13.大輝
加藤大輝はベットで横になっている。
部屋はまっくらなままだ。加藤の顔はスマホの顔で照らされ、
液晶画面をスクロールしている。それに加えて両耳はイヤホンでふさがれている。
「大輝~!ごはんだよ~」と下から母が呼ぶ声がした。
その声は毎日加藤家で聞かれている声だ。しかし大輝にはその声はきこえてない。
「ったく」
そういって階段を上っていく。
トントンと部屋のドアが叩かれる。
「大輝、夕食だから、降りてきて」
大輝はぐったりと前腕を目に当て、音楽を嗜んでいる。
「ちょっと」と母が叩くとびっくりするように、うお!と軽く叫んで、イヤホンを外す。
「ごはんだけど。」
「ああ、いいやきょうはオレ、なんか食欲ないからさ」
「せっかく好きなおかず買ってきたのに」
母は別に料理ができないわけではない。けれども仕事の都合上、お惣菜で夕食はほとんど
済ませている。
「ごめん」と続け、部屋を後にしようとする母親。しかし立ち止まり振り向く。
「そういえば兄さんから聞いたけど、先週か今週、女の子、来たんでしょ?」
「はあ!?」
そういうところだけはすぐにちくる兄だ。
「まあ、そうだけど・・・」
「彼女?」
「ま、まさか、そんなんじゃねえよ。ただ学校で貸してたやつかえしにきてもらっただけだよ」
「あら、そうなの」
その声はなんだか疑わしさを感じた。
だって言えるわけがない。同じクラスの女の子を妊娠させたなんて。
加藤はそのままうつぶせになり、まくらに突っ伏した。