10.みさき家の会話
「昔がどんなに取り付けるの難しかったか教えてやりたいよ」
と父が疲れた声で言う。
父は電気機器を家に取り付けに行く仕事をしている。
最近は取り付けが簡単になり、昔の自分の努力が意味がなくなったと嘆いているのだ。
これでも父はもともと、学校の先生をしていた。安定してた職業だったんだけどねー。
でも今はその時の奥さんとは離婚して、違う人と再婚した。
だから私のお母さんとは一緒には暮らしてない。
私もそれでいいと思ってるし。
「それでみさき、学校での作戦はどうだった?」
父はこういっていろんなことを映画風に「作戦はどうだった?」ときいてくる。
そしてみさきもそのノリに毎回付き合う。
「どの作戦でありますか?学校をどうさぼるかの作戦ですか?それとも友達が席に座る瞬間に
椅子を引いてすってんころりの刑にする作戦でありますか?」
「みさき、もしかして学校のテストの成績表捨てた?」
「え・・・いや」
「もしかして勝手に判子押した持ってたの?」
「いや~、判子押したというか、勝手に判子を押されたというか」
「誰に」
「みずきかな~」
「んなわけないでしょう・・・・で、判子はどこやった?」
?と顔でつくり、目を大きくしてとぼける。
「あれ、確か、部屋に、いや学校にあるかな?」
おそらく判子をなくしてしまった。
「はあー、無くしたなら自分で買ってきてね。」
「はいはい、ほらミナ、ちゃんと食べな」
妹がしっかりもっていないスプーンをしっかりと握るように言う。
まあ、本当の妹ではないんだけどね。
父と母が再婚してできたかわいい妹。別に血がつながってないからとか、
変な嫌悪感はもっていない。だって普通に可愛いんだもん。
明日は土曜日で、みずきと遊びに行くと両親には話を通している。
けども、本当に行くのは婦人科だ。
できるだけ知人には会いたくないので変装もどきみたいなことをしていこうと思っている。