話すのなんて数学でいい点をとるより難しい。
「ねえ、加藤・・・、私あんたのこと異性として好きだ」
そう言われた時は体と心がまるっきり変えられてしまったようなきもちだった。
人間が変わった。心の奥底でそう呟いた。
ベットに腰を下ろし、靴下でも脱ごうとしたその時、
耳に家のベルが鳴る。
どたどたとしたで兄が動き出す音がした。
下でなにか兄の驚くような声が一瞬聞こえ、そして消えていった。
すると、勢いよくどたどたと足音を立てて駆けあがってくる音が聞こえてきた。
その足音とあにの興奮したような鼻息と「はあはあ」という荒い息遣い
ドアの前で一度足音が止まる。大輝も自然と目線がドアへと移る。
ゆっくりとドアがぎぃぃぃと音を立てながら開き顔を半分だけのぞかせてくる。
「なに?」
「同級生きてんぞ。しかも女子」
俺たちは兄弟だから性質が似ているところがある。兄も女子は珍しいのだろう。
「え、おけ、分かった」
そう言うと兄はドアを開けたままで自身の部屋に戻っていった。
大輝は急ぎ足で洗面所にある鏡に自身を映し、身だしなみを気にする。
足が強く冷たいと訴えてきた。あっ、靴下履かないとかっこ悪いかも。
そう思って急いで洗面所のそばにある洗濯機の中をのぞき、おそらく兄が履いた靴下をはいた。
急げ!急げ!
変に準備されていると思われるのもいやだ。
少し靴下が湿っていたがそれでも廊下を走り、玄関が見える廊下の角が視覚に見えた時から
やけに顔が熱くなり、ぐっと胸が苦しくなる。