本当の桃太郎
むかし、ある所におじいさんとおばあさんがいました。
おばあさんが、川から流れてきた大きな桃を家へと持ちかえって、割ってみると、丸々とした子がでてきて、
桃太郎とよばれ、かわいがられ、個性とわがままの区別のできない村の教師に”正義”というものを
教えられ、大きくなるにつれ仲間を集め、犬や猿、きじのような顔をした、ならず者たちをしたがえて、食うこととあそぶことを人生のすべてとし、空に向かって、”正義””正義”と何度もさけんでは、日をすごしていました。
そんなある日”鬼ヶ島”という所に鬼が住んでいるときき、鬼は悪いやつだから殺してしまわなければならないと思い、じいさんばあさんに、そういえば二人とも自分たちの生活以外、何の関心も興味もなく「おまえが、いきたければ、いけばいいよ。」といいかげんな返答をしてしまいました。
さっそく桃太郎は、ならず者たちに、ほうびをやるといって誘い、時をおかずに、鬼ヶ島へと、船にのって出発しました。
さて、こちらの鬼ヶ島の鬼たちは、みんな頭に小さなツノがはえていて、何となく、こわそうですが、島全体、しずかに平和に暮らしていました。しかし、一口に平和といっても、昔も今も、平和というものを実現するのは、とても難しいことだと思います。それがいかにむずかしいかということは、人間の歴史を少し読めばわかります。
鬼たちが平和に暮らせるのには、わけがありました。それは彼らすべて、自分たちは鬼であり、鬼は悪であり、自分たちは、まわりの国の人間はより劣っている、生きている価値の少ないものと、そんなふうに思っていたのです。だからどんな時でも、自分より他人を、何にもまして大切に思い大切に考えて生きてきました。だから桃太郎が攻めてくるときいても、誰も逃げようとせずに、島のまん中にある小高い丘にみんな集まって、じっとしていました。
しばらくして桃太郎は、犬猿きじの他、大ぜいの手下をつれてその丘にのぼってきました。そしておとなしくしている鬼たちに向かって、こう言いました。
「私は、桃太郎とよばれている英雄です。正義の味方です。正義は必ず悪を滅ぼさなければなりません。だから鬼であるあなた方すべて、一人のこらず、ここで今、殺されなければなりません。なぜなら鬼は悪い生きものだからです。私はそう教えられてきました。私は平和がすきです。私は肌の白い人間が好きです。おいしい食べ物がすきです。きれいな服がすきです。でも、あなた方、鬼は頭にツノがはえていて、肌は青黒く、髪はバサバサしていて美しくありません。ですから私はきらいです。それはあなたがたが悪だからです。
ここまで言って桃太郎は、ある合図をしました。すでにとり囲んでいた手下たちは、燃える油を、鬼たちにあびせて火のついた矢を、いかけ、鬼たちを焼き殺してしまいました。鬼たちは手を合わせたまま、次々と黒こげになっていきました。
でも、ここに運よく深い穴におちてしまって、殺されずにすんだ鬼がいました。
桃太郎たちは、とても満足そうな顔をして鬼たちの住んでいた村に入り、彼らの宝物をすべて奪って船にのって帰っていきました。
その後、しばらくして陽がしずみ、その後はよく晴れて、星がいっぱい空にあふれ、風が強くふきぬけて、山のようになって積まれた、ほとんど灰になってしまった鬼たちの死体は、海に向かって強く吹く風にのって、徐々にこわれはじめ、くずれていって、やがて、ばらばらになり、粉のようになって、夜の闇に、白く吹くすさぶ粉雪のように、舞いおどってように見えました。
一人生き残った鬼の小さな娘は、とびすさぶ村の人たちの灰になって散るその様を見上げながら、生まれてはじめての涙が、両の目にあふれ出ました。そして、いったん流れはじめた涙は、止めることができなくなり、やさしかった父や母、かわいい弟たちとの楽しいを暮しを思い出し、泣きながら、大地の上をのたうちまわりました。
その頃、桃太郎の国では上空、大きな花火が次々に打ちあがっていました。
娘は、泣きに泣いたあと、はじめてあることがわかりました。
自分たちがここ鬼ヶ島で生まれたからといって、それは決して悪いことでも劣ったことでもなかったのだということを。
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その夜から、ちょうど十年たったある風の強い夜のことです。世界中を支配して丸々と太った桃太郎は、微笑みながら孤り大きな家に住んでいました。疲れたので、そろそろねようとすると、どこから入ってきたのか、ツノをはやした、すさまじい程の美しい長身の女が目の前に立っていました。
桃太郎は、その女を見て、あまりの美しさに目がくらみ、その女を欲しげに両手をさし出し、すぐそばに近づいていきました。その様をみた女は、ニコリと笑みをうかべ、その笑みの一瞬、鋭い光が走り、桃太郎の首は胴体から離れ、その頭は、ごつっと音を立て、床に落ちていき、へやのすみまで転がっていきました。




