19.三橋家にお邪魔
ピンポーン。
みさきは学校帰りにバスに乗り継いで、赤ちゃんの引き取り先である。三橋家に行っていた。
「やあ、みさき。どうしたの?」
そこから嬉しそうに出てきたのは夫の大樹さんだ。
「あー、ふたりにどうしても見せたいものがあるの。佳奈さんは?」
「いやー、仕事で今日は遅くなるらしいんだ。なるべく来年になるうちに終わらせておきたいんだってさ」
「あらー、それは残念。じゃあさこれ渡しといてCTの写真なんだけどー」
「それより、よってかない?うち特製のスムージーを飲ませてあげるからさ。」
それがうちのような庶民の家だったらおいしくなさそうと思ってしまうが、こういう綺麗な一軒家のはなんだかおいしい気がした。
「ええーいいの?」とわざとらしくみさきはずかずかと家に入ってくる。
「うまい!」
みさきは一口スムージーを飲んで雄叫びのようにそう叫んだ。
「でしょ。僕、昔から『究極のスムージー』を作りたくてさ」
「なんじゃその変な趣味」
「で、まあ三年ぐらい前からこの趣味なんだけど、一年前くらいかな。このスムージーに行きついて
ずっとこれしかつくらなくなった。レシピはちょっと教えられないけどね」
「ちょっとーなんか変なもん入ってるんじゃないでしょうね」
いつの間にか大樹さんに心が開きため口になっていた。
「あれ?そういえば大樹さんは仕事に行かなくていいの?」
「家でするんだ。小説家だからね」
「え?マジ?どんな本買いてるの?」
「まあ、ラノベの時もあれば、一般的な小説の時もあるよ。」
「ええーそれだけでこの家を建てたんだ。」
「そんなわけないじゃないか。ほかにもブログからの収入、youtubeからの広告収入くらいかな」
「うわっ。まじ!?youtuberってこと?」
「そんな大それたことじゃないよ。音楽を作って投稿してるだけ」
「えー作ってる部屋見せてよ!」
興奮しまくったみさきは止まらない。
二人は大樹の仕事部屋に入っていった。
そこは本や資料集、小説、ファイルが並んである棚のそばにノートパソコンとデスクトップパソコンがある。そして奥には電子キーボードのピアノ、それとエレキギターがある。
「もしかしてギターもピアノも弾けるの?」
「ギターはある程度弾けるけど、ピアノは今レッスン中」
それで作った音楽を投稿してるってことか。案外クリエイターってシンプルな部屋に住んでいるんだなとみさきは思う。
「見たまえ!これが未来のあなたの子どもなり!」
「こりゃすごい。男の子?女の子?」
「私も訊いてない。自分にも佳奈さんにも大樹さんにもサプライズにしたくてさ」
「へえーそれはありがたいって言えばいいのかわからないな」
「え、教えられた方がよかった?」
とCTの写真にくぎ付けの大樹さんの顔をしたから伺うように見やる。
「いいや。やっぱり知りたくないかな」
「それよりその子、友達の大輝にそっくりなんだよねー」
「ん?大輝?」
と自分の名前と一緒だったのか反応する大樹さん。
「え、いやー、友達っていうかその子のお父さんなんだけどね。」
「へえーおんなじ名前なんだ。なんかちょうどいいね」
下のリビングでそんな会話を繰り広げているとみさきはリビングのそばの棚に目線がいく。
そこには無類の映画がところせましにつまってある。
「映画好きなの?」
「ああ。好きどころじゃない。昔からの生きがいみたいなもんさ」
「これって!」
そのたなにあったのはみさきの大好きなコメディー映画だ。
「よくそんなの知ってるねー。結構昔だし、しかも結構グロいよ?」
「あはははははは」
二人の笑い声がリビングに響く。
「こ、こ、こ、このシーン、あはははは」
とみさきが笑うと、不思議と大樹も笑いだす。
「このシーンはやっぱり最高に面白いよな?あはははは」
と大樹さんも同じ意見を言い放つ。
ふたりが楽しんでいると、後方側にある玄関の扉が開く音がした。
それに反応してみさきは重たいお腹をもちあげ、歩いていく。
「はあっ!!」
とリビングの扉の前で仁王立ちしているみさきにびっくりする佳奈。
「どうしたの、みさき・・・ってもしかして、赤ちゃんになにか異変が!?」
と両手にもっていたビニール袋が床におちる。
「そんなんじゃないよ。これがあなたの未来の子供なり!」
と背中に隠していたCT写真を「ででん」と見せつける。
「はあ・・・・」
と感動するようにCT写真の前にゆっくりと近づいてくる。
「そんなに感動しないで。わたしが産み落とすまでまってて」
「え?ちょっと待って。もしかしてみさき一人で来たの?」
「うん」
佳奈は「やばい」みたいな顔する。
「ご両親心配なさってるんじゃない?しかもこんなに遠くに。」
「遠くってバスで二回も乗り継げば大丈夫。ちゃんと帰りのバスも確かめてるからさ」
「あら・・・そう。」
と奥から聞こえてくる映画の音に反応する佳奈。
「ちょっとあなたー!またそんなのみて堕落してー」
と注意をかますと、映画の音がストップする。
「さっきまでふたりで映画見てたんだ。あの映画はやっぱりわらえるねー」
とみさきは再び笑いそうになる。そして椅子に掛けていた上着とバックをとって帰る支度をするみさき。
「送っていこうか?」
と奥から大樹さんの声が聞こえてくる。
「ううん、大丈夫。帰れるから」
玄関で靴を履き、二人とあいさつを交わしてみさきは出ていく。




