16.加藤と当分話してない
冬。
少し雪が積もってしまっているグラウンドを加藤が走っている。
それを教室の外からみさきとみずきが見ている。
グラウンドに次々と陸上部が現れ始める。
グラウンドに陸上部が次々に集まりだしているのに、陸上部であるみずきは今だに横にいる。
それよりさー、とみずきは話し始める。
「お腹・・・おっきくなったね。」
そこにはすでに制服姿ではなくなっているみさきの姿が。
「んー。まあね~」
と気のない返事を返すみさきにみずきはみさきの顔を伺う。みさきの視線はわかりすぎるほど
グラウンドにいる加藤に視線が行っている。
「加藤とあの日以来話してないんだよねー」
「あの日って?」
「んー。一緒に付き添って加藤の家に行った日~~」
「ええ!?それマジ?一言も?」
「目は合うんだけどねー。なんか、気まずいっていうかさー。」
「なんじゃそりゃ。ひどくね加藤。だってそのお腹の子、アイツの子ってことでしょ?」
「・・・・・・・・」
とみさきは深い感情と思考の海に沈んでいく。
「おーい、みさきー」というみずきの声が聞こえたが、耳から入って耳から抜けていく。
「なんか、わかんないんだよねーもう」
「なにが?赤ちゃんが?そりゃーそうだよ。みさきが一番最初に出産経験者なんだからさー。
私とかほかの女子が出産するときはみさきにアドバイス聞くからちゃんと勉強してよー」
「違うくてさー加藤が」
「加藤?」
「私、加藤好きだったんだけどな~」
「だから、やっちゃったんでしょ?」
そのド直球な言葉はみずきらしいと思う。
「それはまあ・・・・」
とだんだんと暗くなっていくみさきの顔を見て空気を察知したのか、
「じゃあ、私もそろそろ部活いこう~」
といってみずきは教室を後にした。
別に学校全体のうわさになっているのも知ってるし。
先生たちの対応も前とかなり変わってしまった。
まあ、あのあとやっぱり産むことになって、学校側もオオメに見てくれた。
最初は自主退学を推薦されたけど、私は辞める気なんてさらさらない。
一応あの後から一度も学校は休んでもない。けど結構話してた女子の友達からは
すごい目で見られたり見られなかったり。まあ、そりゃそうだよね~。
動物でいう盛りの時期だから高校生って。「この子やったんだ~」みたいな目を顔にも腹にもどっち
にも見てくる。
いいじゃん。ってまあ良くはないんだけど。
グラウンドの中央部分には少し雪が積もっている。その円周を走っている陸上部たち。
走っている加藤の後ろから追いつくように駆けてくる音が。
「よう加藤」
「よう」
加藤はそう静かに答える。
「聞いたぞ。あの妊娠してる子供って加藤のなんだろ?」
「・・・・ああ」
顔を朱色に染めているが寒くて染まっているのか、わからない。
「すげーな」
「俺もよくわかんねーけど」
「わかんねえわけねえじゃん」
「・・・・・・・・・」
沈黙を続けて加藤は勢いよく走り出した。