18.超音波検査
みさきの腹にソニックジェルが塗られていく。
「見てください。あれが赤ちゃんよ」
と医師がモニターに指をさして、どれが赤ちゃんかを指さしている。
「はあ!赤ちゃんが見える!みさき!」
と、母親が隣で大きく興奮を体全体で表す。
「うわー、頭デケー。赤ちゃんってこんなに頭でかいんだ」
となぜか隣でみずきが眉間を細めてそう言っている。
「失礼な―。私のこのお腹には今、聖母マリアから授かった、神聖な命を預かってんの。あんたのお腹の中にはなにがあるの?どうせ昼食と間食したおかしもかけらでしょー」
「聖母マリアって。それは加藤から授かったんでしょ?」
「それを言うなっ」
とみさきが反発して、みずきはふふふふと悪魔のような笑みを浮かべる。
すると、となりからぐすぐすと泣いている音がみさきの耳に入ってくる。
「うわ、泣くことある~?」
「なによ、私は冷めた女じゃないの」
と母がティッシュで目頭をぽんぽんと拭いている。
「それで、性別は知りたい?」
と女医師が三人に聞いてくる。
「しりたいしりたいしりたい!」
とみずきが誰よりも早く挙手して訴えかける。
「だめだめだめだめ!」
みさきが必死に否定する。
「えーどうして~」とみずきは首をかしげ目をつぶる。
「あら、サプライズにしたいの?」
と女医師が聞いてくる。
「自分をじゃなくて、佳奈さんと大樹さんを驚かせたくないの。だから知りたくないんです」
「佳奈さんと大樹さんって学校の先輩とか?」
医師がお腹のジェルをふき取りながら聞いてくる。
「いいえ、赤ちゃんをもらってくれる夫婦」
「ああ、それを聞いて安心したわ。」
と女医師が嬉しそうにセリフをはく。しかし、その言葉は見逃せない言葉だった。
それにいち早く反応したのは母親だった。
「それはどういう意味?」
と母は女医師に訊き返す。
「ここに来る十代の母親を大勢見てきましたけど、赤ちゃんを育てるには劣悪な環境ですから」
「ええ、まってまって。お医者さん、もしかして赤ちゃんは佳奈さんと大樹さんに虐待される可能性は考えないの?」
「そうそう、よくニュースとかでやってる虐待両親みたいにさー」
とみずきも続けてセリフをはく。
「育児放棄するかもしれない。うちの馬鹿な義理の娘よりも、もっと子育てに向いてないかもしれない。そうは思わないの?」
と母が最期にラストスパートをかけていく。しかし、
「思いませんね。」
と断言するように言いだし、みさきの腹のジェルを拭き終えると、服を腹回りにかける。
「そう、で?あなたの肩書はなに?」
「私は、超音波テクニシャンです」
「へえー、私は介護テクニシャン、専門じゃないことに口を出すのはやめましょう。」
みさきは内心、何の張り合いだよと思いつつ、二人の火花がちりまくってる会話に耳を傾ける。
「どういうこと?」
と医師もさすがに母がキレかかっている空気を感づいた。
「あのね、胎児の画像を画面に出せるからってえらいわけ?あたしの五歳の娘だってできるわよ。そんなに利口な子じゃないけどねー。もう一度夜間学校に戻って、ちゃんとした仕事を学んだら?」
しかし、その言葉になにも返答できずに女医師は静かに退室していく。
「はあー。」
と母親が勝利の溜息を吐く。
「すっごい喧嘩売ったね。」
みさきはウキウキに母に訊き返す。
「ふっ」
と母は手でグッチョブポーズをつくってこわばったスマイルを浮かべる。
「かっくいい!」
と軽く母をたたくみさき。
「あっははははは」
三人は病室で盛大に笑いだす。あの嫌味女医師に聞こえる程度まで。