04.加藤の家
「彼氏の家はこうありたい」
みさきはそう呟く。
「あんまりしゃべらないのもおぼっちゃまだからじゃないの?」
とみずきは続いてそういう。
そこは明らかに一般市民が住むような家ではなかった。庭があり、敷地はだだっ広く、
和風の家と洋風の家があり、物置倉庫も大、小とふたつもあり、だれが見ても金がたくさんあるに違いない。
みずきがいうには加藤の家は、県有数の大農家で田んぼも広く、土地を売り払いコンビニを筆頭に土地を貸しているらしい。
それはこうなるわな。と思うしかない。
「あといいよ」
「えっ?どういうこと?」
後は私一人で加藤に会いに行くからいいよ。
そう続けた。
「はいはい、わかりました。私はただの案内係ですよ。」
「ごめんね、みずき」
「いいよ、その代わり明日購買でなんかおごれ~」
そういって自転車にまたがり、走り出した。
みさきは風除室をあけ、なかにあるチャイムを押す。
「はい」
すると三十秒と立たないうちにインターホンに声がする。男の声だ。
しかし加藤の声ではない。父親?それとも兄弟の誰か?
「あのー加藤・・・いや、大輝くんいますか?」
「え、女?」
「まあ、はい」
「まじかよ。大輝、今行かせるから玄関入って待ってて」
はい、と言い切る前にがちゃと切れる音が聞こえる。
玄関に入ると広い土間があったが、靴はあまり整頓されている気配はない。
想像していた家政婦がいたり、下手したら執事がいる可能性もと頭のどこかで一瞬思っていたが、そんなことは微塵もなさそうだ。
みずきからの情報、というよりみずき自身が陸上部だからなのだが、今日、陸上部は休みだと前もって聞いていたのだ。
ドタドタと階段を降りてくる音が聞こえてくる。
それを耳が敏感に反応し、手が勝手に動き出し髪を整え、視線が自然と容姿を気にし、制服についてもないほこりを払ってみる。
徐々に足音が近づいてくる。真夏の夜にやっている幽霊番組を見るみたいに心臓がどくどくしてる。
顔を隠したい。メールにしとけばよかった。もう少し化粧をしておけばよかった。もっと髪をとかした方がよかった。香水、シミ消し・・・もうそんな考えが浮かんでばかりだ。
玄関から見える角直前まで足音が聞こえる。